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erizasennsei

歌う

2024.05.07 20:38

歌うとは何なのだろう。

私は、歌うとは告げることだと思っている。

話すことだ。だから、"話してはならないこと"がある時、どんなに望まれても、積まれても、歌わない。

誤解を招くのも後々その"話してはならないこと"に掠り出すなら、やはり、歌わないことだ。この世には名探偵が多いから。


疲れていた。伏せっていた。

それ以外、屍だった。

丁度良かった。体は動いた。

働いて働いて働いた。

楽しかった。

単に、澂に、人のために生きることは苦痛を忘れさせる。没頭、没入、天職である。

だけど、己の話はしなかった。

歌はことさら、歌わなかった。


歌が上手かったからここまで来たが、歌が上手かったせいでこんな生き物になった。人は言う。羨ましいと。人は言う。ずるい、と。

だから伏せっていた。だから疲れていた。そんなこと、本当は、知るかって言うんだ。なのに、ごめん、と眉が下がってしまう。甘すぎる、優しい、弱い自分。

つけこむように黴は蔓延する。

汚い埃は溜まる。


そうしていたら、一羽の鷲が、

燕の手紙を運んできた。


だから私は歌う。

6日後に。

手紙は五文字だけだった。

勇気になった。

わかったんだ。

勘違いでも、信じている時間が必要なんだと。民の竈がなんと揶揄しても、それが勘違いでも、真実が黒鳥でも、白鳥として愛でるのだ。これが一番、私にとっての治療。

だから歌う。すくむ脚を想像して、歩けさえしない気がして、震える。

それでも、フロアに入ろう。

杖でもいい。這ったって、いい。

守りたかったものたちはほとんどが死に絶え、また、ここにいない。知らない国で知らずに生きている。いつだって、そばにいなくなった者へ、人は愛を歌わずにはいられない。そんなふうに造られている。


話さなくても歌えるのだと、実証したいと思う。訳などは未知のまま、他者の誤解を招いても、名探偵が騒いでも、私は。