学術系Vtuberと学ぶゼミ・シーズン2第1回の報告と予告
こんにちは。
学術系Vtuberと学ぶゼミ・シーズン2(物理・環境)第1回(2024年5月27日@Google Meet)の報告をします。
メンターは、産業エコ系VTuber KIWAMU(きわむ)さんです。
第1回のテーマは、化石燃料を使った発電。
工学研究科 博士課程後期修了のメンターが、わかりやすいスライドで説明します。
まずは、肩書になっている「産業エコ」って何?という話から。
参加者に「産業エコ」という言葉を知っている人は残念ながら、いなかったのですが、SDGs(エス・ディー・ジーズ、Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)は、ほとんどの人が聞いたことがあると思います。
その「持続可能」って何?を追求するのが、産業エコ=産業エコロジーという学問です。
エコロジー(生態学)は、わかりやすく言うと、地面から植物が生えていて、その植物を草食動物が食べて、その草食動物を肉食動物が食べて、肉食動物が死骸となって、地面が吸収して養分となって、また植物が生えて、草食動物が食べて…という自然界の生き物のサイクル。
これを産業にあてはめたら持続可能な産業になるのではないか…と考える学問が産業エコロジーです。
ものを作って、使って、捨ててリサイクルに回すときに新しいものを作ったり、捨てた後でうまく燃やしてエネルギーを作ったり…とサイクルを作って、産業を持続可能にしていこうとしているわけです。
では、エネルギーとは何でしょうか?
ニュースなどでよく聞く言葉ですが、きちんと定義をすると、仕事をすることができる能力のことです。
その、仕事とは何でしょうか?
こちらは、力を加えて物体を移動させること。
「力の大きさ」×「移動距離」という式で求められます。単位は「J(ジュール)」です。
仕事に関しては、物体に同じ仕事をする場合、どんな道具を使っても、仕事の大きさは変わらない、という原理があります(仕事の原理)。
エネルギーや仕事、仕事の原理は、中学3年の理科の教科書に出てくる言葉だと思います。
例えば荷物を持ち上げることは、運動エネルギーを位置エネルギーに変換することでもあります。
そこでお次は、エネルギーの変換についてです。
参加者に、電気エネルギーを熱エネルギーに変換している身の回りの例を出してもらったところ、電気ストーブ、IHコンロがまず挙がりました。
電子レンジも出ましたが、いったんマイクロ波(振動)という力学的エネルギーに変換しているので、ストレートに電気エネルギーを熱エネルギーに変換しているわけではないそうです。
冷蔵庫について、メンターは、
「温める効果を考えがちですが、冷める効果も重要なエネルギーの変化なので、良い例ですね」
と言って、ペルチェ素子に言及しました。
扇風機は、羽根を回して、起こった風で、結果として私たち人間が涼しく感じるものなので、むしろ電気エネルギーを力学的エネルギーに変換している例ではないか、とのことでした。
ドライヤーは温風を出すので、例として適切だそうです。
「周りにいろいろありますね」
と、参加者も改めて驚いた様子でした。
反面、
「熱エネルギーを電気エネルギーに変換している例は、難しいです、、、」
という声が上がりましたが、それは、このあと出てくる火力発電です。
ここまでで、エネルギーと熱に大きな関係があることがわかってきたかと思います。
ちなみに、化学エネルギーから力学的エネルギーへの変換の例として、爆発が挙がりました。
トンネルを掘るときや建物を解体するとき、ダイナマイトを使って爆破します。
ダイナマイトの原料はニトログリセリンですが、ニトログリセリンは窒素の化合物である硝酸からできています。
メンターのもうひとつの専門、窒素につながりました!
ところで、エネルギー変換って、好きなだけできるのでしょうか?
無駄なく100%、エネルギーを変換することはできるのでしょうか?
