リトマス試験紙「人民」
自治体職員研修は、個人的な意見を述べる場ではないので、己に意に反することであっても、判例・通説・行政実例に従って講義をしている。
しかし、このブログは、自治体職員研修ではないので、自由に意見を述べている。自治体職員研修では決して公私混同をしていないので、誤解のないようにお願いしたい。
さて、私は、Xをやっていないが、ネットで石垣議員の下記のツイートが話題になっていた。
4月28日、立憲民主党の石垣のりこ参議院議員が、衆議院議員補欠選挙で立憲民主党公認候補がすべての選挙区で当選したことについて、X(旧ツイッター)で「人民の勝利」とつぶやいたところ、「どーしても人民って言いたいんだ!」と批判を浴びた。
そこで、5月7日、石垣議員は、「「どーしても人民って言いたい」のではなく、日本の外務省も法務省も世界人権宣言を「すべての人民とすべての国とが達成すべき共通の基準」と翻訳しているんですから仕方ありません。それが日本の政府としての認識ですので。」とXで反論し、外務省と法務省の当該リンクを貼った。
石垣議員は、日頃から「人民」と言っているから、つい「人民の勝利」と書き込んだのではなかろうか。
普通の人は「人民」なんて言葉を口にすることがないし、そもそも世界人権宣言には法的拘束力がないし、また、外務省の「世界人権宣言(仮訳文)」に従うべき法的義務もないからだ。
石垣議員の苦しい言い訳の真偽はともかく、外務省と法務省のリンク先を見たところ、驚いた。
確かに、外務省の「世界人権宣言(仮訳文)」には、下記のように「人民」が3か所出てくるが、いずれも意図的な誤訳だ。
「よって、ここに、国際連合総会は、
社会の各個人及び各機関が、この世界人権宣言を常に念頭に置きながら、加盟国自身の人民の間にも、また、加盟国の管轄下にある地域の人民の間にも、これらの権利と自由との尊重を指導及び教育によって促進すること並びにそれらの普遍的かつ効果的な承認と遵守とを国内的及び国際的な漸進的措置によって確保することに努力するように、すべての人民とすべての国とが達成すべき共通の基準として、この世界人権宣言を公布する。」(太字・下線:久保)
ついでに、高木八尺・末延三次・宮沢俊義編『人権宣言集』(岩波文庫)の「世界人権宣言」も、下記のように「人民」が3か所出てくるが(402p)、これも同様に意図的な誤訳だ。
「ここに、
総会は、
社会の各個人および各機関が、この宣言を常に念頭において、加盟国自身の人民のあいだにもまた加盟国の管轄下にある地域の人民のあいだにも、教育によってこれらの権利と自由との尊重を促進し、かつ、国内および国際の漸進的措置によってそれらの普遍的で効果的な承認と遵守とを確保する努力をするように、すべての人民とすべての国が達成すべき共通の基準として、この世界人権宣言を、弘布する。」(太字・下線:久保)
原文である英文を見てみよう。
Now, therefore,
The General Assembly,
Proclaims this Universal Declaration of Human Rights as a common standard of achievement for all peoples and all nations, to the end that every individual and every organ of society, keeping this Declaration constantly in mind, shall strive by teaching and education to promote respect for these rights and freedoms and by progressive measures, national and international, to secure their universal and effective recognition and observance, both among the peoples of Member States themselves and among the peoples of territories under their jurisdiction.(太字・下線:久保)
以前、このブログで、リンカーン大統領のgovernment of the people, by the people, for the peopleは、「人民の、人民による、人民のための政治」ではなく、「国民のために、国民が、国民を治めること」、又は原文の語順とは異なるが、「国民が、国民のために、国民を治めること」と訳すべきだということを述べたが、その理由は、この「世界人権宣言」の訳にもそのまま当てはまる。
まず、for all peoples and all nationsは、「すべての人々とすべての国が」と素直に訳せばよい。
つぎに、among the peoples of Member States themselvesは、単なるpeople(人民)ではなく、the peoples(諸国民)とある以上、直訳すれば、「諸加盟国自身の諸国民の間」だが、国語として不自然なので、「加盟国自身の国民の間」と訳すのが妥当だ。
また同様に、among the peoples of territories under their jurisdictionは、直訳すれば、「諸加盟国の管轄下にある諸地域の諸国民の間」だが、国語として不自然なので、「加盟国の管轄下にある地域の国民の間」と訳すのが妥当だ。
真っ赤っかに染まった岩波文化人はともかく、外務省の「世界人権宣言(仮訳文)」は、語学が堪能な外務省職員が誰も訂正していないところをみると、赤色汚染の深刻さを如実に物語っている。
外務省に限らず、外務省の「世界人権宣言(仮訳文)」をそのまま引用している法務省など、すべての省庁が汚染されているが。。。
それにしても、外務省が和文と英文のリンクを貼っているところをみると、わざわざ英文を読む物好きはいまいと高を括っていたのだろうか。
そうだとすれば、ずいぶん間抜けな話だ。中学生でも読める英文なのだから、「人民」が誤訳であることがすぐにバレるからだ。
なんにせよ、実に姑息な手口だ。この連中は、あらゆる分野で微に入り細に入り赤色汚染を広げようとしているから始末が悪い。健全な人間社会を蝕む癌だ。
ところで、マルクスは、宗教はアヘンだと言ったが、共産主義・社会主義も宗教に他ならない。人類に害悪しかもたらさない狂ったカルト宗教だ。その犠牲者の数は、オウム真理教の比ではないのだ。
一例を挙げよう。ステファヌ・クルトワ/二コラ・ヴェルト『共産主義黒書<ソ連篇>』(恵雅堂出版)は、「共産主義」体制によってどれほどの犠牲者が出たのか、概算を示している。
ソ連:2000万人
中国共産党:6500万人
ベトナム:100万人
北朝鮮:200万人
カンボジア:200万人
東欧:100万人
ラテンアメリカ:15万人
アフリカ:170万人
アフガニスタン:150万人
総計で1億近い人が「共産主義」体制によって犠牲になったと推定されている。しかも、これは27年以上も前のデータに基づくから、今ならば中国・北朝鮮でさらに増えていよう。
共産主義・社会主義が理論的に間違っていることについては、偉大な経済学者であるミーゼスやハイエクが証明しているし、ソ連及び東欧諸国の体制崩壊により歴史的にも証明されているにもかかわらず、なおこれを信奉するのは愚の骨頂だ。信者は、インテリを自称しているが、カルト宗教に引っかかった哀れな愚者にすぎない。
ソ連崩壊時に、左翼用語を使えば「総括」(『デジタル大辞泉』によれば、「 労働運動や政治運動で、それまでの活動の内容・成果などを評価・反省すること」)し、洗脳を解かねばならなかったのだが、政党・政治団体もマスコミも大学も「総括」せず、うやむやのままにし、今では政党の中には党の看板を掛け替えるとともに、ソ連型が間違っていただけで、共産主義・社会主義それ自体は間違っていないと公言する始末。
「馬鹿は死ななきゃ治らない。」というが、今からでも遅くない。政府もマスコミも学校もきちんと真実を伝えて洗脳を解き、これ以上犠牲者が出ないようにすべきだし、様々な社会主義政策をさっさとやめるべきだ。
イカれたカルト宗教にハマった当人がいくら愚かだからといって、意図的に翻訳を歪めることが許されるわけではない。目的のためには手段を選ばない翻訳テロであって、実に姑息で不誠実だ。翻訳者として、否、人として許されるべきことではない。