台風について
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/typhoon/index.html 【台風について】より
台風とは
熱帯の海上で発生する低気圧を「熱帯低気圧」と呼びますが、このうち北西太平洋(赤道より北で東経180度より西の領域)または南シナ海に存在し、なおかつ低気圧域内の最大風速(10分間平均)がおよそ17 m/s(34ノット、風力8)以上のものを「台風」と呼びます。
台風は、通常東風が吹いている低緯度では西に移動し、太平洋高気圧のまわりを北上して中・高緯度に達すると、上空の強い西風(偏西風)により速い速度で北東へ進むなど、上空の風や台風周辺の気圧配置の影響を受けて動きます。また、台風は地球の自転の影響で北~北西へ向かう性質を持っています。
台風は暖かい海面から供給された水蒸気が凝結して雲粒になるときに放出される熱をエネルギーとして発達します。しかし、移動する際に海面や地上との摩擦により絶えずエネルギーを失っており、仮にエネルギーの供給がなくなれば2~3日で消滅してしまいます。また、日本付近に接近すると上空に寒気が流れ込むようになり、次第に台風本来の性質を失って「温帯低気圧」に変わります。あるいは、熱エネルギーの供給が少なくなり衰えて「熱帯低気圧」に変わることもあります。上陸した台風が急速に衰えるのは水蒸気の供給が絶たれ、さらに陸地の摩擦によりエネルギーが失われるからです。
台風の一生
台風の一生は、大別すると発生期、発達期、最盛期、衰弱期の4つの段階に分けることができます。日本に接近する台風は主に最盛期と衰弱期のものです。(衛星画像は平成30年台風第21号)
発生期
発生期の台風の衛星画像
台風は赤道付近の海上で多く発生します。海面水温が高い熱帯の海上では上昇気流が発生しやすく、この気流によって次々と発生した積乱雲(日本では夏に多く見られ、入道雲とも言います)が多数まとまって渦を形成するようになり、渦の中心付近の気圧が下がり、さらに発達して熱帯低気圧となり、風速が17 m/sを超えたものを台風と呼びます。
発達期
発達期の台風の衛星画像
発達期とは、台風となってから、中心気圧が下がり勢力が最も強くなるまでの期間を言います。暖かい海面から供給される水蒸気をエネルギー源として発達し、中心気圧はぐんぐん下がり、中心付近の風速も急激に強くなります。
最盛期
最盛期の台風の衛星画像1
最盛期とは、中心気圧が最も下がり、最大風速が最も強い期間を言います。
最盛期の台風の衛星画像2
台風の北上に伴い、中心付近の風速は徐々に弱まる傾向に入りますが、強い風の範囲は逆に広がります。
衰弱期
衰弱期の台風の衛星画像1
台風は海面水温が熱帯よりも低い日本付近に来ると海からの水蒸気の供給が減少し、熱帯低気圧や温帯低気圧に変わります。
温帯低気圧化/熱帯低気圧化
北から寒気の影響が加わると、寒気と暖気の境である前線を伴う「温帯低気圧」に変わります。この時、低気圧の中心付近では多くの場合風速のピークは過ぎていますが、強い風の範囲は広がるため低気圧の中心から離れた場所で大きな災害が起こったり、あるいは寒気の影響を受けて再発達して風が強くなり災害を起こすこともありますので注意が必要です。
また、台風がそのまま衰えて「熱帯低気圧」に変わる場合もありますが、この場合は最大風速が17 m/s未満になっただけであり、強い雨が降ることがありますので、「温帯低気圧」、「熱帯低気圧」いずれの場合も消滅するまで油断はできません。
台風の大きさと強さ
気象庁は台風のおおよその勢力を示す目安として、下表のように風速(10分間平均)をもとに台風の「大きさ」と「強さ」 を表現します。
「大きさ」は強風域(風速15 m/s以上の風が吹いているか、吹く可能性がある範囲)の半径で、 「強さ」は最大風速で区分しています。
さらに、風速25 m/s以上の風が吹いているか、吹く可能性がある範囲を暴風域と呼びます。
