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古事記~天と地といのちの架け橋

2024.05.13 07:28

http://www.ichijyo-shinya.com/message/2014/11/post-714.html 【「古事記~天と地といのちの架け橋」】より

こんにちは、一条真也です。

ミャンマーに行く前日、10月12日に両国の「シアターX」で舞台を鑑賞しました。東京ノーヴィレパートリーシアターによる「古事記~天と地といのちの架け橋~」という舞台ですが、なんと義兄弟である京都大学こころの未来研究センター教授の鎌田東二先生の『超訳 古事記』(ミシマ社)が原作です。

JR両国駅に降り立つと、歴代優勝力士の肖像画が飾られていました。

駅の西口出て左に進むと、大相撲グッズを販売している露店などがあり、「ああ、ここは両国なのだ」と実感しました。さらに進むと、回向院の左隣に「シアターX」が入る高層ビル「両国シティコア」が見えてきました。広場のような場所で、殺陣のショーが行われており、劇場はその横でした。

相撲に殺陣・・・・・・いやでも「和」のテンションが高まっていく中、そのクライマックスとして、日本人の「こころのルーツ」である『古事記』をオペラ化したような舞台を鑑賞しました。「シアターX」の公式HPには、「古事記~天と地といのちの架け橋~」について以下のように説明されています。

「太古から、口づてに伝承された物語・古事記。1300年の時を経て甦る遺伝子の記憶・・・・・・この日本の心のエッセンスをつたえる神話を、現代の<儀式>として舞台化します。 神話的意識を取り戻し、神話(=自然)の智恵をひらき、"いま"へと伝承される美しく優しい古事記です。舞台上の『儀式』を通して注がれる清らかなエネルギーが現代人の心を癒す、奇跡の瞬間を体験してみませんか? 」

このたびの「古事記~天と地といのちの架け橋」について、芸術監督のレオニード・アニシモフ氏は以下のような一文を寄せています。

「日本神話との出会いは私の創造活動における重要な出来ごとの1つとなりました。世界十大神話の中でも『古事記』は、現実世界の描き方がもっとも人道的であると私は思います。本企画は日本の様々な専門家、学者、芸術家、文化人の方々、またロシア・極東連邦大学の研究グループの協力を得て実現しました。皆様に心より感謝申し上げます。中でも特に『古事記』を超訳してくださった鎌田東二先生には厚く御礼申し上げます」

この舞台「古事記」ですが、まことに幻想的な芸術空間でした。

冒頭から、いきなり劇場中が真っ暗闇になって驚きました。劇場でも映画館でも防災上の都合から非常灯があるので真っ暗闇にはならないものですが、今日は正真正銘の「漆黒の闇」を経験しました。そして、闇から浮かび上がる神々はすべて白い装束を身につけていました。

このとき、わたしはなぜ神々や神主が白い装束で、加えて死者も白装束なのかの理由がわかりました。闇から出現する色は白を置いて他にはなく、また闇に溶け込む色も白以外にはないからです。

おびただしい数の八百万の神々の顔は一様に白く塗られ、いずれも笑みを浮かべています。その姿に、わたしは、かつて若き日の鎌田東二青年が会いに行ったという寺山修司が率いる「天井桟敷」や土方巽の「暗黒舞踏」、さらには「山海塾」などを連想しました。とにかく人の顔を白塗りにするだけで、ここまで非日常の世界が出現することを思い知りました。

第1部では『古事記』の冒頭部分の「天地のはじめ」が表現されます。

はるか遠い昔、はてしなく広がる天と地がまだその区別がつかない頃、高天原に成りませる神・天之御主神が、高御産巣日神と神産巣日神の姿となって万物を生み出す準備を始めました。天と地はまだはっきりせず、水に浮いた油のように、海に浮かぶクラゲのように漂っていました。天地を動かし、国を固め、万物を生み出し、この世をみえる形に現す働きの神として、男神である伊邪那岐命(イザナギノミコト)と、女神である伊邪那美命(イザナミノミコト)が生まれました。

イザナギとイザナミが出会ったとき、女神が先に「ああ、なんて立派な頼もしい方なんでしょう」と声をかけ、続いて男神が 「ああ、何と美しく愛しい方なのだろう」と声をかけ合いました。子どもは生まれたのですが、「ヒルコ」という蛭のような骨のないグニャグニャの子でした。次も泡のような子でした。両神は、高天原の神々に相談しに行かれました。「女神が先に声をかけたのがいけなかったのだ。もう一度やり直しなさい」というアドバイスを受けます。そこで今度は男神から声を掛け合って心が通い合うと、見事に成功して、八つの島が生まれました。これを大八島国(おおやしま)といい、日本のもう一つの名前となりました。わたしは、この場面を観て大きな感動をおぼえました。

