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2024年3月6日ウィシュマさん死亡事件に関する名古屋テレビ報道への抗議文

2024.05.10 08:25

        2024年3月6日ウィシュマさん死亡事件に関する名古屋テレビ報道への抗議文

名古屋テレビ放送株式会社

代表取締役社長 狩野 隆也 殿

                                              2024年5月10日

                                                                       START~外国人労働者・難民と共に歩む会~

                                  代表 本間 鮎美

                                                                                             

   2024年3月6日、名古屋出入国在留管理局の収容施設内で亡くなったスリランカ人女性、ウィシュマ・サンダマリさんの3回目の命日にあたるこの日、名古屋テレビ(メ~テレ)が、「ウィシュマさん死亡から3年 医療体制を強化 変わろうとする名古屋入管に密着」と題した番組を報道しました。

 この番組は、報道機関としての社会的責任を逸脱した、悪質であり後味の悪い報道でした。なぜなら、マスコミの最も醜い興味本位の取材というスタンスと、国家権力による民族差別を根底とした死亡事件(実質的には殺人事件)とその後という題材が、あまりにもミスマッチだからです。その結果、名古屋テレビが、この事件を紹介しておきながら、被害者であるウィシュマ・サンダマリさんとそのご遺族に対して、どのように向き合おうとしているのか、まったく伝わってこない無味乾燥な報道となっていました。当然にして、この点について、名古屋入管がどう考えているのかなど、まったく捉えることができていません。入管の収容施設内で、入管が判断して単独房に収容した人を死亡させておいて、入管がその責任を認めない、それでいてどうして適切な改善ができるでしょうか。名古屋入管のあまりに技術的、表面的対応に、名古屋テレビはまんまと利用されたとしか言いようがありません。

 名古屋テレビの軽率、軽薄さは、死亡事件の事実認識にも現れています。すなわち、この死亡事件についてよく認識することなく、取材をしていたということです。たとえば、「交際していた男性のDVから逃れようと警察に相談したことでオーバーステイが発覚し、2020年8月名古屋入管に収容されました。」と報道されました。しかし、実際には、ウィシュマ・サンダマリさんは、DV被害から逃れるために、いち早く日本から脱出して母国スリランカに帰ることを考えていました。そのため、オーバーステイであることを自分から明らかにして、警察に出頭したのです。むしろ、男性からの報復を恐れて、最初はDV被害を受けていたことを隠していました。また、報道では、「当初は帰国する意志を示していましたが、コロナ禍の影響で手続きが滞り日本に残ることを希望するようになりました。」と、帰国意志を撤回した理由について、「コロナ禍の影響」だと報道しています。これも勝手な解釈であり、帰国意志の撤回の原因は、名古屋入管に収容されていたウィシュマ・サンダマリさんのもとに、あろうことかDV被害を受けていた男性から脅迫状めいた手紙が届いたことです。ウィシュマさんは当初、名古屋入管を、DV被害から身を守ってくれるシェルターのように考えていました。そこに、相手の男性から脅迫状めいた手紙が届いたことは、予想外のことであり、入管施設に収容されているにもかかわらず、身の危険を感じざるを得ない状況に追い込まれていました。今、母国に帰ったらから、殺されるかもしれないという恐怖感がウィシュマさんを支配し、帰れない、帰りたくない気持ちは日に日に高まっていました。そのような中で、STARTと出会い、ウィシュマさんは、苦しい胸の内を明かし相談できる相手が現われ、心底、ほっとしたという気持ちを語っていました。しかし、名古屋入管は、ウィシュマさんが帰国できないこと、日本に残りたいことを訴えると、「帰れ、帰れ、無理やり帰される」と、帰国同意書にサインをした時の優しい態度を豹変させ、一日中、帰国圧力を掛けてくるような状況になっていました。こうした名古屋入管の態度、対応の変化によってウィシュマさんは強いストレスを受け、食べても、水を飲んでも吐いてしまうような状態になってしまいました。これが、名古屋テレビが「食事も摂らず『拒食』と判断されたことも。」と報じたことの実際です。また、「ウィシュマさんが亡くなった時は、東京の入管庁で、新型コロナの水際対策に追われていました。」と報道されましたが、名古屋入管でも新型コロナウィルスへの対策強化が指示されていました。ところが、ウィシュマさんが体調が悪くなり単独房に移されて以降、2月に入ると体温が37.5度を超える日が続いていたのに、新型コロナウィルス検査は行われていませんでした。

