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Moss is Beautiful |FUJII Hisako

息子とハイキングへ行ったはなし

2024.06.13 01:43

先日、小学校の運動会の代休で月曜日がフリーになった息子を誘って、近くの山へハイキングへ行った。

いや、正しくは息子に誘われた。

私は最初、息子が興味がありそうな水族館や映画館を提案したのだが、

息子の方から、

「そういうのはいいからさ、山でも行かない?」

と言ってきたのだ。



うちの家族は夫はもちろん、子どもたちもコケに大して興味がない。

しかし山へ行くとなったら、私がコケを見ずにはいられなくなることを息子は百も承知のはず。

「え、山がいいの?ほんとに?!」

唐突な提案に面食らう私。

でも彼の気が変わらないうちに行くなら行ってしまいたい。

私に一つのアイデアが浮かんだ。

「それならカメラ貸すから、レゴ持って行けば?山の自然をバックに、レゴのいい写真が撮れると思うよ」

「お~、それいいね!」


私たちはさっそく必要な荷物をリュックサックに詰め、山へ向かった。


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電車に乗る前に駅前のスーパーに寄り、息子に「なにかひとつ行動食を買ったら」と言ったら、

しばらく迷って森永のミルクキャラメルを選んだ。

私はその日の午後から用事があり、14時半までには下山して最寄り駅に戻ってこねばならなかった。

電車で移動中、時間内で周れるコースを私が適当に決め、おおまかなスケジュールを息子に伝えた。

その間も、親子二人だけでどこかへ行くことが久しぶり過ぎて、お互い静かにテンションが上がっていた。


電車からバス、ケーブルカー、ロープウェイを乗り継ぎ、

出発からおよそ1時間で展望広場「掬星台(きくせいだい)」に到着。

息子は行動食のキャラメルを大事そうにリュックサックから取り出している。

2人で見晴らし台のベンチに座って景色を眺めながら、二人で1個ずつキャラメルをなめた。

▲ロープウェイからの眺め。摩耶山・掬星台は「星を掬(すく)えるほどの夜景」というのが名前の由来という。



それからアップダウンが少なく短時間で周れるハイキングコースを、他愛もない話をしながら2人で歩いた。

平日の午前中、聞こえてくるのは鳥の声だけで、ハイカーもほとんどいない。


あわただしい日常の中では、いつも途中で脱線・中断しがちなお互いの話を、

今日はじつにゆったりとした気持ちで最後まで漏らさずに聴くことができた。


▲道中によいコケスポットを発見


私がコケを見ていると、普段は数分で「早く行こうよ~」と息子の催促の声が背中に刺さるが、今日はその心配もなかった。

私がカメラを渡すと、息子もコケの森を背景にお気に入りのレゴの撮影タイムに入る。


母はいまが旬のみずみずしいツルチョウチンゴケの雄株を、

息子はレゴが森を冒険するショットを、

同じ空間にいながらめいめいに自分の世界に入り込む。

あぁ、なんて至福の時間だろう!

▲ツルチョウチンゴケの雄株がこんなにみっしりと


▲雄株の雄花盤。前日の雨で最高に潤っている



▲息子もレゴをセッティング


彼が最近ハマっているのは懐かしのハリウッド映画「インディ・ジョーンズ シリーズ」だ。

しかし、レゴが販売している「インディ・ジョーンズ」は持っていないので、

とりあえず彼は手元にあるブロックでインディ・ジョーンズにまつわるあれこれを自作している。

彼の脳内では、これから主人公のインディアナ・ジョーンズがトロッコに乗って秘宝を探す旅に出るところのようだ


▲未開の森の急坂を駆け下りてくるインディ(息子撮影)。私たちの脳内では映画でおなじみのBGMが流れている


▲はたしてお宝は見つかるのだろうか・・・


▲撮影する息子。自然と私がコケを見る時とまったく同じポーズで笑ってしまった

  ※「顔が見えていないのでOK」とソーシャルメディアネイティブ世代のご本人より許可を得て掲載



▲一方、私の目線は近くのシダへ。しかしコケより大きいシダのほうが私には種類の見当がつけられない・・・


▲種類はわからないが裏は必ず見る派


▲若い胞子のうを見るのが楽しい。今日の子は梅餡の入った水まんじゅうのよう



▲ハイキング道の池のそばではモリアオガエルの卵を発見


▲モリアオガエルもひなたぼっこ中



途中、下草の茂った山道を歩いていたら突然、

「踏んじゃダメ!」

と息子。


何かと思ったらこれだった。

▲オトシブミの揺籃(ようらん:ゆりかご)。巻いた葉の中に卵が入っている



地面に落ちているものをよく見つけたものだと驚いている私をよそに、

「こっちによけておこうね」

と息子はこの葉の巻物を道の脇の茂みにそっと置く。

「これ、オトシブミだよね?」

と聞くと、

「そうそう、中に赤ちゃんが入ってるんだよ」

へー、それも知ってるんだ!

息子は山にも虫にもとくに興味がないと思っていたが、

こちらが知らないうちにどんどんいろんなことを吸収しているんだなー。

そして虫に優しいタイプの人間に育っているのも嬉しい。



▲最近気になっている地衣類もコンクリートの擁壁のあちこちに。この鮮やかな黄色はロウソクゴケかな?


▲山中のお寺の境内にて。胞子散布中のゼニゴケを発見



▲見れば見るほど不思議な形

▲ついついいろんな角度から撮りたくなってしまう



▲ヘビも発見。初夏の陽気で活動的に(動いていたので全体は撮れず)



▲帰る前に摩耶ヴューテラス カフェ702にて2人ともハヤシライスを食す



わずか3時間ほどの滞在。ハイキングというにはあまりに短い時間だったかもしれない。

しかし、森でそれぞれに好きなことをしたり、美しい自然を見たり触ったりしながら、

きれいだね、かわいいねと言い合い、2人で同じ方向を向いて歩くこと。

そして、しばしば顔を見合わせては2人で見たものについて、なんでもない話をなんでもし、

キャラメルをなめながら相手の話にじっくりと耳を傾けること。


シンプルなことだが、なぜか普段はなかなかそういうことができない。

あれやこれやと用事に追われ、用事を完遂することの責任感に追われ、

相手の声が時にうるさく感じてしまうことさえある。


しかし、こういう時間を過ごすことが今の私たちにはもっと必要だ。

こういう時間をたくさん積み重ねられる人生は幸せな人生なのだと思う。


山での時間はいつも私に特別な経験を与えてくれる。

いまはまたその魔法がとけたのように、ゆとりのない煩雑な日常に戻っているが、

この気持ちを忘れそうになったら、また彼を山に誘ってみよう。