じつは、わたしは最近、ものすごい大発見をしました。

「結婚式は結婚よりも先にあった」という大発見です。

一般に、多くの人は、結婚をするカップルが先にあって、それから結婚式をするのだと思っているのではないでしょうか。でも、そうではないのです。『古事記』では、イザナギとイザナミはまず結婚式をしてから夫婦になっています。つまり、結婚よりも結婚式のほうが優先しているのです。他の民族の神話を見ても、そうです。すべて、結婚式があって、その後に最初の夫婦が誕生しているのです。

つまり、結婚式の存在が結婚という社会制度を誕生させ、結果として夫婦を生んできたのです。ですから、結婚式をしていないカップルは夫婦にはなれないのです。

結婚式ならびに葬儀に表れたわが国の儀式の源は、小笠原流礼法に代表される武家礼法に基づきますが、その武家礼法の源は『古事記』に代表される日本的よりどころです。すなわち、『古事記』に描かれた伊邪那岐命と伊邪那美命のめぐり会いに代表される陰陽両儀式のパターンこそ、室町時代以降、今日の日本的儀式の基調となって継承されてきました。

この舞台では、多くの神々が「われは○○の神」と言って立ち上がりながら名乗りを挙げますが、まさにこの舞台そのものが1つの儀式となっていました。

この日から20日後、わたしは某シンポジウム後の懇親会でアニシモフ監督とお会いしました。そこで、わたしは「あの舞台は儀式そのものでした。儀式は宇宙を復元する営みです」と言いました。アニシモフ監督は「その通りです!」と大喜びされ、わたしたちは固い握手を交わしました。


http://russian-festival.net/blog/?p=2094  【古事記 天と地といのちの架け橋】より

レオニード・アニシモフ氏が芸術監督を務める東京ノーヴィ・レパートリーシアターが能楽堂で『古事記 天と地といのちの架け橋』を上演しました。

〜俳優と観客は、樹木のように成長し、時代の森をつくる。21世紀を芸術と文化の時代にするために、200年後の未来のために、今演劇という私たちの仕事でできることは、“時代の森“をつくること。〜魂の糧となる演劇の創造を目的に、ロシア功労芸術家レオニード・アニシモフ氏を芸術監督に迎えて、質の高いロシア式の演劇スタイルを日本で確立してきた東京ノーヴィ・レパートリーシアター。本格的なスタニスラフスキー・システムに基づいてリアリズム演劇を実践し、ロシアでは一般的なレパートリー・システム(日本やアメリカなどで一般的な、ひとつの演目をさまざまな劇場で一定期間上演するロングラン・システムに対し、劇場専属の劇団が、毎日レパートリーのなかから演目を変えて上演するスタイル)を取り入れ、チェーホフ、ゴーリキー、近松門左衛門、宮沢賢治、シェイクスピアなどの傑作を東京・下北沢を拠点に毎週上演してきました。

「今回の作品は、文化の融合・結合です。ロシア文化フェスティバル IN JAPANのような機会では、文化の融合が重要であり、自分の周りでは“メタ文化“と呼んでいます。本日の観客の反応を見ると、そのような深い文化の融合、すなわち、ロシア文化と古事記の深いレベルの融合が感じられました。」

〜わたしたちは どこから来て、何を目指すのか?日本人の心のルーツである物語・古事記。その太古から口づてに伝承された神話を いま、生きた感情で、現代の<儀式>としてよみがえらせます〜

練られた複雑なストーリーを追ったり音楽や美術などのめくるめくエンターテイメントに驚嘆したり・・・といった舞台とは違い、無心でただ五感で感じるような不思議なひとときでした。役者たちがそれぞれ演じるのは、八百万の神々なので、舞台上で微笑む神様たちと対峙して空間に酔うような、それはまさに神社仏閣で祈祷をうけているような感覚を覚えました。

https://www.youtube.com/watch?v=RJVkyJr_lks

「この作品は、2011年11月11日のドストエフスキーの生誕を祝った日の後に、仲間たちと話しているなかで『古事記』の名前がたまたま出たところから話が始まりました。その後2年間、多くの翻訳を読むなど研究して、そして2年間の稽古を重ねました。その結果、我々の東京ノーヴィ・レパートリーシアターの俳優は勇敢になり、人間らしくなりました。」

