第17話 空を飛びたい
「いいよ、そこまでやらなくて」
ペナンシェはそこで口を挟む。
「妖精の呪いは私の問題だ。それに、鍛冶妖精を殺したせいで鍛冶が出来なくなったからって、何か生活に支障がある訳ではない。別にこれから鍛冶を出来るようになったとしても、そうじゃなくって家事で役立つようになっても葛城に先ずは妖精をあてがってもらわないといけないなら、葛城のやりたいようにすればいい。だが、私は別にやらなくても良いと思っている」
そう言われて、なんかもう失敗した気もする。正直鍛冶師の呪いを解決できるなら、俺としてはかなり役に立つ理由があるためにやって欲しい。だけれど……。
「そっか、あまり乗り気じゃないのか」
「ですが、呪いを完全に解呪する訳ではないですし、抑えて何かするという事であればやりますよ」
「ありがたいのはありがたいさ」
そんな風に話が平行線になった時だ。ペスティが一人の妖精に話しかけているのが見える。
「ペスティ、何をしている」
「ん? なんかこのお家色々な野良の妖精がいるんだけれど、その中に呪いについて解決できるかもしれない子がいるのよ」
「え」
ペスティがそう言うと、一人の妖精が前に出てくる。
「まだいたんですか」
「え」
そこで、オロガさんが少々呆れたような様子で妖精を見ている。俺にはその妖精は見えないのだが、何か知っているのか。
「あの、どういうことです」
「はい。その妖精は祈祷妖精と言います。中位妖精ですね」
「はあ」
「問題は、その能力に気が付いているのが私しかいないから私と何としても契約をしたいと言い張って強情な事です」
「強情って」
ペナンシェが呆れていると、オロガさんは反論する。
「私自身が契約をしているのは、一番大切な妖精のみです。本妖精などどうしても何か手伝いをしてくれるのに役立つ妖精のみで、それ以外の妖精と契約をしている余裕はないんです、契約料も払えないですし」
「これはこれでかわいそうね」
「そうです。葛城さんあなたこの妖精と契約をしてください」
「はあ」
「この妖精も持て余した力を役立てる事の出来る人を探しているのであれば丁度いいではないですか」
なんかいいように扱われている気がするけれど、中位妖精と契約できるというのは正直美味しい。
「じゃあ、ちょっとお金使うけれど契約できる枠数を増やすか」
「お、久しぶりね」
「契約出来る枠数を増やす? 契約できる妖精の数って任意にどうこう出来る物でしたっけ」
「それがこの葛城の能力なの」
その言葉に、オロガさんは興味深そうな表情をしているが。俺が枠を増やす。
「よし、これで契約が」
「嫌がっていますね」
「え」
そう言われて確認をすると、確かに契約をしようとしている祈祷妖精から拒否をされているという通知が出ている。
「これは」
「当然ですが、妖精にも感情はあります。それゆえに、この様に契約を拒否する妖精も出て来ます。高位の妖精程そうなりますね。後精霊も」
「そんなに、この人の力になってあげたいのね」
そっか、この祈祷妖精はそんなにこの人の力になりたいのか。
「うーん、ままならないわね。祈祷妖精の祈りの力なら呪いを解除できるし、面倒な依頼も無視できないかなって思ったのに」
ペスティ、そう思っていたのか。
「というか、飛びたいってどうしてなのよ」
「あー、そう言えば妖精の様に飛びたいってどうしてそこまでこだわるのか聞いていなかったな」
「ふふふ、それはですね。私の最初に契約した妖精! ペンギン妖精と一緒に飛ぶ! そんな彼女の夢を叶えるためです!」
ペンギン?
「彼女はとても飛ぶのが苦手です。妖精なのに羽らしき羽も無いですし不思議です。ですが、だからこそ一緒に飛びたいという思いが」
「飛べない鳥だぞ。ペンギンは」
「え?」
「え?」
「は?」
「だから、ペンギンはそもそも泳ぐように進化した鳥で、その過程で羽は空を飛ぶように進化しなかったから完全に飛べない」
ボゴッ! そこで、オロガさんに俺は殴られた!
「いて! なにをす」
「彼女の前で! 何故それを言えた! それが事実なら! 彼女にどれだけ酷いことを言ったのか分かっているのか!」
「!」
「出て行け!」
そう言って、オロガさんに出て行くように追い出された。
「あれはあなたが悪いわよ。妖精は何時でも見ているのよ。あなたに見えていないのだとしても」
ペスティの言葉が、唯重かった。
「どこだ! どこにいるんです」
私は愛しの妖精、アネーラを探していた。昨日彼女は完全に飛べないみたいな酷いことを言われたため取り乱してしまいましたが、まさかそれで何か彼女の身にあると思うと。
「アネーラ! アネーラ!」
そう叫んだ時です。自分の体が突然浮き始めたのは。
「え、え、どうして! あ、アネーラ!」
その時です。目の前から空を飛ぶアネーラがやって来たのは。
「あれは」
そして、気が付いたのです。下に見える昨日の男、そして、それに力を貸す妖精たちの姿が。
遡る事、追い出されてから宿に戻った時の事。
「悪いことをしたとは思っている。だから、ペンギン妖精を飛ばすために力を貸してほしい」
「具体的にどうするのさ」
「風妖精の力で飛ばして、それを継続する方法を探求妖精に探してもらう。正直これしかない」
「それ、他の妖精の力が無いと飛べないって言っているような物じゃ」
「うん。だが、それでも飛ばすには」
「え? 良いの」
そこで、ペスティが何か妖精と話している。
「誰と話しているんだ」
「祈祷妖精。ペンギン妖精と話を付けて、空を飛ぶための協力をするって」
「何で。今俺は考えを口に出したばかりで」
「異世界の人なら何か知っているかもって。祈祷で何か知っちゃったみたい」
あの祈祷妖精。何を知ったんだ。
「まあいいや」
やってやる、そう言って契約主のオロガも知らないペンギン妖精の秘密の訓練が極秘裏に始まった。
「これはどういうことです」
「ペンギン妖精に悪いことをしたから、俺の契約している妖精で何か出来ないかと考えたんだ」
「人の妖精に無断で訓練ですか」
「それは悪いと思っている」
ペナンシェも静かに、ペスティもおろおろしながら様子を見ている。それに対して、オロガさんは。
「ふう。条件を出します」
そう言い始めた。
「一つ、私オロガはペナンシェさんの呪いの解呪。そして数の多すぎるあなたの妖精の一時的な面倒を見る役として旅に付いていきます」
「ん」
「二つ、ペンギン妖精の空を飛ぶ訓練の継続、そのためにあなたの妖精を貸し出す事」
「おい」
「この条件で、私は不問にします。かなり私に有利な契約ですが、これで定期的に解呪も訓練も両方を叶えられるはずです」
「おい、別に私は解呪を求めていない」
「何より、祈祷妖精をこれで迎えることが出来る」
そこで、優しそうなオロガさんの顔が印象的だった。別に追い出そうなんてしていなかった。ただずっと契約をすぐに出来なかっただけだった。
しなかったのかもしれないがどうでも良い。とにかく、ようやく祈祷妖精も好きな相手と契約を出来るようになった。
「ペンギン妖精が中位妖精になったようで、契約を増やせました。ありがとうございます。そして、よろしくお願いいたします」
オロガさんに手を差し出された、だから俺は手を握り返した。新しい仲間が加わった。頼もしい仲間が。