【コラム】古川聖人 退団インタビュー
退団インタビュー
古川聖人[FL]
7番を極めたい。
「トヨタを離れる寂しさはありますが、話し合った上での退団という結論なので、すっきりしてます」
5シーズン所属、昨季は姫野和樹と共同キャプテンも務めたFL古川聖人がチームを離れる。179㌢、96㌔。東福岡、立命大を経てトヨタに加入。サイズにこだわらないタックル、ジャッカルが信条。トヨタでは加入1年目からリーダーズグループに抜擢され、姫野和樹キャプテンが代表で不在の際は、福田健太と二人でリーダーを務めてもいた。移籍する決断をしたのは、プレーに対する考え方の相違だった。
「移籍を決めたのはシーズン最後ですが、簡単な決断ではなかった。最終的には選手の起用法や今後、どうチームを作っていきたいかといった考え方の違い。トヨタで5年間やってきたけど、変えることはできなかった。だとしたら、自分が変わるしかない」
プレーに対する評価は高かったものの、先発で起用されることは少なかった。昨季は全16試合中、先発出場が4試合、リザーブが3試合。今季は先発3試合、リザーブ6試合。
「試合に出られれば、自分のパフォーマンスを出せる自信もある。トヨタではリザーブで出ることが多かったけど、その中でも自分のプレーを出せた自信はある。ボールキャリーも苦手意識はあったんですけど、ここ1~2年で克服できた」
古川は自らを「ザ・7番」と言う。バックローとしてサイズこそないが、様々な局面に顔を出し、チームを支える。多くのリーグワンのチームでも日本人の7番が活躍している。タックルとジャッカルに関しては大学時代から評価は高かったが、さらに飛躍したのは2022シーズン。前年度、豪州代表マイケル・フーパーが在籍した後のシーズンだ。
「フーパーが来たとき、僕がジャッカルの事ばかり聞いていたら、フーパーから“ボールキャリーもやろう”と言われて、ジャッカルとタックルは毎日やって、週に1回、ボールキャリーの練習をしました。彼と半年一緒に過ごして、その後、自分でかみ砕いて練習をして、その次のシーズンにコンスタントに出続けて、日本代表に呼ばれた。そこは一番成長を感じられた時期でした」
自らが教わったことを、若い日本人バックローに広く伝えたいと願う。
「フーパーが僕に見せてくれたように、僕も“こういった体でもやれるんだ”ということを見せていきたい。そうすることで、日本でラグビーをやっている子たちが、サイズだけじゃなく、頭を使ってやっていけば、第一線で活躍できるんだと思ってほしい。サイズであきらめてほしくない」
気安い性格から、外国人選手をサポートするのも古川の役割だった。ピーターステフ・デュトイ、チャーリー・ローレンス、トム・ロビンソン、アイザイア・マプスアらを、家に招いて食事を共にした。
「一人で暮らしていると食事が毎日一緒になる。だったら“僕の家に来なよ”と。僕自身、みんなと一緒に過ごすのが好きだし、間違った英語で話すのも気にならない。奥さんは大阪出身なので、皆を呼んでお好み焼きパーティーを開いたりしました」
面倒見がいいからこそ、奥井章仁、三木晧正ら新たに入った後輩バックローの存在には後ろ髪を引かれる。
「一緒にやった時間は短かったですけど、僕がやりたかったことを、彼らが引き継いでほしい。難しい時間を過ごすこともあると思うけど、頑張ってほしい」
劇的な逆転勝ちを収めた第15節の横浜E戦。終了間際、30フェイズにも及んだアタックで、古川は何度も効果的なボールキャリーを見せた。トヨタで身に着けた強みが遺憾なく発揮された、大きな置き土産だった。