「宇田川源流」【大河ドラマ 光る君へ】 長徳の変とそれに翻弄される女性たち
「宇田川源流」【大河ドラマ 光る君へ】 長徳の変とそれに翻弄される女性たち
毎週水曜日は、大河ドラマ「光る君へ」について、勝手に様々なことを書いている。まあ、歴史好き、歴史小説作家の感想文というところであろうか。勝手に書いているので、特に何か関係があるわけでもなければ、またその内容に関して見ているわけでもない。しかし、「戦争のない大河ドラマ」で、様々なところが書かれているところはなかなか面白い。これならば、戦国や幕末ではなくても十分に大河ドラマになるのであろうということが見えてくる、そんな作品だ。
今回は長徳の変である。
長徳元年(995年)4月10日の藤原道隆(井浦新さん)の死後、道隆の嫡男である藤原伊周(三浦翔平さん)は、故太政大臣藤原為光の娘三の君に通っていた。長徳2年(996年)頃、花山法皇(本郷奏多さん)が三の君と同じ屋敷に住む四の君に通いだした。この三の君を「光子」四の君を「竹子」とドラマの中で呼称している。伊周はそれを自分の相手の三の君に通っているのだと誤解し、弟の隆家(竜星涼さん)に相談する。隆家は長徳2年1月16日(996年2月7日)、『大鏡』によると、従者の武士を連れて法皇の一行を襲い、法皇の衣の袖を弓で射抜いた。ドラマでは牛車に当たったことになっているが、この辺は、様々な解釈があるのであろう。更に『三条西家重書古文書』が引く『野略抄』(『小右記』の逸文)では、花山法皇の従者の童子二人を殺害しその首を持ち去ったと記されている。
花山法皇は、出家の身での女通いが露見する体裁の悪さと恐怖のあまり口をつぐんで閉じこもっていた。しかしこの事件の噂が広がり、これを政敵の藤原道長(柄本佑さん)に利用される形となり、先ず隆家が4月に出雲権守に左遷された。伊周は勅命によるもの以外は禁止されている呪術である大元帥法を密かに行ったとして、大宰権帥に左遷された。どちらも実質的な配流である。その他中関白家に連なる面々が連座して処断され、また姉弟であった一条天皇中宮定子(高畑充希さん)の落飾の遠因ともなった。
この隆家は、後に刀伊の入寇において活躍することになり、その後京都に戻って道長の役立つことになるが、そのことは、すでに安倍晴明(ユースケ・サンタマリアさん)がしっかりと話しているということになる。
「光る君へ」ききょう呆然 変装コント急転…定子落飾 ネット悲痛「あまりにも可哀想」「兄弟の尻拭い」
女優の吉高由里子(35)が主演を務めるNHK大河ドラマ「光る君へ」(日曜後8・00)は19日、第20話が放送された。話題のシーンを振り返る。
<※以下、ネタバレ有>
「ふたりっ子」「セカンドバージン」「大恋愛~僕を忘れる君と」などの名作を生み続ける“ラブストーリーの名手”大石静氏がオリジナル脚本を手掛ける大河ドラマ63作目。千年の時を超えるベストセラー「源氏物語」を紡いだ女流作家・紫式部の波乱の生涯を描く。大石氏は2006年「功名が辻」以来2回目の大河脚本。吉高は08年「篤姫」以来2回目の大河出演、初主演となる。
第20話は「望みの先に」。藤原為時(岸谷五朗)が淡路守に任命され、藤原惟規(高杉真宙)いと(信川清順)も大喜び。しかし、まひろ(吉高由里子)は宋の言葉を解する父は越前守の方が適任だと考える。一方、花山院(本郷奏多)の牛車に矢を放った一件により、一条天皇(塩野瑛久)は藤原伊周(三浦翔平)と藤原隆家(竜星涼)に厳しい処分。さらに藤原定子(高畑充希)も、兄弟の不祥事により内裏を出ることを命じられる。絶望の淵に立たされた定子は…という展開。
藤原伊周と藤原隆家が花山法皇を襲い「花山院闘乱事件」とも呼ばれる政変「長徳の変」(長徳2年、996年)が描かれた。
定子は一条天皇に「どうか、兄と弟の罰を軽くしてくださいませ。お情けを」と嘆願。死罪は免れ、伊周は大宰府へ、隆家は出雲へ流罪となった。代わって藤原道綱(上地雄輔)が中納言、藤原斉信(金田哲)が参議に昇進した。
