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全国翻訳ミステリー読書会

第12回大阪読書会レポート『われら闇より天を見る』(執筆者・信藤玲子)

2023.03.24 14:00

「あたしは無法者のダッチェス・デイ・ラドリー」

この名台詞で2022年の翻訳ミステリー界を席巻した『われら闇より天を見る』

〈このミステリーがすごい〉〈ミステリが読みたい!〉〈週刊文春ミステリーベスト10〉を制覇した本作を課題書として、2023年3月4日、大阪翻訳ミステリー読書会を開催いたしました。


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1975年、カリフォルニアの小さな町ケープ・ヘイヴンで、ひとつの不幸な事件が起きる。そこから30年経ち、町は再開発の波に襲われて変貌を遂げつつあったが、事件の関係者たちはいまだ立ち直ることができなかった。そして事件の〈犯人〉が町へ帰ってくる……


まず話題になったのは、やはり“無法者” ダッチェスのキャラクターについて。

ここ数年、戦う少女を描いた小説が人気を呼んでいますが、そのなかでもダッチェスは自ら無法者と名乗り、「おまえの首を斬り落としてやる」と啖呵を切る武闘派。

過酷な運命に抗おうとしたダッチェスが犯した罪によって、物語は大きく動き出します。


・ダッチェスがあまりに頑なで、読みはじめたときは受けいれがたく感じた

・最初はその刺々しさ、痛々しさが苦手だった

・再読すると、ダッチェスの攻撃性は母親のスターと幼い弟のロビンを必死に

 守ろうとする思いから生じているのだと理解できた

・攻撃しながら自衛している姿がかわいそうだった

・友人のトマスとのやりとりで垣間見せるユーモアやかわいらしさで好きに

 なった

・ダッチェスとトマスの結びつきに泣いてしまった

・ロビンはダッチェスに頼りきっているが、実はダッチェスもロビンに依存

 しているのでは?


そしてダッチェス一家を見守るおとなたち――スターの元恋人ヴィンセント、スターとヴィンセントの友人であり、ダッチェス一家を守ろうと尽力する警察署長のウォーク、スターの父親のハル――に対しては、こんな意見も。


・おとなたちもみんなダッチェスを愛していることが強く感じられた

・スターはふたりの子どもの母親なのだから、もうちょっとしっかりして

 ほしい

・おとなたちはみんな大事なことを口にしない

・〈悪役〉はひとりもいない

・クリント・イーストウッドにハルを演じてほしい(複数)


先日開催されたYouTubeイベント〈ミステリー翻訳家が語る〉で訳者の鈴木恵さんが語られていたように、根っからの悪人はひとりも出てこないのに、ボタンのかけちがいが積み重なって悲劇が生まれるこの物語。おとなたちの弱さや切なさをもどかしく感じた人が多かったようです。


物語全体の感想としては、以下のような声があがりました。


・細部まで周到にはりめぐらされた伏線が終盤できれいに回収されることに

 感動した

・タナ・フレンチの『捜索者』を思い出した

・カリフォルニアといえば明るい太陽のイメージだったが、厳しい自然描写が  印象的だった

・町の再開発自体は別に悪いことではないのでは?

・(再開発を苦々しく思う)ウォークが過去の思い出にとらわれ過ぎている


解説で書かれているように、作者クリス・ウィタカーはイギリス人でありながら、デビュー作『消えた子供 トールオークスの秘密』から一貫して、アメリカを舞台として小説を書き続けています。


作者が生涯の愛読書として挙げているコーマック・マッカーシー『ザ・ロード』と同様に、本作『われら闇より天を見る』も、容赦のない定めに翻弄される人間を静かに見守るカリフォルニアの断崖やモンタナの大空の描写が心に残ります。

一方で、『消えた子供 トールオークスの秘密』から受け継がれている特徴は、狭い町で暮らす人々が抱える複雑な背景や入り組んだ人間関係が丹念に描かれている点であり、コージーミステリーに近い趣きも感じられます。

つまり、クリス・ウィタカーはアメリカ人作家とイギリス人作家の持ち味を組み合わせたハイブリッドだと言えるのではないか、というのが世話人Nの見立てです。


最後はみんなでオススメ本を紹介。今回は〈私が選ぶ一位オブ一位〉というテーマのもと、これまで〈このミステリーがすごい〉〈ミステリが読みたい!〉〈週刊文春ミステリーベスト10〉で一位を獲った本のなかから、とくにお勧めの作品を教えてもらいました。


・スティーグ・ラーソン『ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女』

 (ヘレンハルメ美穂, 岩澤雅利訳 早川書房) 

 →ミステリが読みたい!(2010年)1位

・皆川博子『死の泉』(早川書房) 

 →週刊文春ミステリー・ベスト10(1997年)1位

・スティーヴン・ハンター『極大射程』 (佐藤和彦訳 新潮社)

 →このミステリーがすごい!(2000年)1位

・アンソニー・ホロヴィッツ『メインテーマは殺人』

 (山田蘭訳  東京創元社) 

 →このミステリーがすごい!(2020年)1位

・ミネット・ウォルターズ『女彫刻家』 (成川裕子訳 東京創元社) 

 →このミステリーがすごい!(1996年)1位


こういったランキングで一位になるのは、それだけ多くの読者の支持を得て、高く評価された証です。けれども、少数票の作品のなかにも読者から熱く支持されるすばらしい物語がたくさんあるのは、このサイトをご覧になっているみなさまならじゅうぶんご存じのはず。

それを念頭において票を投じ、ランキングを眺めるのも、翻訳ミステリー読者のお楽しみです。


というわけで、今年も翻訳ミステリー読者賞の季節になりました。春分の日の2023年3月21日から3月31日までが投票期間になります。

2022年に刊行された翻訳ミステリー作品のなかでとくにお気に入りの一冊を選んで、こちらのサイトのフォームから投票してください。

みなさまの愛のこもった一票をお待ちしております。


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