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俳句交流の窓口

2024.06.10 07:25

https://www.haiku-hia.com/about/ 【国際俳句協会 特徴】より

国際俳句協会(Haiku International Association)は、1989年に俳人協会、現代俳句協会、日本伝統俳句協会の支援を受けて設立され、国内外の俳句交流の窓口の役割を果たしています。俳句大会、シンポジウム・講演、機関紙「HI」を通して会員に国際交流の場を提供し、国内では3協会の交流の場となっています。


https://www.haiku-hia.com/overseas/primer/english/archives/1.html 【俳句紀行】より

俳句紀行 - 第1回

英語は便利なツールです。鋏(はさみ)や望遠鏡や如雨露(じょうろ)のように便利です。世界中の俳句仲間と交流するための道具の一つです。

国際俳句交流協会15周年を記念しまして、全10回のシリーズで「宮下惠美子の俳句紀行 -」を企画致しました。 英語ハイクをマイツールにしてみませんか?

この企画では以下の三つのコーナーで毎回一句ずつ紹介をしてまいります。

英語ハイクの鑑賞 ワンポイント・俳句の英訳 ワンポイント・英作ハイク

会員の皆様からのそれぞれのコーナーへの投句もお待ちしております。

英語ハイクの鑑賞

home for Christmas: my childhood desk drawer empty

いきなりクリスマスの句で始まりましたが、これはMichael Dylan Welch(今年はアメリカハイク協会の副会長も務めています。シアトル在住の俳人です)の作品でCor van den Heuvel 編纂の『The Haiku Anthology』 1999年版に出ている私の大好きな句の一つです。

マイケルは、今年の9月21日から25日まで西海岸シアトルの北60マイルほどの港町ポートタウンゼントで開催されます北米ハイク大会の準備に忙しくしている頃だと思います。私も「北米ハイクの行方」を話し合うパネルディスカッションに参加の予定です。

ご興味の在る方はHaiku North America のホームページで詳細をお確かめください。

では、句の鑑賞をはじめたいと思います。クリスマス休暇に実家にもどり、子供の頃に使っていた机を見つけます。そっと抽斗(ひきだし)を開けてみますと、中は空っぽだったという景です。皆様にも身に覚えのある情景ではないでしょうか。空っぽのこの抽斗からは多くのことが見えてきます。読者のそれぞれの人生を重ねて味わっていただきたい句です。マイケルが家を出てからの時間や子供時代の思い出やいろんな目に見えないものがその抽斗には詰まっていたにちがいありません。

home for Christmas: my childhood desk drawer empty

クリスマスで家に戻っている:僕の子供時代の机の抽斗 空っぽ

一行目は「home for Christmas:」のようにコロンで切れています。コロンは切れ字の「や」のようにきっぱりと切りますので、ここで一塊のイメージが提示されています。クリスマスを祝うために家に戻ってきたところです。

二行目と三行目でもう一つのイメージになります。ここでは「僕の子供時代の机の抽斗」と家の中の机の抽斗とだんだん焦点を絞り込んでいます。

そして最後に「空っぽ」という驚きが用意されています。作者はがっかりしたのでしょうか?それともすでに過ぎ去った自分の子供時代を懐かしく思い出しているのでしょうか。

この「空っぽ」の解釈は読者に任されています。私はちょっと切ない感じがいたしましたけど、大人になってしまった自分を実感しているのかもしれませんね。クリスマスの雰囲気がよく出ていると思います。皆様は如何だったでしょうか?

ワンポイント・俳句の英訳

このコーナーでは、惠美子流の英訳の手順を紹介したいと思います。アメリカのハイク誌『モダンハイク』Vol.36.1(2005)に紹介しました岸本直毅さんの句です。

岸本直毅 第一句集「鶏頭」より

From his first haiku collection, Keitou, Cockscomb, 1986

てぬぐひの如く大きく花菖蒲

tenugui no gotoku ohkiku hanashobu as big as a folded hand towel an iris

まず対語訳を付けていきます。これはひたすら辞書引きの作業です。

てぬぐひの如く大きく花菖蒲

hand towel/ 's/ like; as / big/ iris

次にパーツを組み立てます。俳句は短いですからイメージが提示される順序をできるだけ守った英訳が出きたらいいと思っていますが、言語が異なるのですから無理はしません。出来上がった英訳が英語として不自然でも文法をまるっきり無視したものであっても読み手は混乱するばかりです。

形としては三行詩、小文字で始めて終止符は打たない。ピリオドを打たないのはハイクが読者を得てはじめて完結するものであり、開かれた詩形だからです。

原句では花菖蒲が下五にあるので英訳でもアイリスを三行目に持って来ようと決めました。またこの句の場合、ハンドタオルとしますと広げたままの大きさを思い描かれてしまう可能性がありますので補足訳として畳んだ手ぬぐいの大きさが分かるようにしました。

より的確な鑑賞の手助けとなるように手ぬぐいという日本のハンドタオルの説明を脚注として付けることにしました。

文化の異なる読者に読んでいただく場合は背景となることの説明を無理に句の中へ入れ込もうとせずに脚注で説明をし鑑賞をより正確にしていただくという親切も必要かと思います。参考までに「モダンハイク」に載せました説明は↓以下の通りです。

