憲法のお勉強 第17日
4 人権の享有主体性
※人権は、人種・性別・身分などの区別に関係なく、人間であることに基づいて当然に共有できる権利である。
・「国民は、すべて基本的人権の享有を妨げられない」(11条)としている。
※日本国憲法の第3章には「国民の権利及び義務」とあります。
⇒問題となるのは,法人,外国人,未成年,天皇,公務員,在監者です。これらについては,いずれも,性質上可能な限り,人権享有主体性があると解されている。
1 天皇・皇族
(1)人権享有主体性
※天皇・皇族だからと言って、国籍がないなんてことはなく、天皇・皇族は日本国籍を有する日本国民であることには変わりがありません。
⇒そうであるならば、我々通常の日本国民と同じように人権保障を受けられるとしても問題は無いのかという問題。
・天皇は、1条で謳われている通り、象徴としての地位にあります。
※学説の整理
(A説)天皇・皇族包含説
※天皇および皇族ともに「国民」に含まれるとする見解
〈理由〉
①「天皇の地位を占める人は、内閣総理大臣ないし最高裁長官の地位を占める人と同じく、日本の国籍を有する日本国民であるから、特別の反対の理由が存しない限り、(憲法)第3章に言う『国民』に含まれる」ものと見るのが自然である。
②天皇を国民に含まれないという命題は、単に無用ばかりでなく、かえって、天皇についての特別扱い(特例)を必要以上に大きくすることの根拠とされる可能性をもつ点において、妥当ではないとする。
(B説)天皇非包含説(伊藤)
【結論】
※天皇と皇族に分けて、天皇は特殊な地位を有する。
⇒一般的には、「国民」には含まれない。第三章の規定は、可能な限り適用がある。
皇族は、当然「国民」に含まれると考えられるが、皇位継承の関係性があり、多少の変容を受ける。
【備考】
・人が生まれながらにして、有する権利・自由は、その趣旨が天皇にも及ぼされるとする。
【理由】
① 人権享有主体としての「国民」は、国政を動かすものとしての国民(天皇を除く主権者としての国民)である。
⇒天皇は特別な象徴であり、国政のあらゆる能動性を有しない。
⇒国民には含まれないという考え方。
② 天皇以外の皇族は国民に含まれるが、皇位継承の資格を有していることから特殊な身分である。
⇒天皇との親近性の度合いのよって、天皇に準ずる制約を受ける。
(C説)天皇・皇族非包含説
【結論】
※天皇・皇族ともに「門地」のよって国民から区別された特別の存在であって、「国民」に含まれないとするもの。
【備考】
・この見解も、B説と同様に、世襲の天皇制の維持のとって必要最小限のものを除き、天皇・皇族は一般国民とできるだけ同様に扱うことが望ましいと説かれる。
【理由】
※憲法が近代人権思想の中核をなす平等の人間観とは異質の、世襲の「天皇」を存続させ、天皇・皇族も現行法上一般の国民と相当異なる取り扱いを受けている。
⇒人権享有主体としての「国民」に含まれるとした上での特例としての合理的に説明できるか疑問とされる。
(2)制限される人権の範囲
1、天皇及び皇族も日本国籍を有し、日本国の構成員という意味での国民であるが、憲法第3章の人権享有主体としての「国民」にも含まれるか。
※問題は、憲法及び法律によって、天皇・皇族には一般国民にはない特殊な法的地位が与えられているところにある。
(a)選挙権
1、天皇は、憲法上は国民ではないということ。であるので、天皇には憲法上の国民の権利は保障されていない。
⇒そして、皇族も天皇の一族であるため、天皇ほどではないにしろ、憲法上の人権規定の保障が制限されている。
2、また、公選法が戸籍法の適用を受けない者の選挙権・被選挙権を停止している。
3、天皇も皇族も戸籍法の適用を受けない(戸籍がない)という意味でも、選挙権・被選挙権はないことになる。
(b)その他の人権
1、職業選択の自由、婚姻の自由、外国移住の自由などは認められていないし、表現の自由も制限されている。
2、天皇も人権の享有主体とはなりうるが、立場・職務の特殊性を考慮すれば、必要な範囲での人権の制限は許される。
2 法人
(1)法人の人権享有主体性
※法人は人権享有主体と言えるか。第三章表題の「国民」は本来自然人をさすと思われ、問題となる。
⇒たしかに法人は自然人ではないが、社会的実在として、社会にとって大きな役割を担っているので、人権を保障するべきである。
(たとえば、宗教団体に信教の自由、営利企業に経済的自由権、学校法人に学問の自由などが保障されないならば、その本来の目的を達成できないことからも、人権は保障される必要があるとする)
※しかし、自然人ではないという性質上の制約はあるため、人身の自由や生存権、選挙権、被選挙権などは認められない。
⇒人権規定が本来自然人を対象にしていることは疑いないが,その他に法人を適用対象としているか?