エネルギー変換の前後で、エネルギーの総量は変わりません。
これはエネルギー保存の法則と呼ばれていて、中学3年の理科の教科書に出てくるキーワードだと思います。
実際にはエネルギーが少なくなったように思えることもありますが、それは摩擦熱や振動など、他のエネルギーにも変換されているからです。
特に熱は、周囲に伝わりやすく、拡散しやすいため、他のエネルギーに変換する際、無駄が出やすいです。
高校の物理基礎の教科書には、熱力学第一法則が出てきます。
熱の作用によって仕事が生み出されるすべての場合に、その仕事に比例した量の熱が消費され、逆に、同量の仕事の消費においては同量の熱が生成される、という経験則に基づいた原則です。
ちょっと難しいなあと感じる人は、熱に関するエネルギー保存の法則と考えるといいと思います。
わかりやすくポイントを指摘すると、逃げてしまって無駄になる熱エネルギーがありますよ、ということです。
ついでに、熱力学第二法則を見ておきましょう。
こちらは、低温の熱源から高温の熱源に正の熱を移す際に、他に何の変化も起こさないようにすることはできない、という内容で、通常の課程では大学で学ぶことになります。
「なぜ熱力学第一法則等の熱力学法則が成り立つのでしょうか?」
と興味をもった未来の科学者もいました(将来の活躍が楽しみです)。
ここではまず、エネルギー変換にはロスが伴うこと、を押さえておきましょう。
そして、お待たせしました、いよいよ本日のテーマである火力発電、化石燃料を使った発電に入ります。
日本の発電はどのように行なわれているのでしょうか?
資源エネルギー庁のwebサイトに掲載されている「総合エネルギー統計」の2022年度速報値のグラフを見ると、石油・石炭・天然ガス(LNG)など化石燃料への依存度が84%にもなっていることがわかります。
石炭火力発電は、石炭を粉にして燃やして、電力に変換する方法です。
昔は国産の石炭を使っていましたが、今では輸入が多くなっています。
この石炭火力発電への風当たりが強くなってきていて、COP(コップ、国連気候変動枠組条約締約国会議)と呼ばれる、UNFCCC(国連気候変動枠組条約)を締約した国と地域が出席する会議では、将来的に石炭火力発電をなくす方向で議論が進んでいます。
石油火力発電は、保管や運搬が楽というメリットがありますが、大部分を輸入に頼っています。
LNG(液化天然ガス)火力、その他ガス火力発電は、燃やした時に出る二酸化炭素が少ないというメリットはありますが、冷やして液体にして保管・運搬するという手間がかかります。
ここで、参加者から質問が出ました。
「風力はないのですか?」
グラフでは、化石燃料以外の発電方法は、原子力、水力、再エネ等、となっていて、再エネ等に、風力はじめ地熱、太陽光などが含まれています。
ただ、なぜ再生可能エネルギーの中で水力だけ、独立の項目になっているのか、気になります。
メンターによると、日本は戦後まもなくまでは水力発電の割合が多い、水主火従という発電構成でした。
いわば水力は立ち位置が違うので、火主水従となった現在でも独立の項目になっているのかもしれません。
さて、化石燃料を使った発電に戻ります。
燃料はいろいろありますが、やっていることは熱エネルギーを最終的に電気エネルギーに変えることで、要は同じです。
具体的な発電の方法はさまざまで、汽力発電、内燃発電、ガスタービン発電、コンバインドサイクル発電の4つの発電方式が紹介されました。
最後のコンバインドサイクル発電は、ガスタービンと蒸気タービン(汽力発電)を組み合わせて熱エネルギーを効率よく利用する発電方式で、今、日本のほとんどの火力発電所はこの方式になっています。
その仕組みについても図を見ながら学びましたが、最新鋭の発電所では、発電効率は63%にも達するそうです(一般的な火力発電では約40%)。
化石燃料を使った発電は、燃料を燃やす際に排ガスとして、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガス(GHG)を排出するので、環境への影響が気になります。
そのため、化石燃料を使った発電の改良、つまりエネルギー変換の効率を上げることは、地球温暖化の対策のためにも重要となります。
ここからは質問タイムです。
参加者「火力発電以外に熱から電気に変換する方法はありますか?」
メンター「あります。例えば、ゼーベック素子は、基板の左右の温度差から電流が流れるものです」
参加者「電気から熱はたくさんあったので気になりました」
メンター「いい着眼点だと思います。新しい研究テーマが見つかるかもしれませんね」
参加者「ダイラタンシーは力学的エネルギーから化学エネルギーへの変換になってないですかね」
ダイラタンシーとは、ゆっくりさわったときはドロドロしているのに、素早くさわったとき固くなるという現象のことです。
メンター「構造変化なので、化学エネルギーへの変換とは言えないですね」
参加者「生物では力学的エネルギーから化学エネルギーになることがあるんじゃないでしょうか」
参加者「咀嚼することで食べ物が化学変化するとかでしょうか?」
と話が広がる中で、お開きとなりました。
第2回(6月3日20:00-21:00)のテーマは、再生可能エネルギーを使った発電です。
申込みは、メール( info@thinkers.jp )、Facebook( @jp.thinkers )のメッセージ、X(旧Twitter)( @jp_thinkers )のDM、いずれでもOKです。
参加費は無料、前提知識は必要ありませんので、お気軽にご参加ください。