Note: Tenugui is a Japanese hand towel made of cotton, usually white with an indigo print on it. It is almost the size of regular hand towel. It was an essential item for the pre-War Japanese life style—it could be used as hand towel, tied around one's head as a hair band, or it could be used as a scarf to wrap one's head when working or when one does not want to show his/her face. It is also a useful item for a 落語家 rakugoka story teller, for whom it can serve as a book when he opens it on his hand, etc. The author is comparing a folded towel of this size with the iris flower. The color of the tenugui, indigo and white, is somehow similar to that of the iris

伝えたいことがあると、頑張って伝えようと努力します。これが大切なことなのだと思います。

ワンポイント・英作ハイク

ここでは実際に英語でハイクを書いてみたいと思います。留意することは↓以下の3点です。

1) 三行で書く

2) 小文字で始めて最後にピリオドを打たない

3) 地球の動き(公転自転を含めて)によってもたらされる変化をキャッチして一句の中に取り入れる

* これは季節であったり朝や夜であったりするのですが、『歳時記』がなくても世界中で俳句は書けるのです!

3月にカナダのニューファンドランド島で俳句の朗読をしてきました。

好評だったのが次の句です。

この句はルーマニアのIon Codrescu 編集長のハイク誌「Hermitage 」Vol.2 2005に掲載されました。

the rumble of waterfalls  becomes distant—  I worry about my car key

滝音のはづれまで来て鍵のこと       宮下惠美子

拙句集『たちまち』の中の一句のイメージを英語で俳句にしてみた句です。 英語では主語が必要な場合がありますので、I(私は)を補ってあります。

なるべく「私が私が」にならないように書くのが英語ハイクだといわれますが必要に応じて I (私は)を入れてもよいと私は思っています。

以上、お楽しみいただけましたでしょうか。 では、また来月!


https://www.haiku-hia.com/haiku_tsurezure/1.html【haiku・つれづれ -第1回】より

宮下惠美子

HIAのホームページ改革により2020年4月よりこれまでの「俳句紀行(旧・英作ハイク入門)」を改題し「haiku・つれづれ」として、新たにhaikuにかかわるお話を執筆させて頂くことになりました。新型コロナウイルスによるパンデミックが起きている今、ますます「世界は一つ」を実感致します。今回は不要不急以外の外出は避けるという趣旨で、私の本棚から2冊、最新の句集をご紹介いたします。

レーア・レトーネンさんレーア・レトーネンさん

『VARIKSEN SOOLO HAIKU JA HAIGA (CROW, SOLO Haiku and Haiga, 鴉の独唱 俳句と俳画)』(ISBN:978-952-94-2828-1、2020年)は、フィンランドの俳人Rea Lehtonenレーア・レトーネンさんとKiti Saarienさんの俳句、Ina Jaakkolaさんの水彩画、Kitiさんの写真の素敵なコラボによる俳句・俳画集です。詩人のDonald Adamsonさんとレーアさんによる英訳が付いています。収められた作品は2020年1月10日~30日までタンペレのTahmelan Huvila 文化センターで開催された俳画展に出品されたものです。フィンランドでの俳句の歴史は浅く、せいぜい40年から50年で、俳人の輩出も未だなく、出版業界も興味を示さないような状況下で、この俳画展は大好評を博したそうです。フィンランドの人々が俳句に関心を持ち始めているこの機を活かして俳句を知って貰う機会を作りたいと、展覧会以後、週に1~2度のペースでタンペレ近郊の図書館や小さなカフェ等でバイリンガルの朗読会を続けています。現在は新型コロナの流行で活動をやむなく中止しているそうです。

Tahmelan Huvila 文化センターTahmelan Huvila

文化センター

Tahmelan Huvila 文化センター左からDonald Adamsonさん、Ina Jaakkolaさん、Rea Lehtonenさん、Kiti Saarinenさん左からDonald AdamsonさんIna Jaakkolaさん

