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丸編み生地製造の勉強-光沢を出したい編-

2018.12.12 08:08

とっても限定的なタイトルだけど、案外生地を作っていく上では大事なことなので光沢についてまとめたいと思う。

光沢を出す方法が解れば、逆にマットにする方法も解るので一石二鳥だ。併せて風合いの考察にも役立つので一石三鳥かもしれない。


光沢とは言葉そのまま、「光」が関係している。生地が光を鏡面反射すると光沢があると人の目は判断する。(これはそのまま色が違って見えたりする「演色性」にも関係がある。)

鏡面反射はそのまま、左のように光が当たる面が平であればあるほど光をまっすぐ跳ね返す力があるので光沢があるように見える。

逆に右のように表面に凹凸があれば光は乱反射して光を跳ね返す力は弱まり光沢が無いように見える。(ちなみに「演色性」とは生地自体は同じ色で染まっていても、光の波長が異なり跳ね返す色味が時間や光源、または生地表面の条件によって変わるため色がブレて見えること。光沢の有無とも非常に関係が深い)


つまり生地を構成している要素が平な面に近ければ近いほど光を跳ね返しやすいため光沢は強くなる。

では光の跳ね返りを鈍らせている原因から考えてみよう。

まずは毛羽だ。糸を撚り、編んだり染めたりして摩擦を繰り返しているうちに表面には無数の毛羽ができる。毛羽は生地表面に無数のソフトな凹凸を作り出すので、生地風合いとしては柔らかく、光沢はマットになる。

なので毛羽を無くすということは光沢を増やすことに繋がる。

毛羽を無くす方法としては、毛焼きやシルケット(減量加工)など後から焼いたり溶かしたりして生地表面の毛羽を減らす加工がある。シルケットは苛性ソーダという劇薬を使用して生地を極度のアルカリ性に振って溶かしていくので、繊維自体は傷みやすく、結果風合いが硬くなるという側面がある。最近ではシルケットをした上に柔軟性のある樹脂を通す事でシルケット後も柔らかさを保つ加工もある。


毛羽を押さえるという方法ではカレンダー加工もある。

同じ生地で左が未加工、右がカレンダー加工である。ウール生地に施すチンツと同じだ。

カレンダー加工は生地を仕上げる時に熱と圧力で押さえつけて物理的に生地表面を平にする加工である。樹脂を使用する事で加工効果の寿命を伸ばすこともできるが、基本的に水につけると光沢は消失する。樹脂を使用すると風合いは硬くなる。


次に光沢を鈍らせている原因として生地自体の凹凸がある。

これは組織的に凹凸があるものや、生地を構成している糸自体の表面の凹凸などがある。

組織に凹凸が無いフラットなものであれば、生地の光沢は出やすい。

糸の表面の話になると、紡績技術と原料繊維まで遡る必要がある。

基本は全て光の反射率なのでそんなに難しい話ではないが、知っていると原料を変えるとどうなるかというイメージがわきやすい。

紡績方法で凹凸を極限まで無くしたものは繊維をひねらない方が凹凸がないので無撚りが究極になる。物理的に撚らずに糸にすることができるのは長繊維(厳密には多少撚りはかかってしまう)のみだ。シルクと化学繊維。綿でも「無撚糸」と呼ばれているものはあるが、短繊維は製造段階で撚りをかけずに作ることは不可能である。

シルクは繊維の長さが1,500m近くあるのでそれをまとめて生糸として非常に光沢に優れた高級原料になっている。化学繊維の長繊維は金型から樹脂を押し出して繊維にしていくので非常に長い繊維になる。それをまとめて糸にしているので光沢がある。

綿やウールなどの短繊維はそれぞれ種類によって繊維の長さが異なるが、どちらも撚りをかけないと糸にならないから、長繊維に比べて光沢が劣ることになる。綿でも「無撚糸」と呼ばれているものはあるが、短繊維は製造段階で撚りをかけずに作ることは不可能である。

化学繊維も製造種類で光沢は異なる。

マルチフィラメントとモノフィラメントの差があり、マルチフィラメントなら構成繊維単体の細さは細くなるので柔らかいけど本数が多いということは表面に凹凸ができるので光沢は鈍る。そしてマルチフィラメントの中でも加工糸(ウーリー)というクリンプ(ちぢれ)をかけたものは表面凹凸を物理的につけていくので光沢が更に鈍い。モノフィラメントは一本の繊維で一本の糸なので、そりゃもう、光沢しかないけど、硬い。痛いくらい硬い。刺さる。


非常に長くなるので天然繊維は割愛するが、twitterで少し綿については触れたので参考にしてもらえればありがたい。


結局、冒頭の表面が平か凹凸があるかがキモなので、光沢を得たければアプローチとしては「凹凸を無くす方法」を模索するのが良い。表面に凹凸が無いということは風合いとしてはツルッと滑らかなタッチになる。逆も然り。ツヤを消したければ表面に凹凸を作ればいい。その場合風合いはフワっとかザラッとかになる。

単純な方法は後加工なんだけど、突き詰めていくと原料までいける。

繊維って深掘りすると面白いよね。