と
富澤赤黄男 (とみざわ かきお)
明治35年(1902)~昭和37年(1962)59歳。 愛媛県生れ。 「俳句評論」
自ら松根東洋城を師と”指名”したと。昭和10年1月創刊の「旗艦」に同人参加。「琥珀」「太陽系」などを経て昭和27年「薔薇」を高柳重信と創刊。のち、重信の「俳句評論」に所属。新興俳句を代表する俳人の一人で、現代の俳句に新しいポエジーを注入した。※早大政経学部出身
句集:『天の狼』『蛇の笛』『黙示』『定本・富澤赤黄男全句集』
南国のこの早熟の青貝よ
鶴渡る大地の阿呆 日の阿呆
椿散るああなまぬるき昼の火事
瞳に古典紺々とふる牡丹雪
蝶墜ちて大音響の結氷期
爛々と虎の眼に降る落葉
石の上に 秋の鬼ゐて火を焚けり
流木よ せめて南をむいて流れよ
大露に 腹割ち切りしをとこかな
切株は じいんじいんと ひびくなり
零(ゼロ)の中 爪立ちをして哭いてゐる
草二本だけ生えてゐる 時間
富安風生 (とみやす ふうせい)
明治18年(1885)~昭和54年(1979)93歳。 愛知県生れ。東京都在住。 「若葉」主宰
吉岡禅寺洞、高浜虚子に師事。「天の川」創刊同人。のち「ホトトギス」に同人。東大俳句会に参加。昭和3年「若葉」創刊。昭和46年日本芸術院賞受賞。日本芸術院会員。※旧制一高・東京帝大法科出身
句集:『草の花』『十三夜』『松籟』『冬霞』『村佳』『母子草』『朴落葉』『晩涼』『古稀春風』『愛日抄』『喜寿以後』『傘寿以後』『米寿前』『齢愛し』『走馬燈』
よろこべばしきりに落つる木の実かな
みちのくの伊達の郡の春田かな
何もかも知つてをるなり竈猫
まさをなる空よりしだれざくらかな
こときれてなほ邯鄲のうすみどり
鳥居真理子 (とりい まりこ)
昭和23年(1948) 東京都生れ。 「門」「船団」
昭和62年「門」入会。後「船団」にも属す。第12回俳壇賞・第8回加美俳句大賞受賞。
句集:『鼬の姉妹』『月の茗荷』
鉄棒に折りたる花の夜のからだ
陽炎や輪にすれば紐おそろしき
天上にちちはは磯巾着ひらく
福助のお辞儀は永遠に雪がふる
遺書のごと雪がふるふるお母さん
遠山陽子 (とうやま ようこ)*旧俳名 飯名陽子
昭和7年(1932) 東京都生れ。「弦」主宰・「面」「雷魚」
藤田湘子・三橋敏雄に師事。昭和32年より作句。「鷹」創刊に参加、同人。のち三橋敏雄に師事。敏雄の研究誌「弦」を発行。「面」「雷魚」同人。昭和54年度茨城文学賞・第11回六人の会賞・第33回現代俳句協会賞・第4回桂信子賞受賞。
句集:『弦楽』『黒鍵』『連音』『高きに登る』『弦響』 著作:『評伝 三橋敏雄』
父ほどの男に逢はず漆の実
どのやうに兎抱いても母なきなり
大年の海原叩け鯨の尾
地の果は海のはじまりかもめ来よ
敗戦日ジンベイザメを下から見て
小鳥くる空気恐ろし水恐ろし
殿村菟絲子 (とのむら としこ)
明治41年(1908)~平成12年(2000)91歳。 東京生れ。 元「万蕾」主宰
水原秋桜子に師事。昭和11年秋桜子「馬酔木」入会。同25年同人。同29年加藤知世子、柴田白葉女らと「女性俳句」を興す。昭和30年石田波郷の「鶴」に同人参加。昭和47年「万蕾」を創刊主宰す。平成7年終刊。第18回俳人協会賞受賞。*府立第一高女(現都立白鴎高校)出身
句集:『絵硝子』『路傍』『牡丹』『』旅雁『』『樹下』『晩緑』『菟絲』ほか 著作:『季節の雑記』ほか
獅子舞の骨まで崩し伏せりけり
淡墨桜聴けば快楽の日もありき
枯れてより現し世永しうめもどき
鮎落ちて美しき世は終りけり
枯るるなら一糸纏はぬ曼珠沙華
富田木歩 (とみだ もっぽ)