強さの階級分け
階級 最大風速
強い 33 m/s(64ノット)以上~44 m/s(85ノット)未満
非常に強い 44 m/s(85ノット)以上~54 m/s(105ノット)未満
猛烈な 54 m/s(105ノット)以上
大きさの階級分け
階級 風速 15 m/s以上の半径
大型(大きい) 500 km以上~800 km未満
超大型(非常に大きい) 800 km以上
大型、超大型の台風それぞれの大きさは、日本列島の大きさと比較すると以下のようになります。 大型、超大型の台風それぞれの大きさは、日本列島の大きさと比較すると以下のようになります。
台風の大きさ
台風に関する情報の中では台風の大きさと強さを組み合わせて、「大型で強い台風」のように呼びます。ただし、強風域の半径が500 km未満の場合には大きさを表現せず、最大風速が33 m/s未満の場合には強さを表現しません。例えば「強い台風」と発表している場合、その台風は、強風域の半径が500 km未満で、最大風速は33~43 m/sで暴風域を伴っていることを表します。
なお、台風情報では暴風域を円形で示します。この円内は暴風がいつ吹いてもおかしくない範囲です。
台風の発生、接近、上陸、経路
30年間(1991~2020年)の平均では、年間で約25個の台風が発生し、約12個の台風が日本から300 km以内に接近し、約3個が日本に上陸しています。発生・接近・上陸ともに、7月から10月にかけて最も多くなります。
月別の台風の発生・接近・上陸数の平年値グラフ月別の台風の発生・接近・上陸数の平年値グラフ
台風は、春先は低緯度で発生し、西に進んでフィリピン方面に向かいますが、夏になると発生する緯度が高くなり、下図のように太平洋高気圧のまわりを回って日本に向かって北上する台風が多くなります。8月は発生数では年間で一番多い月ですが、台風を流す上空の風がまだ弱いために台風は不安定な経路をとることが多く、9月以降になると南海上から放物線を描くように日本付近を通るようになります。このとき秋雨前線の活動を活発にして大雨を降らせることがあります。室戸台風、伊勢湾台風など過去に日本に大きな災害をもたらした台風の多くは9月にこの経路をとっています。
台風の月別の主な経路台風の月別の主な経路
台風の月別の主な経路(実線は主な経路、破線はそれに準ずる経路)
台風の寿命(台風の発生から熱帯低気圧または温帯低気圧に変わるまでの期間)は30年間(1991~2020年)の平均で5.2日ですが、中には昭和61年(1986年)台風第14号の19.25日という長寿記録もあります。長寿台風は夏に多く、不規則な経路をとる傾向があります。
台風の番号とアジア名の付け方
台風の番号の付け方
気象庁では毎年1月1日以後、最も早く発生した台風を第1号とし、以後台風の発生順に番号をつけています。なお、一度発生した台風が衰えて「熱帯低気圧」になった後で再び発達して台風になった場合は同じ番号を付けます。
台風のアジア名の付け方
台風には従来、米国が英語名(人名)を付けていましたが、北西太平洋または南シナ海で発生する台風防災に関する各国の政府間組織である台風委員会(日本含む14カ国等が加盟)は、平成12年(2000年)から、主に下に記すことを目的として、北西太平洋または南シナ海の領域で発生する台風には、同領域に共通のアジア名として、同領域内で用いられている固有の名前(加盟国などが提案した名前)を付けることになりました。
国際社会への情報に台風委員会が決めた名前をつけて、それを利用してもらうことによって、アジア各国・地域の文化の尊重と連帯の強化、相互理解を推進すること
アジアの人々になじみのある呼び名をつけることによって人々の防災意識を高めること
平成12年の台風第1号にカンボジアで「象」を意味する「ダムレイ」のアジア名が付けられ、以後、発生順にあらかじめ用意された140個のアジア名(下の表のリスト)を順番に用いて、その後再び「ダムレイ」に戻ります。台風の年間発生数の平年値は25.1個ですので、おおむね5から6年で台風のアジア名が一巡することになります。