判例は、「憲法第 3 章に定める国民の権利及び義務の各条項は,性質上可能なかぎり,内国の法人にも適用される」
(八幡製鉄所事件:最判昭 45.6.24)
※権利の性質上法人に適用されない人権規定の例として,参政権(15 条,93 条2 項),人身の自由等があげられる。
【Q2】人権規定は法人にも適用されるか。
〈A説〉肯定説(通説)
【結論】人権規定は性質上可能なかぎり法人に適用される。
【A―1説】宮沢・長尾
根拠
:法人の活動は自然人を通じて行われ、結局その効果が自然人に帰属するものである。
批判
:憲法の基本的人権規定は、本来公権力との関係で、国民の権利と自由を保護するものと考えられてきたが、資本主義の高度化に伴い、社会的権力による人権侵害が問題とされるようになり、私人による人権侵害に対しても、何らかの形で憲法の人権規定を適用すべきである。
【A―2説】芦部・佐藤(幸)
根拠
:法人が社会において自然人と同じく活動する実態である。特に現代社会における重要な構成要素であることを主たる根拠とする。
批判
:法人が社会において自然人と同じく活動する実態であるということは、フィクションに基づくものにすぎない。
【※法人の人権享有主体性】
1.問題の所在
※憲法の基本的人権の諸規定には法人にも適用されるのかという問題。
⇒憲法にはその規定がありません。
・ちなみにドイツ憲法はその19条3項で明文でこれを認めており(阿部=畑・世界の憲法集参照)、アメリカでも判例で法人への適用が認められている(長尾.日本国憲法)。
※この問題については厳密には、公法人と私法人とに分けて考えなければならないのですが、通常は「私法人」について議論されているので、ここでも私法人を念頭に考えてみる。
2.学説
(1)否定説は法人の人権享有主体性を認めていない。
⇒人権宣言は本来自然人と念頭に置いたものであるからというもの。
しかし、市民革命時代の昔と異り、自然人の活動が法人ないし団体を通じて行われることが多くなって来ると(経済活動は会社を、政治活動は政党を通じて行う方が効果的だと気がついて来たからです)、法人への人権保障を否定すると結局それを構成する自然人にも人権保障が及ばなくなってしまいます。
(2)そこで今日の通説.判例(最S45.6.24・八幡製鉄政治献金事件)は肯定説を採り、法人にも「性質上可能な限り」人権規定が適用されるとしている。
⇒法人にも裁判を受ける権利や国家賠償請求権は当然認められるし、宗教法人が信教の自由を、報道機関が報道の自由を有することも当然だと言う訳になる。
しかし、法人には肉体がありませんから、生命や身体を前提とする生存権や人身の自由権などが認められないことは「性質上」言うまでもないということになる。
(2)享有する人権の範囲と限界
(a)享有する人権の範囲
①法人にも当然に認められる人権
・経済的自由権、法の下の平等、国務請求権、通信の秘密、刑事手続上の諸権利
②法人に認められない人権
・ 一定の人身の自由、社会権、選挙権、被選挙権
③問題となる人権
(幸福追求権、精神的自由権) 信教の自由(○)
学問の自由(○)
集会・結社の自由、表現の自由(○)
政治資金の寄附(判例は肯定している)
プライバシーの権利・名誉権(○)
環境権(○)など
(b)享有する人権の限界
(ⅰ)法人と法人の外にある個人との関係
※特に巨大な団体との関係においては、その巨大な社会的権力に対応して経済的自由権や政治的活動の自由について、自然人と異なる規制を受ける。
⇒法人の経済的自由権については、人権の実質的公平を確保しようとする社会国家の理念に基づいて、自然人よりも広範な積極的規制を加えることが許される。
・精神的自由についても、たとえば政治的活動の自由のような領域においては、自然人よりも制約を受ける程度は当然に強いとみるべきである。
(ⅱ)法人とその構成員との関係
※特に法人の表現の自由とその構成員の表現の自由や思想・信条の自由との調整が必要となる。