明治30年(1897)~大正12年(1923)26歳。 東京生れ。
原石鼎の指導、臼田亜浪に師事。「石楠」入会、のち水巴の「曲水」に拠る。2歳の時歩行不能となり、又貧困のため教育を受けられなかった。関東大震災で横死。
我が肩に蜘蛛の糸張る秋の暮
背負はれて名月拝す垣の外
かそけくも咽喉鳴る妹よ鳳仙花
女視(した)しう夜半を訪ひよる蒸し暑き
富田敏子 (とみた としこ)
昭和11年(1936) 東京都生れ。 無所属
元「東虹」同人。現代俳句協会会員。第5回雪梁舎俳句大賞受賞。
句集:『もみじ坂』『水位』『ものくろうむ』『天上飛花』
ただようておりくず切を噛んでおり
水に浮く桃どこからも攻められず
風の服つくる北風役の子に
天上飛花大いなる気につつまれる
友岡子郷 (ともおか しきょう)
昭和9年(1934) 兵庫県生れ。「椰子」代表・「柚」
波多野爽波,飯田龍太に師事。「青」の編集を担当。のち「雲母」 を経て「白露」「柚」同人。「椰子」代表。第6回四誌連合会賞・第1回雲母選賞・第25回現代俳句協会賞・第6回俳句四季大賞・第24回詩歌文学館賞・第5回小野市詩歌文学賞・第52回蛇笏賞受賞。
句集:『遠方』『日の径』『未草』『春隣』『風日』『翌』『雲の賦』『友岡子郷俳句集成』『黙礼』『海の音』 著作:『飯田龍太鑑賞ノート』『天眞のことば』ほか
跳箱の突き手一瞬冬が来る
蛇崩れの坂を水仙負ひ下る
返りはな知己のひとりは国の外
鯔(いな)がとび鯔(ぼら)とび父の日なりけり
倒・裂・破・崩・礫の街寒雀
夕刊のあとにゆふぐれ立葵
手毬唄あとかたもなき生家より
豊山千蔭 (とよやま ちかげ)
大正3年(1914)~平成15年(2003)90歳。福岡県生れ。 「海程」「寒雷」
昭和27年「寒雷」入会。「寒雷」「海程」「暖鳥」同人。現代俳句協会賞・第29回青森県文化賞受賞。※北海道帝大林学科出身
句集:『蟹の鋏』『氷結音』ほか
川涸れて小石ひしめく夜の盲
縄綯ひて夜の耳白む結氷音
蟹の鋏が硝子を擦って満月なり
土肥幸弘 (どひ よしひろ)
昭和4年(1929) 兵庫県生れ。 「玄鳥」主宰
中学時代から作句.西東三鬼の指導を受ける。中断後昭和42年「水鳥」入会.平成7年「玄鳥」創刊。
句集:『梟夢』
枝豆も箱の湿りて届きたる
鷹の眼を八日九夜煮ていたり
春障子灯が点いてすぐ消えにけり
徳弘 純 (とくひろ じゅん)
昭和18年(1943)高知県生れ。大阪府在住。 「花象」
鈴木六林男に師事。「花曜」同人。
句集:『非望』『麥のほとり』『レギオン』『褶曲』
嬰児には見えず涅槃の通り雨
暗がりに外套ならぶ昭和かな
生前の西日に満ちて家の中
踏んで消す鼠花火と軍歌かな
鳥居美智子 (とりい みちこ)
昭和7年(1932) 東京都生れ。 「ろんど」
角川源義に師事。「河」「人」を経て「ろんど」所属。昭和51年河新人賞・人賞受賞。
句集:『桜の州』『すみれ角力』『水鳥』『夢疲れ』
遠き日もすみれ角力に負けしかな
たちばな色の鈴縫ひ込まむ夏布団
罅(ひび)に蟻湧く観音に詣でけり
藤後左右 (とうご さゆう)
明治41年(1908)~平成3年(1991)83歳。 鹿児島県生れ。「天街」
鈴鹿野風呂、高浜虚子に師事。平畑静塔らと「京大俳句」を創刊。戦後「天街」創刊、代表同人。※旧制七高・京都帝大医学部出身
句集:『熊襲ソング』『藤後左右句集』『ナミノコ貝』『新樹ならびなさい』『藤後左右全句集』
夏の山と熔岩(らば)の色とはわかれけり
噴火口近くて霧が霧雨が
曼珠沙華どこそこに咲き畦に咲き
舞ひの手や浪速をどりは前へ出る
横町をふさいで来るよ外套(オーバ)着て
