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営業、企画、コーポレート…。職種でみる、会社の見え方

2019.12.19 05:00

職種の違いは会社の見え方に対して、どのような関係を持っているのでしょうか。今回はOpenWorkの社員クチコミデータを分析することで、知られざるその関係を明らかにしたいと思います。


日本の就職は「就職ではなく就社である」、と言われることがあります。「職」に就く、職業や職種に就くのではなく、会「社」に就く特徴があることを指した言葉ですが、就職するとジョブローテーションや出向、転勤などを通じて、職種横断的なキャリアを積む社会人が多いことは日本の就業社会の特徴であると言えるでしょう。労働政策研究・研修機構所長の濱口桂一郎氏が提唱するメンバーシップ型とジョブ型の就業システムの考え方では、日本はメンバーシップ型であると言われるように、「会社に入る」という意味が強いのが日本における就職です。


他方で、転職市場の拡大や社会人の専門職志向の高まりなど、自身の専門性や「職種」を重視する動きも顕在化しています。また、これからの就業社会においては、一括採用からのジョブローテーション型の「大器晩成」を前提とする育成手法では、「配属ギャップ」「配属ガチャ」という言葉が一般化している若手の早期離職は止められないでしょうし、なにより変化の激しい時代に人で勝つ会社になることはできません。職種の違いというファクターは、日本社会においてこれまで以上に重要性を増しつつあると言えるでしょう。


さて、それでは職種の違いは会社の見え方に対して、どのような関係を持っているのでしょうか。今回はOpenWorkの社員クチコミデータを分析することで、知られざるその関係を明らかにしたいと思います。


若手のプロパーが多く、残業が長く、スコアが低い営業職

まず総合的な要素について比較してみたいと思います。今回比較するのは、オフィスワーカーを代表する3職種である、営業系職種と企画系職種、そしてコーポレート系職種です(なお、職種については、営業系職種は営業・営業担当・営業部・法人営業・個人営業・海外営業等々と回答した者が、企画系職種には企画・企画職・企画部・戦略企画・商品企画・新規企画等々の回答者が、コーポレート系職種にはコーポレート・管理部・法務・経理・財務・総務等々の回答者が含まれています)。

これを見ると、特に推察されるのが営業職の状況に課題があるだろうということです。営業職は、「若手のプロパーが多く、在籍年数も短い」という特徴があることがわかります。これは多くの企業において、研修明けの最初期の配属先を営業職としていることが反映されているものと考えられます。他方で、営業職は残業時間が他の2職種と比較して長く、総合スコア、NPS(ネットプロモータースコア)といった会社に対してのスコアが低くなっています。特にNPS(会社への就労を友人・家族にお勧めできるか度合い)は非常に低く、「若手×プロパー」という会社が最も大事にしたい社員層にも関わらず会社へのロイヤリティやエンゲージメント水準が低いという結果になっています。


他方で、コーポレート職については、平均年齢が最も高いにも関わらずプロパー比率が低く、「専門職化」が進行していることがわかります。企画職は営業職とコーポレート職のちょうど中間のようなデータになっています。


どんな点に違いがあるのか

では、職種別の企業スコアの差のもととなっているのはどんな要素なのでしょうか。下の表に整理しています。

この分析からは、営業職の特徴がはっきりと浮かび上がっています。つまり、「人事評価の適正感は他の職種に比べて高いが、待遇には不満(そして会社の法令順守意識が低いと感じている)」という特徴です。会社の評価の適正感は高いと感じるが、待遇には不満、というのは一見矛盾するようですが、これはまさに営業職の特徴でもある実力主義、一定の成果主義から、評価の仕方は明確だが待遇自体に満足はできない、という状況を表しているものと考えられます(また、法令順守意識についても同様に、「成果を出したもの勝ち」文化に起因すると推察されます)。


また、コーポレート職については、企画職と比較しほとんどのスコアが低いですが、待遇の満足度と人事評価の適正感の両スコアのみ高くなっています。これも、職務分掌がはっきりしており「自分自身の仕事を範囲内でしっかりとこなし、自分のミスは自分の責任」という意識の高いジョブ型就労・専門職化の表れとみることができるでしょう。


営業職種の会社へのスコアを高めるためには

ここまでで、営業職に大きな課題があることが見えてきました。最後に、営業職の会社へのスコアを改善するためにはどのようなポイントがあるか考えてみたいと思います。営業職に限定して、属性別に平均総合スコアを整理したのが下の図表です。大きなポイント差がついているのは、残業時間や有給休暇取得率、そして年収といった要素であることがわかります。

では、更に残業時間・有給休暇取得率と年収について考えてみましょう。「働き方優」の営業職の人(有給休暇取得率50%以上、かつ残業時間月50時間未満)と「働き方劣」(有給休暇取得率50%未満、かつ残業時間月50時間以上)の営業職の人を、それぞれ年収600万円以上・未満で整理した総合スコアを以下の表にまとめました。

ここからは意外な事実が浮かび上がってきます。「働き方劣」で年収が600万円以上の営業職の人よりも「働き方優」で年収が600万円未満の営業職の人の方が総合スコアは遥かに高いのです。


営業職種の会社へのエンゲージメント水準改善には、待遇よりなによりも、働き方に対するアプローチが効果ありと言えそうです。


このレポートの著者:古屋星斗氏プロフィール
大学院(教育社会学)修了後、経済産業省入省。産業人材の育成、クリエイティブビジネス振興、福島の復興支援、成長戦略の策定に携わり、アニメの制作現場から、東北の仮設住宅まで駆け回る。2017年、同省退職。現在は大学院時代からのテーマである、次世代の若者のキャリアづくりや、労働市場の見通しについて、研究者として活動する。非大卒の生徒への対話型キャリア教育を実践する、一般社団法人スクール・トゥ・ワーク代表理事。