社員クチコミが「成長する企業」を見分けるカギになる(vol.43)
大手金融機関が投資に活用。AIで変わる「社員クチコミ」の価値
要旨:
- Vorkers(現:OpenWork)の社員クチコミから、企業の組織文化の良さを定量化した「VCPC組織スコア」を開発。
- 「VCPC組織スコア」と、将来の企業の業績や株価変動には相関性があることが確認できた。
- 「VCPC組織スコア」は株式運用、企業評価、リスク管理等、広範な金融分野について、有用な指標となりうる可能性がある。
企業の信用評価や分析にビッグデータが活用されている昨今、Vorkers(現:OpenWork)においても、日本株式を投資対象とした資産運用を行う金融機関へクチコミデータの提供を行っています。
従来の企業評価では、財務などの定量情報が広く利用される反面、“組織文化”や“社風”などの定性情報はほとんど活用されてきませんでした。これまで数値化できなかった定性情報をクチコミデータの機械学習により定量化し、組織力や経営力を測定することで、より高いレベルの評価判断が行なえるだろうと考え、Vorkers(現:OpenWork)では1年前から独自の研究をスタートしました。
今回の調査レポートでは、Vorkers(現:OpenWork)がクレジット・プライシング・コーポレーション社と協力し進めてきた「社員クチコミと業績・株価の相関」についての研究結果を発表します。
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研究内容と検証について
Vorkers(現:OpenWork)に投稿されたクチコミデータから各企業の社風や組織文化に関するクチコミを抽出し、ディープラーニングを用いた分析を加えることで、その企業の定性情報を定量化することを可能とした指標として「VCPC組織スコア」を開発し、このスコアと業績や株価の相関関係を検証しました。(VCPC組織スコアの開発方法については後述)具体的には、VCPC組織スコアを用いて約3000社の企業の定性情報を測定し、実際の中長期の業績と比較検証を行いました。
その結果、たとえばある業種の企業のVCPC組織スコアを測定した後、各企業の業績を業種平均ROAと比較すると、VCPC組織スコアの上位、中位、下位のグループごとに、5年先の業種平均ROAを上回る会社数の割合は明解に異なってくることがわかりました。VCPC組織スコアが高い企業ほど、過去及び将来における収益性は高くなる傾向にあります。
つまり、VCPC組織スコアを用いることで企業の中長期的な成長力を測ることができ、5年、10年といったスパンで“いい会社”であり続ける「業種内の勝ち組」となる企業の選別を行える可能性があります。
また、株式リターンにおいてもVCPC組織スコアは有効です。2008~2016年のマーケットデータを元に、期初の財務状況とVCPC組織スコアの高低から、対象企業を4つのグループに分けて1年後の株のリターンを評価したものが下図です。
もっとも超過リターンの多いグループ2は、開始時点の財務が良くないが、 VCPC組織スコアが高い(組織文化が良い)集団となります。同じく期初ROAの低いグループ4との比較から、VCPC組織スコアの分離性能の高さが確認できます。
1年後の実績リタ-ンが最も高いのは、期初のROAは低くても、VCPC組織スコアが高かった企業群(図中のグループ2)であることがわかりました。
VCPC組織スコアの開発について
クチコミデータに対し、ディープラーニングを用いてポジティブorネガティブの判定を文章ごとに行ないます。それぞれにポジティブ確率を付与し、投稿の裏に潜む構造を解析し、その結果を企業ごとに集計したものが、VCPC組織スコアとなります。
テキストマイニングでは、約2万文章の学習データによってモデル学習を行ない、さらに約5万文章を使ってそれを検証。その上で、約3000社分の計53万クチコミほどのデータを解析し、定量化しています。
つまり、学習データでモデルを作り、検証データで精度を検証し、さらに実際のクチコミデータを適用データとして用いることで、VCPC組織スコアを作成しています。その結果、検証データでのポジティブ・ネガティブ判別精度はAUC(Area Under the Curve)で87%と、極めて高い水準にあることが確認できました。
また、クチコミ評価というのはどうしても、投稿者が多くなるほど個性が埋没してしまう傾向がありますので、そうならないためにスコアの作成には機械学習やディープラーニングだけでなく、確率統計解析や時系列分析など技術も取り入れています。
金融機関が社員クチコミに注目する背景やデータ活用の可能性について、同志社大学の津田教授よりお話を伺いました。
1959年生まれ、京都府出身。京都大学工学部卒業、東京大学大学院工学系修士課程修了。総合研究大学院大学数物科学研究科博士課程修了、博士(学術)。現在は同志社大学理工学部数理システム学科にて教授を務める。日本金融・証券計量・工学学会(JAFEE)前会長。
「金融マーケットに触れた人であれば誰もが実感していることだと思いますが、後に大きく伸びる企業というのは、黎明期からどこか社風が明るく、ポジティブな企業カルチャーを備えているものです。
しかし、こうした雰囲気は明確に指標化できるものではなかったため、たとえばアセットマネジメントの現場などでは、その企業の将来性を見極めるために、財務データなどに基づいて銘柄のセレクトが行なわれてきました。
それがインターネットの登場により、クチコミという形で企業内のムードが可視化されるようになり、さらにテキストマイニングの技術が発展したことから、金融機関として新たな指標を持ち得る可能性が生まれたわけです。
世界の金融マーケットでは今、その日の気象条件や天候など、あらゆるビッグデータを市場分析の指標に取り入れようと、様々な研究を続けています。そうした+αの1つとして社員クチコミは非常に有用であり、これから世界中のアセットマネジメントで活用される可能性は十分にあるでしょう。」
Vorkers(現:OpenWork)とクレジット・プライシング・コーポレーション社では、金融マーケットにおける社員クチコミデータの活用について、今後も協同して金融機関からの個別のニーズに対応し、分析ソリューションやモデル開発を行っていく計画です。
(この調査レポートは、NewsPicksの取材・編集記事に更新を加えて作成しています。)