豊かな土壌で育まれた樹木がその枝葉を伸ばして森が拡大していくように、海外からの研究者の受け入れや芸術家育成のためのアカデミー運営、国際文化交流にも積極的に取り組み、古典に挑む東京ノーヴィ・レパートリーシアターは、今後『源氏物語』にも挑戦するそうです。毎日の生活の中で自然と目に耳に入り通り過ぎていく種類の文化・芸術とは違い、古典作品は私たちの身体の奥深くに眠っている誰もが魂を揺さぶられる何かを秘めています。それは手を伸ばさなければ、出逢うことは出来ません。ロシア文化フェスティバルで上演される素晴らしいプログラムを通して、そういう体験を繰り返して生きていきたいものです。


https://readyfor.jp/projects/kojiki-tokyonovyi/announcements/86700 【『古事記』祈りをつなぐ旅  ~遥かなるロシアへ~】より

前回、紹介した「朝日新聞の記事」に取り上げていただきましたが、同じように、この「古事記」の内部上演の一つを観られた方(男性/50代/兼業漁師)が、今回、ご自分の感想を送ってくださいました。ここに転載させていただきます。

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平和を願う詩的音楽儀式劇「古事記~天と地といのちの架け橋~」をみて

神さまたちの祈り ~●と■が、○と□に~

梅雨入りの蒸し暑い日だった。下北沢の劇場で、東京ノーヴィ・レパートリーシアターの舞台をみた。ロシア生まれのアニシモフ芸術監督の演出だ。監督は2011年東日本大震災と原発事故をきっかけに、月に一度日本の神話『古事記』を基にした作品を上演している。自然と人間の調和、復興がテーマである。普段は観客を入れない。監督と劇団員による〈祈りの儀式〉であった。

芸術監督のアニシモフさんは、2000年母国ロシアから日本へ招かれ、演技指導を続けている。2011年東日本大震災と原発事故が起きた。旧ソ連のチェルノブイリが頭によぎる。他人ごとではない。演劇は何ができるか。祈りの舞台を考えた。イザナギやイザナミの神話にたどり着く。国生みの物語は人間と自然の交わりを描き、壊れた自然と人間の均衡を戻す。

2018年秋、当劇団はロシアのノヴゴロド市とモスクワ市より、「古事記~天と地といのちの架け橋~」を正式招聘された。平和を願う「詩的音楽儀式劇」巡礼の旅が続く。

*   *  *

開演前、私は舞台裏で役作り中の神さまたちに会った。ストレッチをしたり、衣装の見直しをしたり、談笑したり。思い思いの時間を過ごしていた。笛、太鼓、鐘、声明とともに、国生みの劇が始まった。白装束の神々、約30人が胡坐をしている。世の中にはいろいろな神さまがいるものだ。両耳に巻き髪を結んだ神、ぼさぼさ頭の神、つるつる頭の神、むずむず足を揉んでいる神、ひとり笑いをする神、瞑想中でどこかへ魂が抜けているような神…。ひとりが踊りだす。また別の神が立ち上がる。おもいおもいの祈りが続く。

しばらくすると、太陽の神アマテラスが岩屋に隠れた。会場は真っ暗になった。神さまは各々が懐から手鏡●をとりだす。薄暗い舞台の上で光を探しはじめる。●は光を拾い○になる。舞台に動きが湧き出てくる。天岩戸御開帳のシーンへ。神々の手鏡〇から、光の帯がまるでサーチライトのように縦横無尽に交差する。「まぶしい!」いたずら心旺盛な神様が、私の眼を攻めてきた。

舞台が終った。帰り道、私は地下鉄構内で電車を待っていた。ホームの通勤客や学生、約30人がホームでスマホ■□を握っていた。液晶画面■□を覗きこむ姿は、まるで神さまにそっくりだった。

*  *  *

年の瀬、私は神奈川の大山阿夫利神社へお参りに行く。大漁祈願、地引漁師の大山詣を続けている。親方と先輩漁師と山道の石段を上る。下社の神殿には大きな丸い鏡がある。お参りのあとに鏡を覗き込むのがいつもの楽しみだ。山の緑や下界の街並みが見える。自分の顔が映り込む、どきりとする。帰り道、茶店に寄る。炬燵に入って熱燗に、味噌おでん、湯豆腐。親方にうながされ、私は木遣を唄う。

〽さあて 西行の坊さんが ある山中を 通るとき

梅の古木に腰を掛け 下みち はるかにながむれば

猪 一頭 通るべし ししならば 十六通るべし

一つ通るは 九九のあまりだよ