時実新子 (ときざね しんこ)
昭和4年(1979)~平成19年(2007)76歳。岡山県生れ。兵庫県在住。 *川柳作家 「川柳大学」主宰
1995年神戸新聞平和文化賞受賞。
句集:『有夫恋』『愛走れ』ほか多数。
赤に黄に風車舞う子が欲しや
滝しぶき抱擁地獄無限地獄
蝶その日ハガネのような死を果す
かくれんぼして花かげの花になる
豊口陽子 (とよぐち ようこ)
昭和13年(1938)東京生れ。埼玉県在住。 「LOTUS」
安井浩司に師事。「山河」「流域」「國」「未定」を経て「LOTUS」創刊同人。
句集:『花象』『睡蓮宮』『藪姫』
信濃という貌ありわらわら雪が降る
美濃の鯉相聞の墨ながしけり
水底の春よ詩人はP(リン)である
絶景や大蛤の開かずの間
死は途中紅梅われを過ぎゆけり
豊田都峰(とよだ とほう)
昭和6年(1931)~平成27年(2015)84歳。京都生れ。 「京鹿子」主宰
鈴鹿野風呂、丸山海道に師事。昭和23年「京鹿子」入会。海道主宰没後、平成11年主宰を継承。第10回俳句四季大賞・平成24年度京都市芸術振興賞受賞。※立命館大学文学部出身。
句集:『野の唄』『川の唄』『山の唄』『木の唄』『雲の唄』『風の唄』『草の唄』『土の唄』『水の唄』
白梅とわかるとほさでひきかへす
竹秋や夕日はいつもななめなり
獅子舞のまず大空を噛みにけり
土肥あき子 (どい あきこ)
昭和38年(1963) 静岡県生れ。東京都在住。 「絵空」
平成10年「鹿火屋」入会,同人。「ににん」編集長を務めたが退会。
句集:『鯨が海を選んだ日』『夜のブランコ』
水温む鯨が海を選んだ日
麦秋や諸手をあげれば腋さびし
夜のぶらんこ都がひとつ足の下
鴇田智哉 (ときた ともや)
昭和44年(1969) 千葉県生れ。東京都在住。 「オルガン」
今井杏太郎に師事。平成8年「魚座」入会。平成19年「雲」編集長。平成25年退会。平成13年第16回俳句研究賞・平成17年第29回俳人協会新人賞・第6回田中裕明賞受賞。
句集:『こゑふたつ』『凧と円柱』
逃水をちひさな人がとほりけり
まんなかが窪む遅日のひとだかり
上着きてゐても木の葉のあふれ出す
顔のあるところを秋の蚊に喰はる
ドゥーグル・J・リンズィー
1971年オーストラリア生まれ。神奈川県在住。 「海程」・「芙蓉」
1991年「寒雷」投句。94年「海程」投句。「芙蓉」会員。第7回中新田俳句大賞受賞。海洋生物研究者。
句集:『むつごろう』『出航』
海蛇の長き一息梅雨に入る
掬ふ掌のくらげや生命線ふかく
「しんかい」や涅槃の浪に呑まれけり
冨田拓也 (とみた たくや)
昭和54年(1979) 大阪府生れ。
師系なし。平成13年より句作をはじめたという。平成14年第1回芝不器男俳句新人賞受賞。
句集:『青空を欺くために雨が降る』
みどり子に蟻の行列近づきぬ
雁啼くや夜目にも見ゆる針の山
富田潮児 (とみた ちょうじ)
明治43年(1910)~平成23年(2011)101歳。 愛知県生れ。 「若竹」名誉主宰。
村上鬼城に師事。10代後半に両眼失明。昭和3年「若竹」創刊、平成2年まで主宰。父は俳人の富田うしほ。
句集:『夢窓庵随唱』『富田潮児句集』
眼に光覚え半夏に奇蹟待つ
見えぬ眼に光を覚え菊の酒
物怪といふ名をもらひ生身魂
徳田千鶴子 (とくだ ちづこ)
昭和24年(1949) 東京都生れ。 「馬酔木」主宰
父、水原春郎に師事。平成4年「馬酔木」入会。10年同人。以後編集長、副主宰をへて平成24年主宰継承。
天窓より光のシャワー苺盛る
端居して懐にある夕明り
折鶴に息吹きこみて夜の朧