ブラック・スワン(上・下)
本書タイトルの「ブラックスワン」とは、オーストラリア大陸が発見されるまでその存在が知られていなかった「黒鳥」(実際にオーストラリアに棲息している)のことです。著者は、そこからさらに、「人間の経験、知識からは判断できない物事」、「異常で、とても大きな衝撃であるにもかかわらず、(時間の経過とともに人々が)適当な説明をでっちあげたり、予測が可能だったこととして判断してしまう事象」の意味に使っています。
要するに「不確実性」、「不確実の事象」のことです。(この不確実な物事には、良い事象、悪い事象の両方が含まれます。)
( ブラックスワン。直訳すれば「黒い白鳥」。まさに本書の内容にぴったりのタイトルですね。見事に矛盾や不確実性に満ちた世界を象徴してます。)
筆者、ナシーム・ニコラス・タレブ氏は、本書において「(人間の)長い歴史の中で、頭が真っ白になるぐらい驚く出来事がたまに起こることがある。でも(人は)時間が経って周りの状況とその事象を無理やりつなげて、あの時はあれが原因でこれが起こった、とか無理やり納得する傾向ある」(でもホントは誰もそのことが予見できなかったことは忘れてしまっている) という人間の性質を何度も表現を変えながら主張していきます。
たとえば、歴史上の事件や、「サブプライムローン危機」などの具体的事例を検証しながら、私たちの事象に対する見方の「偏差」について考えたり、我々のたてる将来の「予測」の曖昧さ、さらに、自然科学、社会科学などで論じられる「事象」の発生する限界、確率的なことも検証していきます。
ちなみにタレブ氏は、作家として異色の経歴で、いろいろな肩書を持っていて(文芸評論家、実証主義者、デリバティブトレーダー、大学教授、、)本書の内容もその著者の見識の広さ、深さがそのまま文章に表現されています。
本書は文学的な要素の他、数学や哲学の内容もでてくるので、その方面をあまり学んだ経験がない自分としては、正直一回だけの読みでは理解しにくいと感じました。
(しかし、本人はけっこう楽しんで書いているのが表現からわかるので、著者のユーモアがわからない分、少し悲しかったです。内容は違いますが、R.ドーキンスの「利己的な遺伝子」なんかも少しつらいものがあります。。)
アメリカやヨーロッパの知識人って、タレブ氏のように文学的、哲学的、科学的、論理的思考がミックスされた「知性」を持ってる人がたくさんいると思います。(っていうか、それが本物の知性なんでしょう。こういう感じの知性を持った日本人ってなかなかいないように思います。)
(本書の内容に戻りますが)でも、あまり不確実な事を深く考えて行くと、どうしても思い切った行動ができなくなり、考えも行動も保守的になっていく感じがします。どうしてもある面、消極的になってしまいますよね。
著者は自身のデリバティブトレーダーの経験から資産運用の例も出してきます。そういえば、最近のイギリスのEU脱退、トランプ大統領の誕生なんかも事前の世論調査では「起こらない可能性」のほうが多かったと記憶してますが、こんなのも「ブラックスワン」ですよね。この時、金融市場は大きく揺れましたよね。。うーん。。「不確実性」。。それもこの不確実な振れ幅がかつてなく大きくなっている現代で、この「不確実性」とどう折り合いつけて生きてけばいいんでしょうか??
(みなさんも人生なるべく平和がいいに決まってますし、資産運用なんかでは、絶対損しない方がいいに決まってますよね。)タレブさん~。何かアドバイスお願いします~。。
ということで、最後に、本書の結びの言葉をみなさんへ送ります。
「(私たちは)ただ生きているだけでも、ものすごく運がいいのをすぐに忘れてしまう。(でも)それ自体がとても稀な事象であり、ものすごく小さな確率でたまたま起こったことなのだ、、 だから小さいことでくよくよするのはやめよう。贈り物にお城をもらって、(その)風呂場のカビを気にするような恩知らずになってはいけない。忘れないでくれ、あなた自身が黒い白鳥なのだ。」
(ちょっと元気になりますね。)
(ちなみに、本書は現代の「ブラックスワン」企業、AMAZONのジェフ・ベソス氏が推薦しています。)