憲法のお勉強 第18日
※今日は人権享有主体性の判例を見てみたいと思います。
【判例セレクト①】
(1)人権享有主体性
八幡製鉄政治献金事件 【最高裁 昭和45年6月24日判決】
【事案】
※八幡製鉄(現在の新日本製鉄)の代表取締役は、同社名にて昭和35年3月14日、自民党に対して政治資金350万円寄付をした。
そこで、同社の株主が、この代表取締役の政治資金寄付行為は、同社定款に定めるの所定事業目的の範囲「外」の行為であり、その他商法違反として会社が被った損害に対する取締役としての責任追及のための訴えを起こすよう、会社に求めた。
しかし、会社は訴えを起こさないために、自ら会社に代位して、寄付行為をした取締役に対して寄付金分の350万円と遅延損害金を会社に支払うよう、訴えを提起したという事案である。
【争点】
①政治資金の寄付行為は、定款所定の事業目的内の行為か
②本件の寄付行為は、取締役の忠実義務に違反するか
③会社は自然人同様、憲法の保障する人権を享有するか
※今回の判例では人権享有主体性をテーマにしていますので、ここでは1と2は省略して3のみについて記します。
【判旨要約・解説】
一審は原告の請求を容認しましたが、二審では一審判決を取り消し、控訴人の主張を認めました。原告はこれを不服とし、上告。
○判旨(上告審)
※これらについて最高裁は以下のように答えた。
①政治献金は会社の権利能力の範囲内である。
※会社は定款所定の目的の範囲内において権利能力を有する、との前提に立ち、目的の範囲内の行為とは定款に明示された目的に限らず、その目的遂行のために直接または間接に必要な行為すべてを含む。
※会社も自然人同様、社会の構成単位であり、社会的作用を負担せざるを得ない。その負担は企業の円滑な発展に効果があり、間接的ではあるが、(定款所定の)目的遂行上必要といえる。
※政治献金も同様で、政党政治の健全な発展に協力することは社会的実在たる会社にとっては当然の行為として期待される。
②会社の政治献金は参政権違反ではない
※会社は自然人同様、納税者たる立場において政治的意見を表明することを禁止する理由はない。
※憲法第三章「国民の権利及び義務」は性質上可能な限り内国の法人にも適用すべきであり、政治的行為の自由もまた同様である。
③取締役の忠実義務に違反しない
※忠実義務は善管注意義務を敷衍し、かつ一層明確にしたにとどまるのであって、それとは別個の高度な義務を規定したものではない。
※合理的範囲内を超え、会社規模などからいって不相応な額の政治献金でもない限り、忠実義務違反とはならない。
(2)法人と法人の外のある個人との関係
(1)と同様の事件であるので省略。
(3)法人とその構成員との関係
(a)国労広島地本事件【最高裁判 昭和50年11月28日判決】
【事案】
※国鉄労働組合は、広島地本を脱退した旧組合員である被告に対して、争議行為等の資金を含む未納の一般組合費と臨時組合費の支払いを請求し、提訴した事件である。
【争点】
・組合員の組合活動に対する協力義務は、いかなる限度で認められるか
判旨要約・解説
1 安保反対といった政治的要求への賛否は
⇒組合の多数決で組合員を拘束し、協力を強制することは許されない
※費用負担にとどまるものであっても、政治活動の費用として、支出目的との個別的関連性が明白に特定されている資金についてその拠出を強制することがかかる活動に対する積極的協力の強制に他ならず、やはり許されない。
しかし、安保反対闘争に参加して不利益処分を受けた組合員に対する生活等の経済的援助、救援亜共催活動として許される
2 政治意識高揚資金に関して
⇒特定の立候補者支援のためにその所属政党に寄付する資金である