140個のアジア名のうち日本からは、星座名に由来する名前10個を提案しています。星座名を提案した理由として、特定の個人・法人の名称や商標、地名、天気現象名でない「中立的な」名称であること、「自然」の事物であって比較的利害関係が生じにくいこと、大気現象である台風とイメージ上の関連がある天空にあり、かつ、人々に親しまれていることが挙げられます。また、アジア名として採用するには、文字数が多過ぎないこと(アルファベット9文字以内)、音節が多くなくて発音しやすいこと、他の加盟国・地域の言語で感情を害するような意味を持たないことなどの条件もあります。
なお、台風のアジア名は繰り返して使用されますが、大きな災害をもたらした台風などは、台風委員会の加盟国・地域からの要請を受けて、そのアジア名を以後の台風に使用しないように変更することがあります。また、発達した熱帯低気圧が東経180度より東の領域から、または東経100度より西の領域から北西太平洋域に進入してきた場合には、各領域を担当する気象機関によって既に付けられた名前を継続して使用します。このため、下の表に記されない名前が付けられた台風もあります。
気象庁における台風の表記
気象庁では国内の一般向けの情報や刊行物において、「平成12年台風第1号」のように元号及びその年数と台風の番号を並べて表記します。ただし、和暦ではなく西暦を用いる場合や年の表記を省略する場合(年が明らかである時など)もあります。
また、台風を英語で表記する場合は台風のアジア名を用います。Tropical Cyclone(TC)や台風期間中の最大強度(風速)に応じた階級
Tropical Storm(TS):最大風速34ノット以上48ノット未満
Severe Tropical Storm(STS):最大風速48ノット以上64ノット未満
Typhoon(TまたはTY):最大風速64ノット以上
を台風のアジア名の前に付す場合もあります。さらに、台風名は繰り返し使用されますが、台風名の後に((T)西暦年下二桁 台風の番号)を併記することで、特定の台風を表すことができます。例えば、平成12年台風第1号(台風名はDamrey)の階級はTyphoonであるため、「Typhoon Damrey」、「TY Damrey (0001)」、「Damrey (T0001)」等と表記します。台風とその階級の対応については、台風階級対応表【CSV形式】(1977年から2023年まで)1をご参照ください。
台風階級対応表ファイル内の台風名に一部誤りがありましたので修正しました。修正箇所(令和4年3月30日)
過去の台風の番号と名前の対応表
1951年以降に発生した台風の番号と名前の対応表です。この対応表で台風番号とは、上2桁が西暦年の下2桁、下2桁がその年の台風として発生した順を示しています。例えば、2000年に発生した台風の台風番号は、台風第1号から「0001」、「0002」・・・と続きます。
平成12年(2000年)以降は、北西太平洋または南シナ海で発生する台風防災に関する各国の政府間組織である台風委員会(日本含む14カ国等が加盟)が提案したアジア名ですが、平成11年(1999年)以前は米国が付けた英語名を記載しています。なお、米国が英語名を付けていない場合は空欄としています。
台風の番号の付け方と現在使用しているアジア名リストと、過去の台風とその階級の対応表については台風の番号とアジア名の付け方をご覧ください。
台風に伴う風の特性
台風は巨大な空気の渦巻きになっており、地上付近では上から見て反時計回りに強い風が吹き込んでいます。そのため、進行方向に向かって右の半円では、台風自身の風と台風を移動させる周りの風が同じ方向に吹くため風が強くなります。逆に左の半円では台風自身の風が逆になるので、右の半円に比べると風速がいくぶん小さくなります。
