ショートショート141~150
141.「今日は客が来るから遊べないんだ」
そう言っていた友人が、翌日心肺停止で亡くなった。
椅子に座り亡くなっており、机には彼のカップと飲み干された来客用のカップ、そして何故か遺書があった。
誰が来たのか、何故自分が死ぬ時がわかったのかは知らないが、死に顔は安らかだった。
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142.満月の夜
バケツに水を汲んで満月を捕まえた
しかし、
「私はね、本物なんですよ」
とバケツの満月が言うので
あぁこれは偽物を摑まされたと
一気に美しさを失った月を
私は流したのだ。
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143.夜、部屋でストローを覗いてみると外の景色が見えた。
暗いが見覚えのある、ここは学校近くの道だ。
遠くから同じ制服の子が何人か歩いてきて、目が合った途端全員叫んで逃げていった。
次の日学校に行くと「学校近くの道で巨大な目玉が浮いていた」という噂話で持ちきりだった。
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144.その山奥の廃寺には、無数のロープが垂れ下がっていた。
輪っかを下にしたそれは、風が吹いたためなのか、ゆっくりと揺れ始めた。
ぐらん、ぐらん
ふと、寺の奥を見ると揺れていない一つのロープが見えた。
椅子と共に月光に照らされたそれは、まるで私を待っているかのようで
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145.深夜に大雪が降った。
早朝、窓を開けると一面の銀世界、とその上をスルスル歩く着物姿の女性がいた。
なんとも神秘的な風景に見惚れていると、女性が此方を向いて微笑み、ズルリと足から雪の中へ入ってしまった。
驚いて駆け寄って、気が付いた。
この雪の上を沈まずに歩くのは不可能だ。
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146.両親が1週間程前から行方不明らしい。
だがおかしい、私はつい先日実家に立ち寄り、両親に会ったばかりだ。
急いで実家へ戻ると、誰もいない暗い廊下に、両親の顔をしたゴムマスクが2つ落ちていた。
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147.夜中ここの高速道路を通ると工場地帯が見える。
緑のライトに照らされたそれは、無骨な美しさがある。また巨大な煙突が煙を出す姿もかっこいいのだ。
しかし最近、その工場地帯には巨大な煙突はない事を知った。昔あったが火事で無くなったそう。
今夜もその工場地帯は完璧な姿で働いている。
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148.霧の深い夜、僕の街にはカーニバルがやってくる
それは何処からともなく現れ、
ドン、ドンという大太鼓を合図に
壮大で煌びやかなマーチが始まるのだ。象を引き連れ、紙吹雪を舞わせ…
だが皆は知っている
このカーニバルについて行った人が戻ってこない事を
今夜もカーニバルがやってくる
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149.最近、ポルターガイストが起こる。
花瓶が倒れたり突然ものが落ちたりするのだ。
ある日ふと気付いた。これは亡くなった母の仕業ではないかと。
きっとろくに実家にも帰らない私を心配してるんだ。
私は母の写真を飾り、手を合わせた。
その瞬間写真が誰かに払われたかのように飛んで行った。
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150.火事になった家の2階で、手を振る女の子がいた。
野次馬も消防士も、家主さえもそれを見上げ、動けずにいた。
その女の子は影絵人形であった。
切り抜かれた丸い目、三日月の様な口、そして下から伸びる棒に操られて手を振っていた。
鎮火後、その人形は見つからず、また家主に娘はいない。