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全国翻訳ミステリー読書会

第11回大阪読書会レポート

2013.09.28 15:39




9月6日  関西ミステリー読書会主催


  第11回 ギリアン・フリン著『冥闇』読書会レポート


    ——3時10分にいったいなにが、あるいはデイ家の没落の物語


 大阪読書会も11回。軽いものが続いたので、この辺でヘビーで嫌な後味の残る話を採りあげようと、ギリアン・フリンの『冥闇』に決定。関西在住で、この本の訳者である中谷友紀子さんにもご参加いただけることになりました。でも中谷さん、「心臓がバクバクするから」ということで、参加者には内緒に。当日配布した参加者名簿を見て、「訳者さん、来てはるんですか、悪口言えませんなあ」とか言いつつ、考えてきた発言は言わずにおけないのが関西人の性というもの……。ゲストを含め参加者21名、うち男性5名、いつもよりは男性多めです。


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 まずは参加者の読後感を伺います。読み始めは嫌な気分になって、なかには本を放り出した人もいたそうですが、読み進めるうちに、おもしろくなったという意見が多数。意外にも(?)リビーのキャラクターは大人気。


「リビーがおもしろい。リビーのところだけ拾って読んだりしました。リビーは背が低いんです。わたしと同じ、147センチ」


「身長といえば、映画化されるとかで、シャーリーズ・セロンがすると聞いたんですが、身長が、赤毛じゃないし……」セロンは長身の金髪美女です。訳者の中谷さんは、クリスティーナ・リッチ(とくに『バッファロー'66』のときの)を頭に置いて訳されたとか。


「リビーみたいな子って、いまは多いんじゃないかな」という意見も。


 でもやっぱり好きになれないという声も。


「リビーの生き方に賛成できない。人に甘え、自分でなにかをしないという姿勢、イライラしてしまった」


 細部の作り込みが好きだという意見も多かったです。


「途中でいつのまにか消えてしまう人がいなくて、どんな小さな脇役にもちゃんと意味があるんです」


「サイドストーリーがよくできている」


「さびれていく田舎とか、農場とか、貧乏な暮らしとかリアルで」


「ドラマの『コールドケース』を彷彿させる。現代、過去、両方のアメリカがともにリアルで、いかにも現実にありそう」


『コールドケース』の大ファンだという幹事のKさんは、「いまどうして自分がこの本が好きなのかわかったみたい。わたしにとっては馴染んだ世界だったんです。もちろんけなげじゃないリビーも大好き」


 ベンに感情移入した人もいました。


「偶然が重なって、どんどん悪い方へと巻き込まれていって、なんとかしてやりたいと、小説のなかに取り込まれていった」というのはIさん。


 この本はかなり複雑な構成になっています。31歳になった主人公のリビーの一人称で描かれる現在の叙述。その間に、きれぎれに事件の前日から母パティと兄ベンの行動が記される。今回、世話人のIさんが素晴らしい資料を作ってくれました。2009年(現在)の人物関係図と、1985年事件前日からのパティとベンの行動を時間軸でまとめたものです。未読のかたもいらっしゃるので、ここで公開できないのが残念。でもちらっと写真をどうぞ。



「パティとベンの時間軸に午後3時10分というびったり同じ時刻が1箇所だけあるんです。パティの章では、クリシーがベンなんて地獄に落ちちゃえ、と言っている。ベンの章では、ディオンドラに問い詰められたベンが、子どもとセックスするなんてまっぴらだと言っている。おもしろいなあと思って」訳者の中谷さんも含めて一同、まったく気づかなかったそう。


「それにしても、ものすごく密度濃いですね、1日が」


「偶然が重なって、でもリアルですよね。赤ちゃんの服買ったりとか」


「そこはアンジャッシュのコント思い出しました。勘違いのまま進んでいくパターン」


「15歳のベン、14歳のリビー、ともに自殺を考えるんです。でもリビーのほうがずっと本気、リビーのほうが闇が深いのか」


「ベンは貧乏でつらいけれども、パティは優しい、いい母親ですよね」


「ひとつ気になったのは、朝ご飯のシーンです。卵をパティが食べたのか、ちょっと気になった」


「食べてないと考えたほうが自然ですよね」


「でも、あとで胃のなかの卵が逆流しそうになるって、あるんですよ。パティ好きだから、ちょっとがっかり、自分は卵食べたんだって」妹たちがベンだけ卵食べてずるいって、ごねてたところですね。


「リビーの行動が無防備で、ちょっとびっくりしました」


「お母さんもお兄さんもそうだけど、ちょっと人格乖離しているところがある。つらいから離れたところから見てしまうような」


「ベンが刑務所に入ってたのは、悪いと思ったから?」


「めんどくさかったからじゃない」


「ディオンドラは見抜いていた? ベンは頼りにならないと」


「そもそもなんでベンがよかったんやろ? ディオンドラは美人で金持ちなのに」


「ハンサムだったんじゃないですか。セクシーボーイだもん」


「変わっているけど探偵小説やね。普通はお金をもらって人のことを調べるんやけど、自分の家のこと調べて、それで報酬もらうやなんて。それにお金出すのてあるんかなと思ったけど、考えたら、この(読書会の)集まりだってマニアックともいえるし」


