20代と50代はこんなに違う。“プロパー至上主義”は死んだか
日本の大企業の多くは、新卒でその会社に入社した生え抜きの社員がサラリーマン社長として経営トップを務めています。ということは、起業も転職も経験していない人が企業のトップにいるケースが多いということでもあり、“企業内特殊技能”を重要視する人事評価など、日本の大企業におけるひとつの特徴を形成しています。一方、現代は雇用情勢の好転や、「人生100年時代」のキャリア自律の重要性が唱えられるなか、転職がより一般化していると言われます。経営トップ層が“全員プロパー”という現状は一過性のものなのか。以前のこのコラムでも新卒と中途の関係について分析していますが、今回はVorkers(現:OpenWork)社員クチコミデータを用いて、年代別に会社への評価がどのように変わるのか、新卒入社者と中途入社者によって異なるのか、そしてどのような変化が起こっているのかを分析します。
50代と20代で決定的な違い
まず全体像を以下の表にまとめています。総合評価スコアを見ると、20代、30代の若い層では新卒も中途もほぼ会社への評価が変わらない一方で、40代、50代と年齢層が上がるほど中途入社者の評価が厳しくなっていることがわかります。
企業に対する全体的な評価指標である「総合評価」は年齢層が上がるごとに平均値が上がっていくスコアであることが知られています。新卒入社者の総合評価スコアは特にその傾向が強く、エンゲージメント水準は年齢層が高いほど高いという結果が見えてきます。他方、中途入社者においては年齢層が上がることによる上昇幅がよりなだらかとなっており、明らかな傾向の違いが見て取れます。
半分のスコアにおいて“逆転”が起こっている
スコアの細目を見てみましょう。8つのうち以下の4つのスコアにおいては、20代と50代で“逆転現象”が起こっています。(20代成長環境、社員の士気、人事評価の適正感、風通しの良さ)
20代成長環境スコアでは、20代においては中途入社者の方が高い状況にありますが、40代、50代と新卒入社者のスコアが非常に高い水準にあり、ほぼ横ばいの中途入社者を引き離しています。当該スコアはほかのスコアと異なり“20代”に限定した企業の風土を尋ねた指標です。このため、40代、50代の新卒入社者については“いまこの会社の成長環境はどうか”とともに、“昔、自分はこの会社でどう育てられたのか”について聞いている側面が強くあります。この結果は、自分の経験してきた育成手法について肯定的に捉えている40・50代が多いことが明確になっているといえます。他方、中途入社者の同年代では20・30代のスコア水準と変わらず、このギャップはある種の新卒入社者における“昔は良かったボーナス”といえるかもしれません。
社員の士気スコア、人事評価の適正感スコアも逆転現象が起こっており、特にこの2スコアは類似した傾向を示しています。30代までは中途入社者が高いですが、40代、50代で下がり反転します。一方で、新卒入社者においては年齢層が高いほうが高い傾向にあります。これは何を物語っているのでしょうか。
20代や30代の転職者の退職理由をみると、「自分の能力に対する正当な評価」や「働く仲間の重要性」を記載していることが多い傾向があります。そうした、自身のパフォーマンスを最大化できる労働環境を求める傾向が若手層においては特に強く、そうした人材が転職によりより良いフィールドを求めている傾向が出ているのだと考えられます。
風通しの良さスコアでは、20・30代ではほぼ同じ水準にあったのが、中途入社者は40・50代にかけて下がり、新卒入社者が上昇しています。結果、風通しの良さでは40・50代の新卒入社者が比較的高い水準にあります。“年齢層が上がること”は、役職が上がることに繋がる傾向があるため、自身の裁量権が増強されることでもあります。自分のやりたいことがやれる、言いたいことが言える、これはまさに「風通しの良さ」であり、年齢層が上がること=風通しの良さスコアが上がることは自明であると言えます。
しかし、上の図の結果は、その効果は新卒入社者に限定されていることを明確にしています。なぜ新卒入社者だけが、年齢層が上がると風通しが良い、と感じるのでしょうか。転職者が“脱走兵”であり、前職企業での競争に敗れた“敗残兵”として見られていた40・50代の一過性の現象なのでしょうか。
次の時代の組織作りのポイントとなる「風通しの良さ」と「人事評価の適正感」
最後に、年代が変わることによるスコアの動きを見てみましょう。20代と50代の中途入社者、新卒入社者のスコアをマッピングしています。
総合評価が20代→50代にかけて斜め右上方向に移動していますから、平均的には斜め上方向に移動していることがわかりますが、それと異なる動きをしているのが、「風通しの良さ」と「人事評価の適正感」です。この二つは斜め右下方向に移動しています。これは中途入社者だけが50代にかけてスコアが低いことを示しています。今後、社内の年齢構成がさらに高齢化していくことでミドル以上のスタッフの活躍が一層企業の業績に直結するようになります。その際には、もちろん中途入社者も重要な戦力です。中途入社のミドル以上のスタッフが新卒入社者と比較して相対的に不満があるのは、この2ポイントであり、言い換えればこれからできることが多い分野がこの2ポイントであると言えます。
この点についての打ち手が企業のミドルの生産性に直結するのではないでしょうか。
日本の企業組織における解決すべき大きな課題があるように思えてなりません。
このレポートの著者:古屋星斗氏プロフィール
大学院(教育社会学)修了後、経済産業省入省。産業人材の育成、クリエイティブビジネス振興、福島の復興支援、成長戦略の策定に携わり、アニメの制作現場から、東北の仮設住宅まで駆け回る。2017年、同省退職。現在は大学院時代からのテーマである、次世代の若者のキャリアづくりや、労働市場の見通しについて、研究者として活動する。非大卒の生徒への対話型キャリア教育を実践する、一般社団法人スクール・トゥ・ワーク代表理事。