安倍晴明(ユースケ・サンタマリア)は、隆家について「いずれ、あなた様(道長)の強いお力となりまする」、伊周について「あなた様次第にござります」と予言した。
ききょう(ファーストサマーウイカ)は定子を心配。まひろと変装し、屋敷に忍び込む。そこへ伊周と隆家を捕えるため、検非違使別当・藤原実資(秋山竜次)が踏み込んだ。伊周は「どこにも行かぬ」と逃走。隆家は高階貴子(板谷由夏)に「お健やかに」と別れを告げた。
実資たちが屋敷内の捜索を始めると、定子は刀を奪い「寄るな!」。自ら髪を切り落とした(落飾)。目の当たりにしたききょうは呆然――。
“変装コント”から急展開。SNS上には「定子様、あまりにも可哀想。何もしてないのに」「中宮定子がつくづく可哀想。皇子を産めと言われたかと思ったら、今週はその兄弟の尻拭い」「見た目はコントだけど、めちゃくちゃ重い内容」「小納言&式部コントで笑って、その後、泣いた」「ききょうの定子への思いが詰まった『枕草子』なんだね。どれだけ定子が素敵な中宮であったか、書いて周りに知らしめたい、守ってあげたかったんだろうな」などの声。反響を呼んだ。
次回は第21話「旅立ち」(5月26日)。「越前編」がスタートする。
[ 2024年5月19日 20:45 ] スポニチアネックス
https://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2024/05/19/kiji/20240519s00041000310000c.html
歴史の教科書では、ここにあるような「単なる政変」というか「通い婚で同じ家に住む女性がいたために、その誤解から出たトラブルを道長がうまく政変に利用した」ということでしかない。現代の人からすれば、「通い婚」という制度そのものがこのようなことを生み出すことになるしまた、そのような女性関係スキャンダルを政変に利用し権力争いが展開するというのは、何も平安時代に限ったことではないので、別段面白くもなんともないのであるが、しかし、大河ドラマはこれを「女性の視点」で見ているところが非常に面白い。
自分の愛妻の兄弟が犯した重罪をどの様に処分するかということを悩む一条天皇(塩野瑛久さん)や、そのことで身内のことだからといってうまくとりなすこともできない中宮定子の様子など、そしてその定子を守ることができなかったとして悔やむ清少納言(ファーストサマーウイカさん)など、一つの事件によって様々なところに様々な内容が出てくるということがなかなか面白い。また演技が非常に素晴らしいので、その心理状態が見て取れる。特に中宮定子の追い詰められたような、そして覚悟を決めたような表情で、髪を切るシーンは、多くの人が思いを寄せる演技になったのではないか。当時の女性は「子供を生め」といわれ、その後、その兄が不始末を犯してそのまま出家しなければならないなど、様々な精神的な苦悩がありその、「権力の座に近いところにいるからこそ存在する不幸と悲劇」がしっかりと描かれている。
その描き方もまひろ(吉高由里子さん)と清少納言という。第三者的な目線から書かれているので、なかなか面白い。なお、それを目撃した形にしなければならないので、あえて変装して庭に忍び込むというような演出までしていると頃が「ドラマであってもあまり変な描写はしない」ということにしたのではないか。
もう一つ、今回は藤原為時(岸谷五朗さん)の越前赴任が決まる。その時に父と娘が「本当の話」をすると言ことが、また緊迫した場面になる。ある意味で「まひろ」が、どの様にその時に道長のことを見ていたのかということをしっかりと見えることになるしまた、曾野道長の妻源倫子(黒木華さん)がどのような目でどのように考えるかということが、次の展開で「女性の思い」が見えてくるのではないか。
片方で長徳の変を書きながら片方で次の伏線を作り、それが「源氏物語につながる」ということが、見えてくる、うまく作られた物語になっている。