下図は過去の台風の地上での風速分布を右半円と左半円に分けて示した図です。進行方向に向かって右の半円の方が風が強いことが分かります。
風速分布
上図で分かるように、中心(気圧の最も低い所)のごく近傍は「眼」と呼ばれ、比較的風の弱い領域になっています。しかし、その周辺は最も風の強い領域となっています(参考資料:「風の強さと吹き方」)。
また、台風が接近して来る場合、進路によって風向きの変化が異なります。ある地点の西側または北側を、台風の中心が通過する場合、その地点では、「東→南→西」と時計回りに風向きが変化します。逆に、ある地点の東側や南側を、台風の中心が通過する場合は「東→北→西」と反時計回りに変化します。周りに建物などがあると、必ずしも風向きがこのようにはっきりと変化するとは限りませんが、風向きの変化は台風に備える際の参考になります。
室戸台風の被害
室戸台風の被害(昭和9年9月21日:大阪測候所を写したもの)
もし、ある地点の真上を台風の中心が通過する場合は、台風が接近しても風向きはほとんど変わらないまま風が強くなります。そして台風の眼に入ると風は急に弱くなり、時には青空が見えることもあります。しかし、眼が通過した後は風向きが反対の強い風が吹き返します。台風の眼に入った場合の平穏は「つかの間の平穏」であって、決して台風が去ったわけではありません。
台風の風は陸上の地形の影響を大きく受け、入り江や海峡、岬、谷筋、山の尾根などでは風が強く吹きます。また、建物があるとビル風と呼ばれる強風や乱流が発生します。道路上では橋の上やトンネルの出口で強風にあおられるなど、局地的に風が強くなることもあります。
台風が接近すると、沖縄、九州、関東から四国の太平洋側などでは竜巻が発生することがあります。また、台風が日本海に進んだ場合には、台風に向かって南よりの風が山を越えて日本海側に吹き下りる際に、気温が高く乾燥した風が山の斜面を吹き下りるフェーン現象が発生し空気が乾燥するため、火災が発生した場合には延焼しやすくなったりします。
台風に伴う雨の特性
台風は、強い風とともに大雨を伴います。台風は積乱雲が集まったもので、雨を広い範囲に長時間にわたって降らせます。
台風は、垂直に発達した積乱雲が眼の周りを壁のように取り巻いており、そこでは猛烈な暴風雨となっています。この眼の壁のすぐ外は濃密な積乱雲が占めており、激しい雨が連続的に降っています。さらに外側の200~600 kmのところには帯状の降雨帯があり、断続的に激しい雨が降ったり、ときには竜巻が発生することもあります。これらの降雨帯は下の図のように台風の周りに渦を巻くように存在しています(参考資料:「雨の強さと降り方」)。
雲の分布
また、日本付近に前線が停滞していると、台風から流れ込む暖かく湿った空気が前線の活動を活発化させ、大雨となることがあります。
雨による大きな被害をもたらした台風の多くは、この前線の影響が加わっています。和歌山県に上陸した平成2年台風第19号は西日本の太平洋側で総降水量600~1,100 mmの大雨を降らせました。
雨の降り方
九州に上陸した昭和51年台風第17号は、台風が南の海上にあった時から西日本に停滞していた前線の活動を活発化させ、台風がゆっくりと北上したこともあって九州に上陸するまでの6日間にわたって各地に雨を降らせました。徳島県木頭村では1日だけで1,114 mmの雨を降らせ、これは1日の降水量としては当時の日本記録となりました。また、木頭村での総降水量は2,781 mmと、東京の2年分の雨に相当する大量の雨となりました。
このように大量の雨を数日のうちに降らせたため、1都1道2府41県とほぼ日本全域で被害が発生し、死者・行方不明者171人、住家の全半壊・流失5,343棟、住家の浸水534,495棟(消防白書による)という甚大な被害が発生しました。
台風がもたらす雨は、台風自身の雨のほかに、このように前線の活動を活発化して降る雨もあることを忘れてはいけません。