「残された家族が真相を探るといのは、ミステリーにはよくあるパターン。殺人クラブのように真相をつきとめようとするクラブもいくつか例がある。けっこう王道のパターンを踏んでいる作品ですね」


「探偵役が順番に調査していくのも、オーソドックスです」


「イヤミスって、日本の言葉かな。どんなジャンル?」


「後味の悪いミステリーです、『告白』とか」


「わたしはこの本、デイ家の没落の物語として読みました。やらなければならないことがあるのに、寝てしまうというパティの無気力さが象徴するように」


「必ずしも父親のラナーが悪いわけでもないですよね」男性の意見です。


「いやあんな男を選んでしまうというのがそもそも没落の初めです」←キッパリ


「ある時期で、農場を手放してやり直すという選択もできたはず」


「そう言ってパティを批判しているベンも同じように流されている」


「デイ家の人間ですから」


「ベンは家族思いだと思った。清掃員の仕事もしていい子だと」


「いい影響があればそっちに行っただろうけど、友だちが悪いと流される」


「いい友だちもいたのに」


「中2、中3なら、彼女ができたら流されるよね」


「でもトレイは明らかに悪いやつってわかるのに」


「でもちょっと格好いいと思っちゃうんですよね」


「トレイも差別されている側ですね。悪ぶって自己顕示している」


「成長して、更生していい人になったのかな」


「いや、なんか陰で悪事をやっていそうな匂いが」


「事件に傷つけられた人たちをリビーが挙げていくところ、ハードカバーではラナーやディオンドラが入っているけれど、ペーパーバックでは削ってあるんです。興味深いと思って」と、中谷さん。


「読者からいちゃもんが来たのかな」


「クリシーは入っているんですね。驚き」


「リビーはクリシーに優しいですね」


「精神科医のせいにしているところで、その通りだと共感したりして」


「大好きなシーンがあるんです。クリシーがくすねたローションが床に落ちているのを見つけ、リビーがそっと寝ているクリシーのポケットに入れてやるところ」


「あそこはわたしも大好き」


「ダイアンがリビーに冷たいのはどうして?」


「おばさんはベンが犯人とは思っていないからじゃないかな」


「ちゃんと向き合ってほしいのに、ばかげた自己啓発本なんて出すから」


「そもそもこのおばさんはいい人なのかな? 唯一の善人という感じがしない。自己満足しているみたい」


「確かに、農場を妹に押しつけて、自分は自由に生きている人ですけど」


「おばさんは、トレーラーハウスに住んでいるんですね」


「トレーラーハウスというのも、自由の象徴みたいですね。土地に縛られているパティと対照的」


「住まいといえばラナーの住んでいるところもすごい。砒素で汚染された土地でしょ」


「わたしカンザスが好きなんです。オズの魔法使いが好きで。シェルターが出てきて、ひとりで喜んだ」


「カンザスシティはカンザスじゃないと知ってびっくりしました。ミズーリにもまたがっているとは知らなかった


「アメリカの中心、でも違うんだって書いてありました」


「悪魔崇拝って、このころ流行っていたんですか?」


「ヘビメタで流れていたと思います」Kさんがヘビメタファンだったとは知らなかった。守備の広さにびっくり。


「ハリーポッターもだめなんですよね。中西部では」


「じゃ、魔女の宅急便もだめ?」


「だめでしょ」


「バイブルベルトっていうんですよね」


「『ツインピ—クス』とかもありました」


 こんな感じで、いつもより賢めの会話が続いたのは、要所要所で中谷さんの註釈や質問が入ったおかげ。このあと、ずばり犯人の行動についてやら、それに繋がる人物への批判やら、ベンの(妄想)後日談やら、ことごとく外れたというすごく力作の犯人予想やら、この結末はミステリー的には許されるのかとか、いろいろ熱のこもった話が続きました。残念ながら、ネタばれになるので、省略。


 1度目は先へ先へと筋を追ってしまいましたが、再読するといろんな発見ができます。Iさんの作ってくれた2枚の資料を道しるべに、もう一度じっくり読みたいものです。


 10月には神戸で記念すべき第1回読書会が開かれます。課題書は『解錠師』。訳者の越前敏弥さんも特別参加される予定です。熱のこもった話し合いになるのは必至。関西ミステリー読書会メンバーも今頃は、どこに突っ込もうか悩みながら読んでいるはず。ぜひ、みなさまもご参加ください。


          文責   関西ミステリー読書会世話人  小佐田愛子


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