V.新たな職業と、乙女な店主
近頃、GC任務で髪を切り落とされたり、幻覚で取り乱したりと、ヴァルらしくないことが起こり始めたことをきっかけに、彼女は毎日里へ赴き母親に新たな修行を付けてもらうようになった。
そして、母親にある提案をされ、準備は出来ているから時間のある時に店に行き、物を受け取って来るように伝えられた。
出かける準備をしていると、ガウラに呼び止められた。
「何処か出かけるのかい?」
「あぁ。とある場所に物を受け取りに行くんだ。一緒に行くか?」
「そうだなぁ、気分転換も兼ねて同行させて貰おうかな」
そう言って彼女も準備を始め、共に家を出た。
向かった先はウルダハ。
マーケットの通りを1本裏に入り、昼間でも薄暗い道を通る。
その通りに、看板も何も出ていない扉の前で、ヴァルは足を止めた。
ノックもせずに入っていくヴァルの後に続いて、ガウラも中に入った。
その室内には、武器や防具などが陳列されていた。
「店?」
「あぁ、知る人ぞ知るってやつだ。まぁ、ここを利用してるのは、だいたい裏の人間だけどな」
ヴァルはそう答えると、カウンターに置かれた呼び鈴を鳴らした。
すると奥から「はいはぁ~い♡少々お待ちをぉ~♡」と言う声が聞こえた。
そして、奥からカウンターに出てきたのは、女性らしい髪型と化粧をした男のアウラ族だった。
そして、その男はヴァルを見て、一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐに嬉しそうな顔に変わった。
「やだぁ~ヴァルちゃんじゃなぁ~い♡凄く久しぶりぃ~♡」
「久しいなスイレン」
「ここ数年、姿を見なくなって心配してたのよぉ~?」
「色々あってな、裏の仕事をすることが無くなったんだ」
「んふふ♡お母様から少し聞いたわぁ♡ついにパートナーが出来たとか!ワタシ、それを聞いて嬉しくなっちゃった♡」
スイレンと呼ばれた人物は、所謂乙女系と言うやつなのだろう。
裁縫師ギルドのマスターも、こんな感じだったのをガウラは思い出す。
「ひょっとして、後ろの子が?」
「あぁ、あたいのパートナーだ」
「どうも」
軽く紹介され、軽く頭を下げて挨拶すると、スイレンは目を輝かせた。
「いやぁ~ん♡美人さんじゃなぁ~い♡もうっ!2人ともお似合いすぎるわぁ~♡」
体をクネクネさせながら、辺りにハートが飛んでいるような空気のスイレンに苦笑いなガウラ。
ちらりとヴァルを見ると、慣れているのか無表情である。
「ところで、物を受け取りに来たんだが…」
ヴァルがそう言うと、スイレンの表情がニヤリとした。
「お母様からの依頼のブツね?出来てるわよぉ」
そう言って皮で包まれた、細長い物をカウンターに出した。
それをヴァルは受け取り、包みを開ける。
中から出てきたのは双剣。だが、いつも見ている双剣とは違った。
忍者の装備する双剣より長さがあり、柄の部分はジョイント出来るような構造になっている。
「これは?」
初めて見る形状の武器に、思わずガウラが尋ねる。
「んふふ♡これはね、ヴァイパーと言うジョブの専用武器よ♡」
「ヴァイパー?」
「ええ。近々ヴァイパーの関係者がこのエオルゼアにやってくる、なんて情報もあるわ」
ガウラの最近の記憶で、バルデシオン委員会のクルルが新しいジョブのピクトマンサーを披露していたのを思い出す。
また、新たな戦い方が出来るジョブが増えることに、少し好奇心が擽られる。
「柄の部分がジョイント出来そうだけど…」
「さすがヴァルちゃんのパートナー!目の付け所が違うわぁ♡この部分はね、もう一本の剣の柄と合体させて、1本の武器にも出来るの♡」
「へぇ~凄いな……」
「気になるなら、家に帰ったら木人で試し斬りするから、見学するといい」
「それは楽しみだな」
微笑み合う彼女達を見て、スイレンは「んふふ~♡」と笑みが零れる。
「ヴァルちゃん、丸くなったわねぇ~♡ワタシ、嬉しくなっちゃう♡」
「は?」
ヴァルは怪訝な顔をしてスイレンを見る。
「だってぇ、アナタいつも誰も近付けさせないオーラを放ってたじゃない?そんなアナタが優しく微笑んでるんだものぉ~!やっぱり、愛は偉大だわぁ~♡」
それを聞いて、少し顔を赤くし、バツが悪そうにそっぽを向くヴァルと、それを見て小さく笑うガウラ。
「嬉しいついでに、ワタシからヴァルちゃんにお祝いをあげるわ♡」
そう言って、スイレンが出してきたのは防具だった。
「ヴァイパーの装備に近いデザインの物を組み合わせて作ったの♡良かったら使ってちょうだい♡」
「武器の代金しか用意してないが?」
「も〜!今"お祝い"って言ったじゃない!お代は結構よ♡」
「そうか。なら、有り難く頂戴する」
ヴァルは武器の代金を渡し、装備と武器をしまい始める。
その間に、スイレンがガウラに話かけた。
「そう言えば自己紹介をしてなかったわね。ワタシはスイレン·アオって言うの♡クラフターをしながら、ここで商売をさせて貰ってるわ♡」
「ご丁寧にどうも。ガウラ·リガンです」
「ガウラちゃんって言うのね!イヤ~ン♡お花の名前で素敵じゃなぁ~い♡」
スイレンはまたクネクネと身体を動かす。
「そうだわ!ガウラちゃんにもお祝いをあげるわね♡良かったら使ってちょうだい♡」
スイレンがガウラに差し出したのはイヤリングだった。
「これは?」
「かの十二神の1人の名前がつけられたイヤリング。その名もアーゼマイヤリングよ♡」
「良いんですか?」
「いいのよぉ~♡お祝いなんだから♡」
「ありがとうございます」
「いいえ~どういたしまして♡」
嬉しそうなスイレンの笑顔に、つられて笑みを零す。
そんなやり取りをしているうちに、荷物をしまい終えたヴァルが口を開いた。
「それじゃ、そろそろ失礼する」
「あら、もっとゆっくりしていけばいいのにぃ~、残念ねぇ」
心底残念そうなスイレンを気にも止めずに、扉に向かうヴァル。
それについて行こうとしたガウラをスイレンが引き止めた。
「ガウラちゃん」
「はい」
「ワタシ、武器防具以外にも"情報"も売っているの。もし、何か困ったことがあったら此処にいらっしゃい。ヴァルちゃんのパートナーなら、特別価格で提供してあげるから♡」
「ははっ、覚えておきます」
愛想笑いをして会釈をし、ガウラはヴァルを追って店を出た。
店内に1人になったスイレンは、頬杖をついて面白そうな表情をした。
「まさか、ヴァルちゃんのパートナーが、かの有名な英雄様とはねぇ~」
情報を売っているだけあって、スイレンはガウラが"英雄"と呼ばれるのを好んでいないことを知っていて、知らないフリをしていたのだった。
「やっぱり、愛って良いわねぇ~♡ワタシも素敵なパートナーに出会いたいわぁ~♡」
夢みる乙女の様な表情をし、スイレンは店の奥へと戻って行ったのだった。