心臓リハビリテーションは,CABG後の透析患者の生命予後を改善するか?
おはようございます。University College London (UCL)の理学療法士の倉形です。理学療法士はリハ専門職のひとつです。
今回は,『心臓リハビリテーションは,CABG後の透析患者の生命予後を改善するか?』というクリニカル・クエスチョンに対するコホート研究の論文に関して書きます.
【基本情報】 J am Soc Nephrol. Apr; 17(4):1175-80. 2006 PMID:16481413
タイトル: Cardiac rehabilitation and survival of dialysis after coronary bypass.
著者: Kutner NG, Zhang R, Huang Y, Herzog CA.
この雑誌の2017年のImpact Factor は8.6です。若干低下傾向のようですが、比較的高いImpact Factor です。
【Abstract日本語訳】
透析患者は,心血管疾患とそのリスクファクターという深刻な負担を抱えており,心血管死のリスクが高い.心臓リハビリテーションは,医療保険によってカバーされており,非透析患者のCABG後の生命予後を改善することが明らかになっている.しかしながら,先行研究において心臓リハビリテーションがCABG後の透析患者にとっても有効か否かについて検討したものはない.そこで今回,医療保険申請のデータを用いた前向きコホート研究が施行された.医療保険申請のデータとしてThe United States Renal Date System databaseからCABGと心臓リハビリテーションの実施歴と患者情報が調べられた. 対象は,6215名の腎臓病患者であった.データベース上の腎臓病患者のうち、1998年1月1日から2002年12月31の間に透析導入およびCABGを実施した患者を対象とした.対象者の死亡率を2003年12月31日まで追跡した.心臓リハビリテーションは,医療保険に申請された監視下もしくは非監視下での運動療法と定義した(注:本文を読んだ印象では,運動療法のみで患者指導は含まれていない模様でした).各運動療法は,医師診療行為用語コードに記載されている名目であった.CABG後に心臓リハビリテーションを実施した透析患者は,実施しなかった透析患者と比較し全死亡が35%減少し,心血管死が36%減少した.心臓リハビリテーションの未実施は,新規の入院を含む社会人口学的,臨床的なリスクを規定する独立したファクターであった.一般人口の患者が推定23.4%心臓リハビリテーションを実施しているのに対して,CABG患者は10%の実施に留まっていた.また,全ての年代の低所得者と同様に,女性,65歳以上の黒人患者は有意に心臓リハビリテーションを実施する割合が低かった.この観察研究は,心臓リハビリテーションがCABG後の透析患者の生命予後に対しての有効性を示唆している.
以下は,私見というか私の解釈です.
全体として、この論文の結論は,研究デザイン上の問題点はあるもの概ね支持でき,心リハ対象患者で透析をされている方に対する説明に使えるものと思います.
問題点は,RCTではないということです.
運動療法の有無で両群の背景が揃えられていないため,バイアスのコントロールがなされていないということです.本文の中でも両群のデータは比較されておりません(対象者全体の平均値などの記載はあります).うがった見方をすれば,心リハ実施群の年齢が圧倒的に若い可能性もあります.
しかしながら,本論文は,以下の三つの優れた点があります.
①心リハが『透析を行っていないCABG患者』と同様に良い結果を導いている。
もしも,先行研究とは真逆の『心リハは生命予後を悪化させる』という結論が導かれれば,なぜ透析患者だけ全く異なった結果になるのか,多大な根拠の説明が求められると思われます.
②最大でも6年間という中期の追跡にも関わらずインパクトのある死亡減少となっている.
③十分なサイズを有している.
“死亡”というアウトカム(有害事象)の中では比較的頻度の少ないもの評価するにはある程度のn数を要すと思われます.もし,サイズが不十分であれば,一件の死亡に結果が大きく引っ張られてしまったり、差を見逃してしまう可能性があります(この研究では両群間で比較を行ってはいませんが・・・)。
以上より,結論を完全に支持するにはRCTを待たなければいけませんが,概ね支持されると考えます.
CABG+透析で『今更何をやっても意味がないよ.』と言い出しそうな患者さんに対して,『ところが,頑張るといいことがあるんですよ.』と説明する根拠になると思われます.
10年以上前の論文なので、もしかしたら既にどこかの研究チームがRCTを行ったかもしれませんが。。。 以前読んだ論文が出てきて懐かしかったので書いてみました。
今日も、最後までお付き合い頂きありがとうございます。
理学療法士 倉形裕史
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