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空想都市一番街

闇で見守る者⑧ 優しい朝と別れ

2024.06.06 12:46

その日は何度もした。


何度しても、伊織はずっと優しかったし(激しかったけど)、常にマッサージするかのようにコウタの体に丁寧に愛撫してくれた。


体が持たない時はやめてくれたし、ずっと大事にされ続けた。


やがて、疲れて2人で眠ろうとした時、コウタはふと思った。


明日になれば、もう終わりなのか。


仕事をしていて、朝が来ないでほしいなんて思ったことがなかった。

寂しい、なんて思ったことがなかった。


「どうした、そんな顔をして。」


伊織が大事そうにコウタの頬を撫でる。


「…明日にならないでほしいなって思って」


泣きそうな気持ちをへへ、と笑って誤魔化すコウタに、伊織は優しくキスをした。


「俺もだよ。…また会える。その日まで、また日々を生きよう。」


コウタは腕の中でうんとうなづく。


「また会えるんですよね。俺、待ってますね。毎日頑張って、また会える日を楽しみにしてます」


コウタは抱き寄せられて、撫でられているうちに眠りについた。



次の朝。

昨日のお礼にとコウタが朝ごはんを作った。フレンチトーストとウインナーとスクランブルエッグとサラダ。


料理が下手なコウタもこれくらいなら出来るのだった。


伊織はコーヒーを淹れてくれた。


「美味そうだな。いただきます」


コウタはドキドキしながら伊織の反応を伺う。


「美味い。フレンチトーストも中まで染みてるし焼き加減もちょうどいい。お前、料理苦手と言うけど、こういう塩梅はさすが母親を見て身についているのだな。素晴らしい」


めちゃくちゃ褒められてコウタは嬉しくてニコニコしてしまう。


「よかったです!すごく褒められちゃった。へへ、嬉しい」


2人で平和な優しい朝の時間を過ごす。こんな平和もあるのかと、コウタは温かい気持ちになる。


裏腹に、終わりの時間も近づいていた。


食事が終わって、片付けも終わって、身支度を済ます。


「さて、行こうか」


「はい」


伊織はコウタの手を取ってエレベーターのボタンを押す。


エレベーターが来るまでの間、2人はきつく抱き合ってキスをする


しばらくそうしていると、やがてエレベーターがやってきた。


中に乗り込む時、コウタは後ろを振り返った。大きなガラス窓から明るい外の光と、景色が見えた。


「もしお前が迷ったら、あの明かりを目指していけ」


昨日伊織に言われた言葉を思い出す。あの場所、メインシティー。


そしてエレベーターに乗って、ボタンを押した。




「名残惜しいが、ここで解散だ。俺はこのまま仕事があってな。お前の事務所に連絡はしてあるから、迎えがもうすぐ来るはずだ」


リゾートマンションのエントランスを出ると伊織が言った。


危ないから、と迎えの車が来るまで伊織は一緒に待ってくれた。


まもなく、送迎の車が到着する。


「じゃあな、コウタ。元気で」


伊織はコウタのおでこにキスをして、握手をした。


コウタもその手を握り返す。


「はい。とても幸せな時間でした。ありがとうございます。また、お会いするのを楽しみにしてますね」


寂しかったけど、コウタはできる限り優しく、明るく微笑む。


名残惜しく手を離すとコウタは車に乗り込んだ。


窓を開けて、伊織を見つめる。


「お元気で!」


伊織はああ、とうなづく。

車が走り出すと同時に、伊織も背を向けて歩き出した。


コウタはその後ろ姿を見えなくなるまで見つめていた。