"良い異業種転職"を考えよう
転職市場が広がるにつれて、その数が増えていく「異業種」に転職する人。日本の働き方や働きがいが変わりゆく中で、中途採用=即戦力という図式はすでに当てはまらない部分も出てきていると言えるでしょう。その先端にいる異業種転職者を今回はOpenWork社員クチコミデータから考えてみたいと思います。
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人手不足や産業構造の変化、そして何より45歳希望退職制度の広がりに代表される終身雇用制度の終焉に影響されて、日本の転職市場が広がっています。転職市場が広がるにつれて、当然ながら同時にその数が増えていくのが異業種に転職する人です。日本の転職においては、自分のスキルを活かす「即戦力」として活躍が転職者に期待されていましたが、その場合は自己のネットワークやノウハウが最大限活用できるはずである同業種転職が有利なはずです。しかし日本の働き方や働きがいが変わりゆく中で、中途採用=即戦力という図式はすでに当てはまらない部分も出てきていると言えるでしょう。その先端にいるとも言える異業種転職者。今回はOpenWork社員クチコミデータから、「良い異業種転職」について考えてみたいと思います。
異業種転職は年収の上がり幅が小さいが会社の評価はより高まる
まずは異業種転職について把握します。同業種転職者と異業種転職者の比較(i)では、年齢には差はなく、性別にも大きな差はないですが、年収の上がり幅は同業種転職の方が大きい状態です。他方で、残業時間は双方ともに減少傾向にあります。
それでは、転職後の会社への評価の変化はいかがでしょうか。総合評価で比較すると異業種転職者の方がより評価がやや高まりやすいことがわかります(同業種転職者は転職前後で+0.03、異業種転職者は+0.05)。
内容を見てみましょう。待遇面の満足度スコアでは、年収がより増加しやすい同業種転職の方が大きく増進していますが、社員の士気、風通しの良さ、20代成長環境といった各スコアにおいて異業種転職者がより会社への評価が高まりやすい傾向を示しています。
異業種転職が成功しやすい業種とは
異業種転職は年収が高まりにくいが、会社への満足については大きな差がないことが全体の状況としてわかりました。それでは、その転職先の「業種」は転職者にどのような差を生み出しているのでしょうか。
まず、異業種転職時の転職元の業種別で総合評価の変化を整理しました。大きく増加している業種は、「転職したら元の会社よりも次の会社の方が評価がより高かった」ことを意味しており、特に大きな増加がみられるのは、住宅設備、建材、エクステリア、印刷、紙・パルプ、機械関連、銀行(都市・信託・政府系)、信金となっています。
さて、今回のメインのテーマは「より良い転職先」です。転職先業種別に、スコアの増減を見てみましょう。
異業種転職先としてより会社への評価が高まる傾向を示しているのは、コンサルティング、シンクタンク、人材サービス、情報サービス、リサーチ、生命保険、損害保険といった業種であることがわかります。
こうした業種は他の業種と比較して、異業種転職者が高く評価しやすく、わかりやすく換言すれば「異業種転職先としてオススメの業種」と言えるかもしれません。
他方で、なぜオススメできそうなのか、という点についてはより詳細な分析が必要になるでしょう。そこでさらに踏み込んだ分析を行います。
成長環境で選ぶか、待遇満足で選ぶか
異業種転職者のスコアの詳細を分析すると以下のようになります。全体としては待遇面や法令意識、そして評価の適正感を増進する転職となる結果を、異業種転職者は選択していることがわかります。
先ほど「オススメの異業種転職先」として出てきた4業種について、この項目についてみてみましょう。
4業種について大きく2つの傾向があることがわかります。コンサルティング、シンクタンク、人材サービス、情報サービス、リサーチについては、「20代成長環境を中心に、社員の士気や風通しの良さ、人事評価の適正感のスコアが高い」異業種転職先としてのモデル。生命保険、損害保険については、「法令意識を中心として、待遇面の満足度や人事評価の適正感のスコアが高い」モデルです。
大きく言えば、前者は「異なるフィールドでの早期の成長環境を求めて、職場で自分が活躍できるかを追及する」異業種転職先と言えるでしょう。そのためには、人材サービスや情報サービス、リサーチでマイナスに出ているとおり、人材の長期育成面については切り捨てて考え、またコンサルティング、シンクタンクでは法令意識がマイナスとなるなど、あくまで結果責任が問われる世界に飛び込んだ上での、高い企業評価となっています。
他方で後者については、全く異なる形で高く評価されています。「異なるフィールドでしっかりと法律を守って、そして十分な待遇を受けて仕事をする」異業種転職先として高評価を得ているとでも見られるでしょうか。この点では、ある種の「リセット」としての意味でが、異業種転職にはあることがわかります。つまり、違う業種で今までのネガティブな仕事を「リセット」して、しっかりと働くという機能を持っており、その代表が生命保険、損害保険業となっていると言えそうです。
広がり始めた転職市場。これまで即戦力採用市場であった転職市場の性質に変化がおとずれており、特に異業種転職は大きく広がっています。今回提示した類型のような企業がさらに広がっていけば、日本人のキャリアづくりはより多様で面白いものとなっていくことでしょう。
(i)雇用形態が正社員の者について集計し、同一個人が二回以上回答しているケースにおいて、1回目の回答企業と2回目の回答企業を比較したデータを集計。同業種転職か異業種転職かの判定には、本稿で用いた業種分類を使用し、当該分類で同一の業種の企業に回答している者を同業種転職者と定義している。回答時点は2016年~2018年。
このレポートの著者:古屋星斗氏プロフィール
大学院(教育社会学)修了後、経済産業省入省。産業人材の育成、クリエイティブビジネス振興、福島の復興支援、成長戦略の策定に携わり、アニメの制作現場から、東北の仮設住宅まで駆け回る。2017年、同省退職。現在は大学院時代からのテーマである、次世代の若者のキャリアづくりや、労働市場の見通しについて、研究者として活動する。非大卒の生徒への対話型キャリア教育を実践する、一般社団法人スクール・トゥ・ワーク代表理事。