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中小企業の中南米進出を支援するビジネスコラム

中南米進出に向けたフィージビリティスタディ(後篇4)

2018.12.13 21:55

 先週、日本の中小機構様が主催するあるイベントに参加してきました。その中のトークセッションの一つ「日本在住の外国人に直接聞く、海外消費者の日本商品の見方」の内容は、ある意味収穫のあるイベントでした。それは、パネラーに「日本在住の外国人」としてイギリス、スペイン、インドネシア、米国出身の方々が登壇し、司会者と対談する形式でした。司会者は「外国人に人気のある日本商品」として、すし飴、忍者傘、九谷焼、弁当箱など価格を付けたスライドを示しながら、パネラーの関心を問うのですが、ことごとく興味を示されません。この4人が「外国人」を代表するわけではないことは勿論ですが、企画、人選が悪かったのか、それとも事前打ち合わせが不足していたのか、おそらく司会者や多くの聴講者の期待した展開ではなかったように考えます。司会者の意図は分からないのですが、海外消費者の需要とは「日本的な商品」ではなく、需要を満たす「優れた商品」であるのが基本であり、感性に訴える商品の販売についてはブランディングや雰囲気づくりが大切になるのでは、と考えた次第です。

 冒頭から余談が長くなりましたが、今号からはフィージビリティスタディ(F/S)から得られる8つのアウトプットを一つずつ見ていきます。なお、F/Sでは、検証すべき「特定」の重要事項(イシュー)への明確な回答が重要であり、全体の検討項目を網羅すれば良いわけではありません。検討すべきイシューを明確にすることで作業を効率化し、また本当に重要な事項を抽出することが重要であることを念頭に各論を読んでいただければと思います。


1. アウトプット1:市場環境を把握する


 市場環境を把握するにあたって、その進出対象となる中南米の国全体あるいは複数の国々を対象としたマクロ環境と、参入する「業界」でのミクロ環境を分けて分析します。

マクロ環境とは、自然環境や社会経済状況など対象国の基本的な情報のことで、特定の事業を検討する前提ともいえます。気候や宗教などの文化は広範にわたりますが、まずは全般的な情報を整理し、必要に応じて掘り下げるアプローチが良いでしょう。

 そして本題はミクロ環境の把握になるのですが、まず対象国での「市場規模」と「成長性」から「市場の魅力度」を明らかにすることが重要となります。まずは、インターネットや出版物などのパブリックデータを調べることになりますが、それらが乏しい場合、アンケート調査などによる一次データの取得が必要となり、新規参入の多くの場合この作業は必要と考えるべきです。これには当然コストがかかりますが、競合他社が持たない有用なデータ:「差別化の材料」となりえますので前向きに検討しましょう。

 また、政治的要因による業界への影響の可能性についても概略でも検討しておいた方が良いです。例えば、ベネズエラなど政情不安がビジネス環境を貶めている国がある一方、内戦が収束して治安が安定に向かっているコロンビアなど、業界への好悪の影響を視野に入れておくべきです。

2. アウトプット2:競合環境を把握する


 中南米における競合の存在を把握し、自社の競争優位性を客観的に検証することは重要です。しかし、私が本邦中小企業の中南米への進出をお勧めする最大の理由の一つは、競合環境が比較的厳しくないということにあります。それは日本と中南米の地理的な距離の遠さがプラスに働くからです。業種によることはもちろんのことですが、日本の技術が全く認知されていないケースや、日本にとっての「心理的な」参入障壁が日本国内とは異なる競合環境を形成している場合が多いのです。もっとも、対象国の企業が本邦中小企業以上の技術を持った分野もありますので、事前の調査は重要となります。

 皆様は他社との差別化を検討するのに「ポジショニングマップ」を使われているでしょうか。例えば、価格を縦軸にとり、また横軸にはデザイン性を右方向、機能性を左方向にとるグラフなどのことです。競合との差別化の検討では、売り出す製品・サービスの「強み」を表す軸を基本としたポジショニングマップを作成すると良いでしょう。自他の製品やサービスをマッピングしてみて、すでに差別化ができていると判断されるなら良いですが、それでなければ別の視点で見直す必要があります。

 なお、差別化には「持続性」が必要です。価格には一般的に持続性がなく、ブランドには持続性があります。文献1)は、新規参入者のとるべき戦略は、ランチェスター戦略に代表される「弱者の戦略」であることが定石と説きます。そのうえで、海外進出を企図するような日系企業は国内市場において強者の立場にあることが多く、それ故に海外進出においても「強者の戦略」を取ってしまうことを戒めています。ゼロからの差別化を考えることが肝要かもしれません。


 今号を読んで頂きましてありがとうございました。次号でも引き続きフィージビリティスタディ(F/S)から得られるアウトプットを見ていきます。



1) 「海外進出のためのフィージビリティスタディ」芳野剛史著(2015)を基に筆者が作成.