 ウィシュマさんの「半年間にわたる収容生活」は、そのほとんどが24時間監視態勢下の療養生活でした。にもかかわらず、ウィシュマさんは「病死」してしまいました。突然死ではありません。徐々に衰弱していき、死亡してしまったのです。なぜ深刻な事態にありながら、点滴1本打つことなく、入院さえさせなかったのか。名古屋入管の収容責任、保護義務が問われることは明らかです。入管庁の調査報告書はウィシュマさん死亡の背景を『そもそも組織として事態を正確に把握できておらず、こうした事態に対処するための情報共有・対応体制も整備されていなかった』と指摘しています。」と、名古屋テレビは報道しています。一体、人の命を預かる収容施設において、なぜこのようなずさんな状態を生み出し、かつ放置していたのでしょうか。その責任は、名古屋入管局長ら幹部職員、名古屋入管を管理、監督する入管庁長官、さらには法務大臣においても問われるべきです。ところが、名古屋テレビは、真相究明に世論を向けさせることなく、「それまで非常勤しかいなかった医師に、2023年常勤医師が加わりました。」とか、「収容されている人の健康状態を幹部職員が医師から聞く医療カンファレンスは、2023年4月以降、平日は毎日行うようになりました。」医療に関する「職員向けの勉強会も始めました。」と改善点を列挙して、名古屋入管は「変わろうとしている」と、局長の発言だけを報道しています。問題の核心は入管組織にあるにもかかわらず、組織問題には何も触れていません。これが軽率、軽薄な報道ということです。

 名古屋入管の実際を見ていくと、「変わろうとしている」ことが、表面的なことでしかないことがさらに明らかになります。

名古屋テレビは、「名古屋入管は医療体制を強化しました。」「それまで非常勤しかいなかった医師に、2023年常勤医師が加わりました。」と報道しました。確かに、常勤医師は加わっています。しかし、現場での医療対応そのものは変わっていません。

 事例を挙げれば、ある被収容者は、虫歯が原因で血液に菌が入り込み、脳の神経まで菌が達し、頭痛が続いており、また鼻の奥に腫瘍ができて鼻呼吸がうまくできない状況でした。そのため、口呼吸をしていますが、乾燥による咽頭痛がある他、仰向け睡眠を取ろうとすると鼻腔が塞がるため、座ったような状態で睡眠を取るしかなく、十分な睡眠も取れません。また、そのため頭痛が悪化しています。 

 血圧も高く、210まで上がったこともありました。この時の名古屋入管の対応としては、血圧が200を超えたという理由で救急車を呼びました。名古屋入管には、血圧が200を超えると救急車を呼ぶという規則があるからです。ところが、救急車を呼んだ後、血圧が190まで下がっていることを確認すると、名古屋入管は救急搬送をキャンセルしてしまいました。このとき、職員からは「頑張って、頑張って」と言われるだけで、何の処置もされていません。そのうえ、この被収容者は、外部の病院に連れて行ってほしいと、何度も職員に訴えていますが、職員は「すぐ行く」というだけで、実際には3カ月以上病院へ連れて行かず、またその理由の説明もありません。ウィシュマさんも、「大丈夫、大丈夫」、「頑張って、頑張って」と言われて亡くなったのです。

 他の被収容者は、収容等のストレスや不安により眠ることができないことを訴えると、入管内に通いで来ている精神科医から「神経の痛みを和らげ、寝付きを良くする」安定剤を処方されました。はじめは安定剤の量は1mgでしたが、効いてないことを医師に伝えると次第に増えていき、150mg以上処方されました。その薬の服用後、腕全体に力が入らなくなる他、腎機能が正常に働かず尿が出にくくなるという症状が出てきたため、看護師が薬の飲み過ぎが原因だと判断し服用を辞めました。しかし、その後、ずっとそわそわしてじっとしていられなくなり、足の痛みも続いています。この症状に対する医療対応はありません。

 これが、「医療体制を強化」した、名古屋入管の収容施設の実態です。

 ウィシュマさんは、「医療体制の不備」や、「情報共有不足」で亡くなったのではありません。入管の送還方針に反して、送還を拒否するウィシュマさんを、詐病扱いし、嘘つき呼ばわりし、追い返すために医療を受けさせなかった、当時の局長をはじめとした幹部職員の考え、判断によってウィシュマさんはその命を奪われました。

 いくら常勤医師を増やし「医療体制を強化」しても、「送還忌避者」を追い返すための収容、その収容を維持するための「医療」が行われている限り、再発防止はできません。名古屋入管が死亡事件の再発防止を徹底するということは、3年前の死亡事件の真相を解明し、正しく総括することなくしてなし得ません。

 現在は、入管の手に終えない体調不良者(金と労力がかかる人)については、すぐに仮放免を許可して外に追い出しますが、働けない、健康保険もない仮放免状態で、体調不良のまま外に放り出されたら、その後一体どうなるのでしょうか。仮放免で外に出してしまえば、入管は一切責任を負いません。

 名古屋入管の言う改善は、表面的、表層的改善であり、実態を覆い隠し、責任を逃れるための方便でしかありません。ウィシュマさんの命日を敢えて選んで報道しておきながら、名古屋入管に見殺しにされたウィシュマさん死亡事件の真相に迫ることができず、入管医療の目的も明らかにできず、方便としか言いようのない名古屋入管の対応を、ただ宣伝するだけの今回の名古屋テレビの報道に対して、断固として抗議します。


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「ウィシュマさん死亡から3年 医療体制を強化 変わろうとする名古屋入管に密着」