Rea LehtonenさんKiti Saarinenさん

a nip in the air  in snowy woods  a crow sings, solo   Rea Lehtonen

肌を刺す冷気 / 雪の森の中で / 鴉が歌う、ソロ  レーア・レトーネン

on the back of your bike  screaming downhill  in a rain of dandelion fluff

Kiti Saarinen  英訳:Donald Adamson

あなたの自転車の後ろで / 叫びながら下る / 蒲公英の絮の雨の中を  Kiti

5pm snarl-up  overhead a jet trail  lingers, fades away  Rea Lehtonen

英訳:Donald Adamson

午後5時の交通渋滞 / 頭上にはジェット機のコース /浮かんでは消えて

レーア・レトーネン

that summer  sultry gossamer lace  veiling my face  Kiti Saarinen

英訳:Donald Adamson

あの夏 / 暑苦しい蜘蛛の巣レースの / ベールが顔を覆っていた Kiti

I look around me before I use baby talk on a duck  Kiti Saarinen

英訳:Donald Adamson

周りを見回す / 赤ちゃん言葉を使う前に / 一羽の家鴨へ   Kiti

end of the year  a tightly knotted rug  under my feet  Rea Lehtonen

年の暮れ / 固い結び目の敷物が / 私の足の下に  レーア・レトーネン

タンペレの近く、ピルッカラ在住のレーアさんは、ストックホルムで2017年6月に行われたHIAとスウェーデン俳句協会の俳句交流イベントに参加され、以来、次に紹介する長村紀都さん達と一緒にGinza Poetry Societyのオンライン句会で隔月の英語俳句の会を続けています。この句集・俳画集にはフィンランドの女性の生活が描かれています。森と湖、雪とブリザード、サウナの煙と杭に置かれたタオル、波と飛行機雲が生まれては消えてゆく・・・。序文には「俳句は瞑想へのいざないである。様式化された断片というよりは、景色やその要素となるものたちの間に存在する不思議を探求するための、研ぎ澄まされた感情に起こる出会い、それが俳句なのである。」とあります。「季語についての言及は無いのですが、句は冬、春、夏、秋、歳末と流れを作っています。」と、レーアさんはにっこりされました。

『グリット、グレイス、アンド ゴールド(氣、雅、と金)』(米国、Kodansha USA, 2020年)は、HIA会員の長村紀都(Kit Pancoast Nagamura)さんの第一句集です。タイトル句は本書の最後の句:stadium lights off / summer night glimmers / of grace, grit, and gold スタジアムの光消え/夏の夜瞬く/雅(みやび)、氣(き)、金(きん)。この3行目とは語順が少し変わっていますが、句のコンテクストの中で読むのではなくタイトルとして読む場合、私は「根性、優美、そして純粋」と解釈したいような気も致しました。

子ども地球歳時記

この句集の特徴は、写真家でもある紀都さんの作品である力強い表紙の魅力と、挿入された白黒写真の言葉によらない語り掛け、また、様々な才能を持った友人らの参加を呼び掛けて、世界各国の選手団が織りなすスポーツの祭典オリンピックさながらに各人の才能を競演させていることです。書家のミヤジ・ヨシエさんの筆になる漢字1文字による33の章立て、「陸」は陸上競技、「羽」はバトミントンというように、各スポーツをテーマに紀都さんの4~5句と招待作家による1句で構成されています。全ての内容が日英2か国語で表示されており、マリヤ・マリエさんとモリヤマ・メグミさんが和訳を担当されました。随所に挿入されている紀都さんの写真ですが、撮影に行った先では選手たちから「俳人がスポーツに興味を持つなんて!」と驚かれたそうです。「俳句とスポーツは全く畑違いだと思われていますが、選手たちの動きを見ていると、その美しさに打たれ、轟き落ちる滝や鶯の鳴き声とも通ずるものを感じました。」とのこと。東京五輪は延期となりましたが、本書では思う存分スポーツが楽しめそうです。(アマゾンで購入可能)

長村紀都さん長村紀都さん

Kit Pancoast Nagamura

光栄なことに私も依頼を受けた一人で、与えられた種目は「スケートボード」でした。映画の『バック・トゥ・ザ・フューチャー(1985年第1話)』が流行っていた頃に、一度だけ試みて大転倒、肘を強打、打撲傷で暫く痺れたままになっていた痛い思い出があるのみでしたので、はてと困ったのですが無事に活字になりました。その「板」の章をご紹介します。

knuckles graze  the rising sun  half pipe

指のかすめる / ライジングサン(朝日)/ ハーフパイプ

hunting the streets  for rails and curbs  summer moon

街中を探す / レールや縁石を求めて / 夏の月

hot gusts  litter the bowl* with trash  switch stance

熱風が / ボウルにゴミを撒き散らす / スイッチスタンス(逆向きスタンス)

*ボウルとはパークで様々な斜面(アール)の入り混じった複合的な窪地のこと。

lip trick* on the tip of your tongue  what you almost say

リップスライド / 舌先まで出かかる / 言おうとしたことが

*リップスライドとは、バックサイドにあるセクションへ身体をバクサイドに90度ひねり、セクションをまたぎボードスライドさせるテクニック

climbing the wall flowering in the breeze an eggplant*

ウォールを登る / そよ風に花開く / エッグプラント

*エッグプラントとは、コーピングを片手で掴んで逆立ちする技。

down the handrail a skateboarder’s somersault empty cobweb Emiko Miyashita

ハンドレールへ / スケートボード宙返り / 蜘蛛の囲 空に  ミヤシタ・エミコ

と、あります。脚注が無ければ分からない独特の技の名前が句中に散りばめられており、何事も中を覗いてみれば奥が深いことを思い知らされます。拙句の訳ですが、運動の方向が思いと逆になっています。公園の石段中央にある金属パイプの手摺へひょいと飛び乗り滑り降り、ジャンプして見事な宙返りを見せた少年と空っぽの蜘蛛の巣の取り合わせのつもりでした。句が独り歩きをすることは初学の頃に先輩たちから言い聞かされていたことであります。スポーツの場合は、さらに足が速い!