チリのソーヴィニヨンブランでの貯蔵容器とクロージャーの違いによる影響とは?
スペインのセビリア大学、チリ大学、チリ自治大学の研究者による2022年の報告です。
はじめに
ワインの貯蔵と熟成プロセスにおいて、使用される容器の種類とボトルのクロージャーがワインの最終的な味わいと品質にどのように影響を与えるかは重要な情報です。
ワインはステンレススチールタンクやオーク樽で貯蔵されることが多かったですが、近年ではコンクリート、粘土、ポリエチレンなどの新しい素材や異なる形状の貯蔵容器が使用されています。これらの新しい容器は、それぞれ異なる酸素透過性を持ち、ワインの揮発性化合物プロファイルに影響を与えます。本研究の目的は、チリ産ソーヴィニヨン・ブランを対象に、貯蔵容器の種類とボトルのクロージャーの種類がワインの揮発性化合物プロファイルに与える影響を明らかにすることです。
実験方法
実験には、2017年ヴィンテージのチリ産ソーヴィニヨン・ブランを使用しました。ワインはまずステンレススチールタンクで発酵され、その後、4種類の異なる容器(ステンレススチールタンク、楕円形および立方体のポリエチレンタンク、粘土のジャー)で6ヶ月間熟成されました。これらの容器はそれぞれ3つ使用されました。熟成後、ワインは天然コルク、合成コルク、スクリューキャップの3種類のクロージャーでボトルに詰められ、さらに地下の暗室(温度18±1℃)で6ヶ月間貯蔵されました。揮発性化合物のプロファイルはSPME-GC–MSを用いて測定されました。
貯蔵容器による違い
ステンレススチールタンクで貯蔵されたワインは、他の容器と比較して最も高い揮発性化合物含量を示しました。特に、エステル、アルコール、酸などの化合物が高濃度で検出されました。これは、ステンレススチールが酸素透過性が低いため、酸化による揮発性化合物の分解が抑えられるためです。一方、ポリエチレンタンクや粘土ジャーでは、酸素の透過により一部の揮発性化合物が減少しました。
クロージャーの影響
スクリューキャップを用いたワインでは、他のクロージャーよりも多くの揮発性化合物(エステル類やアルコール類)の濃度が高く保たれました。スクリューキャップは酸素の透過を最小限に抑えるため、揮発性化合物の酸化が抑えられます。天然コルクや合成コルクでは、酸素の透過により揮発性化合物が減少しやすくなり、特に天然コルクではTCA(トリクロロアニソール)汚染のリスクがあるため、ワインの風味にネガティブな影響を与える可能性があります。
貯蔵容器とクロージャーの相互作用
スクリューキャップが使用された場合、ワインの揮発性プロファイルはステンレススチールタンクで熟成されたワインと似た結果となりました。これは、スクリューキャップが他の貯蔵容器の影響を隠す可能性を示しています。一方、ポリエチレンタンクや粘土のジャーで熟成されたワインは、クロージャーによる影響が大きく、天然コルクや合成コルクを使用した場合、揮発性化合物のプロファイルに顕著な違いが見られました。
香りの違い
センサー分析の結果、ステンレススチールタンクで熟成されたワインは、他の容器と比較してより全ての揮発性化合物(エステル、アルコール、酸、テルペン、ノリソプレノイド、チオール)において、他の容器よりも高い濃度を維持しました。これは、ステンレススチールが酸素透過を防ぎ、揮発性化合物の酸化分解を抑制するためです。これは、高濃度の揮発性化合物が香りの強さに寄与したためです。また、スクリューキャップを使用した場合、ワインのフルーティな香りが強調されました。一方、粘土のジャーで熟成されたワインは、より複雑で深い風味を持ち、官能評価において高いスコアを得ました。
結論
ステンレススチールタンクとスクリューキャップの組み合わせは、最も揮発性化合物を含有するワインをもたらしました。これにより、ワインメーカーは貯蔵容器とクロージャーを選択することで、ワインの風味を調整する手段として利用できる可能性があります。また、気候変動などの予測できない要素に対する対策としても有効です。特に、スクリューキャップの使用は酸素の透過を最小限に抑えるため、揮発性化合物の保存に効果的であり、ワインの品質維持に寄与します。
Reference
Ubeda, C., Peña-Neira, Á., & Gil i Cortiella, M. (2022). Combined effects of the vessel type and bottle closure during Chilean Sauvignon Blanc wine storage over its volatile profile. Food Chemistry. Available online 23 March 2022.
私見
今回の研究によって、ワインの貯蔵容器とクロージャーを知ることでそのワインの香りの状態を類推できるかもしれないと思いました。ステンレススチールタンクでの貯蔵、スクリューキャップが揮発性化合物の含量が多いことは理解しやすく納得感があります。但し揮発性成分による香りが強いことや酸化の進行の違いが必ずしもワインの品質や評価と関連するわけではないので、あくまでワインを理解するためのひとつの情報として整理すると良いと思いました。
CYL:150 L円筒形ステンレススチールタンク
OVO:980 Lの楕円形のポリエチレンタンク
JAR:225L粘土のジャー
CUB:1000 L立方ポリエチレンタンク
SCR:スクリューキャップ
SINT:合成コルク
NAT:天然コルク