一期一会 ~オーストリア編②~
オーストリア、ウィーンを訪れたのは秋だった。
ドナウ河にそびえ立つ古城を目指し、アウトバーンと呼ばれる高速道路を高速バスで走っている時、窓から見えた山々の紅葉が非常に美しかったことを覚えているからだ。遠い異国において木々の葉が赤や黄色に染まっていることに感動を覚えた。
しかしながら、野山の錦に心を打たれる日本人の感性はオーストリア人には理解できないそうだ。バスガイドの方は『日本では紅葉を見て感動するそうですが、こちらにはそのような習慣はありません。』とごくあっさり教えてくれた。
ところで「ウィーン」は英語で「Vienna」と書く。発音も「ヴィェナ」だ。「ウィーン」とは大違い。恥ずかしいことに、現地に着くまでそれを知らなかった。飛行機から出て空港内を歩いている際、ここがViennaであると示されている電光掲示板や看板を見て、別の土地に来てしまったのではと最初は本気で心配した。
実はフライトの出費を極限まで省いたお陰か、トランジットがすごい旅だったのだ。まずは関西空港から台北の桃園空港へ。数時間の滞在後、桃園空港からUAEのアブダビへ。再び数時間を過ごし、ようやくアブダビから最終地のウィーン着という。乗り継ぎ地獄のような往路に疲労困憊していたため、よもやフライトを乗り違えたのかと思ったのだ。旅のガイドブックをよく調べてみると、「Wien(ウィーン)」は現地(というか英語圏)では「Vienna」と表記されていることが多い、と書かれていた。ホッとした。そしてひとつ賢くなった。
ウィーンの町並みは実に美しい。
石畳の道が続き、街のどこを見渡しても芸術作品のような建造物が調和を保ちながら並んでいる。精巧な彫刻のような建物たちは、さながらすべてが貴族の家や美術館かオペラハウスかのように見えた。が、ごく普通の建物がほとんどなのであった。もちろん、有名なシュテファン大聖堂とか、ベルヴェデ-レ宮殿とか、国立歌劇場等も真実に見事だった。美しく、荘厳なそれらを見上げるだけでため息がこぼれたものだ。
さて、ウィーンと言えば「ホテルザッハ-」のケーキ「ザッハトルテ」が非常に有名である。
かつてオリジナルをめぐって大きな裁判が起こった。ウィーンっ子が誇る、名高いこのケーキを食べずしてはウィーンに来たとは言えまいと考えていた。だから、初日のミッションとしてホテルザッハ-を訪れた。ここで提供されるものこそが本物の「ザッハトルテ」なのである。証拠にケーキの上に丸い「HOTEL SACHER」とエンブレムが飾られている。
出てきたのは、濃厚なチョコレートでコーティングされたスポンジケーキだった。隣には生クリームがたっぷり。これが定番なのである。辛党を自認している私には、少々暴力的な甘さだ。一緒に頼んだコーヒーを飲む。こちらは素晴らしく美味だった。苦みが全くなくてスッと飲める。オーストリアは硬水なので、コーヒーや紅茶は渋みを感じさせずに美味しく淹れることができるのだという。そういえば現地の水もピュアだった。海外で水道水を飲むことが出来た国は、ウィーン以外にはほぼなかったと思う。
非常に甘かったが、ザッハトルテはとても品のある味をしていた。オーストリアはチョコレートの質が高い。それなら、と思った。ウィーンのお土産はチョコレートに決定だ。
(つづく)