「Pumernick and Pimpernell」Lilo Fromm
「物語」ということを考えるときに、自分がしばしば持つイメージは森のイメージで、その森の中へゆっくりと足を踏み入れていく楽しさや、怖さがいつもそこにはあるんです。
「お話を読む」ということはその森の中を歩いて、知らないけれどなんだかとても懐かしい誰かと、再会することだと思ったりもしています。
このイメージはきっと人によって様々で、例えば砂漠や荒野を歩いていくイメージを、大海原の航海を、物語に対して持っている人も居ると思うので、それは物語という概念自体に関わることとはきっと少し離れていて、個別の人間の持っている記憶や読書体験と近いことなのかもしれません。
ただ、自分の持っているこの森のイメージを、物語の象徴として描いているようにいつも見えるのが、ドイツの絵本作家、リロ・フロムの描く絵本の世界なんです。
こちらはそのリロ・フロムの「Pumernick and Pimpernell」と言う絵本です。
描かれているのは、美しく大きな庭の、そこにある小さな家で暮らす二人(と一匹の犬)のお話です。
仲良しの二人のこの庭に、ある日ふしぎな闖入者がやってきて、その闖入者を追い出すまでのお話…、と言ったようなものなのですが、リロ・フロムの描くこの庭がそれはそれは素晴らしいのです。
それは暗く、ときに光が差して明るく、庭の中の様々な場所には秘密が満ちているように見え、この絵を見る度に自分はいつも、自分の持っている森/物語のイメージと、響き合う気がしているのです。
リロ・フロムはいつも、このような魅力的な庭、森、そして夜を描くのですけれど、この絵本は特に素晴らしいです。
フロムの絵本は何十冊と見ていますがその中でもベスト3に入るものだと思います。
木かげの鳥、小さな、しかし豪奢な小屋で佇む虫、日陰と思われる場所で咲き乱れる花々。この庭/森のなかに、たくさんの秘密が隠されているように感じられ、読者をこの不思議な「お話」の世界へ誘い込んでくれるのです。
いつもは当店の紹介するリロ・フロムの絵本はドイツ語原書版が多いのですが、こちらは英語版。同タイトルのドイツ語原書版「Pumernick und Pimpernell」は1967年の出版で、この英語も同年の出版なので、もしかしたら独、英同時に出版されたのかもしれません。
この年はリロ・フロムが第一回ブラチスラヴァ絵本原画展にて金のりんご賞を受賞しており、彼女自身の創作もまさに勢いに乗りはじめたところだったのではないでしょうか。
この絵本が、そんな充実した時期の作品ということも、なるほどと思わせる素晴らしい出来なんです。
是非オンラインストアのほうでも御覧ください。
当店のリロ・フロムの絵本はこちらです。