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全国翻訳ミステリー読書会

第七回東東京読書会レポート(執筆者・青木悦子)

2014.10.06 14:06





 丸三年めに入った東東京読書会、今回は初のSFに挑戦でした。


 課題書はかねてから評判の高い作家コニー・ウィリスの、ヒューゴー賞・ネビュラ賞受賞作だけを集めた短編集(シリアス編)『空襲警報』。これには5つの短編が収録されています(“クリアリー家からの手紙”“空襲警報”“マーブル・アーチの風”“ナイルに死す”“最後のウィネベーゴ”)。


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 いずれ劣らぬユニークな作品。ガチなSFというよりは、有名ミステリーにインスパイアされたものや、ちょっと不思議なお話という感じのものもあって、ディスカッションもしやすそう、と事前予想。加えて、訳者の大森望さんもゲストに来てくださるという鉄壁の布陣となりまして、予想以上にコニー・ウィリス愛が熱くあふれる会となりました。


 なにせ、当日はじめの自己紹介タイムで、ウィリス作品を「かなり/ほぼ/すべて読んでいる」という熱烈なファンが約半数いることが判明。そんな方も、SFは初めてという方も、ともにひとつ鍋でごちゃまぜのディスカッションタイムへ突入しました。


 まずは、やはり出ました、ふだんSFを読まないのでとまどった方々のご意見。


「いつ、どういう状況での話なのかわからなくて、モヤモヤした」


「背景となる社会システムが一度で飲みこめない」


「詳しい説明なしにどんどん話が進んでいってしまう」


 五つの短編は、近年のSFの流れで、どれも設定や背景を意図的に省略または曖昧にしてあります。ミステリー小説は逆に、設定・背景がはっきりしている(もしくは途中ではっきりする)ものが大半なので、ミステリー読者はまずそこでつまずいてしまうんですよね。


 これに関しては、ウィリスファンと大森さんの両方から、「現代小説と同じで、隅から隅までわからなくてもOK、どんどん読みすすめていくのがコツ」とのアドバイスが。「たしかに、わからないままに読んでいくと、薄皮が一枚ずつむけていくように、世界像が浮かんでくる」というご意見も出ました。まずはとにかく読むこと、のようです。


 その後は、作品を限定せず、自由に疑問や意見を出し合いました。


(どのコメントがどの作品についてのものかは、課題書を読んでみてくださいね。※ネタバレ注意!)


「けっきょく、主人公のミッションって何なんでしょう?」


「登場人物たちの気持ちが、この齢になるとわかるんですよ。若いとたぶんわからない」


「各章がガイドブック仕立てになってるところがユニーク」


「普通は真実をあらわにすれば誰かが救われるけれど、ここでは誰も救われない」


「どうして一目惚ればっかりなんですか?」


「歴史は統計ではなく、ひとりひとりの名もなき人に作られるというのがいい」


「カメラとか、車とか、いろいろな設定がだんだん積み重なっていって、最後にあぁそうだったのかとわかる展開がみごと」


「犬や猫の使い方がうまくて、ラストはもう号泣!」


「妻に頼まれた用事を先にすませればいいのに、このダンナさんダメじゃん!!」


「……この人たちって、本当は死んでいるんですよね?」


 また、ウィリスの登場人物たちはほとんど外見(髪や目や肌の色、身長・体格など)の描写がないことが指摘されると、大森さんも「書き分けはあまりうまく……ないかも」と、苦笑。


 休憩時間は名古屋からの刺客、じゃなかった、遠征参加者さんのお土産、あんバタークッキーをいただきながら、ちょうどロンドンに行ったばかりという別の参加者さんが持参してくださった、セント・ポール寺院(“空襲警報”の舞台)の写真や本などを回し読み。やはりビジュアル資料があるとわかりやすいですね。名古屋読書会の歴代お宝小冊子も回覧させていただきました。こちらはすごい!何この充実ぶり!と感嘆のため息でした。


 さて、ディスカッションの後半はほとんど大森さんへのQ&Aタイムとなり、作品について以外にも、ウィリスの作風の変化や、SF界での位置、彼女の人となりなどをお聞きすることができました。


 それによると、


*ウィリスは正統的なSF作家ではないという声もあるが、生まれも育ちもSFコミュニティの人なので、SF仲間として扱われている


*(課題書にも収録されていますが)スピーチがとても面白く、ギャグたっぷりなど、人に好かれるタイプ


*夫が物理学者のせいか、ウィリス自身も科学とウソの線引きには厳しい


*なかなか会えない・たどりつけない、という展開が定石で、途中の話がふくらみすぎるのは癖かもしれない(笑)


などなど、ウィリス作品をずっと訳している方ならではの話に加え、


「長編の長さにはヒキませんか?」という質問に、


「……『オール・クリア』はショックだった」との正直なお答えには、場内爆笑でした!


 そして最後には、ウィリスの新刊についての質問に、長編がひかえていることと、短編が本一冊出せるくらいたまっているのでそれもたぶん、とのうれしいお答えをいただいて、本会は無事終了。二次会もほぼ全員が参加、新橋の居酒屋で三時間にわたって楽しくおしゃべりしたのち、名残を惜しみながらお開きとなりました。


 参加者の皆さん、ゲストの大森さん、本当にありがとうございました!


 次回の東東京読書会は来年1月を予定しています。詳細は決定次第、本サイトに告知しますので、楽しみにお待ちください。


 それではまた。





◇青木 悦子(あおき えつこ)東京出身&在住。本とクラシックとブライスを偏愛し、別腹でマンガ中毒。翻訳ミステリー東東京読書会の世話人。主な訳書:ポール・アダム『ヴァイオリン職人の探求と推理』、マイクル・コリータ『冷たい川が呼ぶ』『夜を希(ねが)う』、J・D・ロブ〈イヴ&ローク・シリーズ〉などなど。ツイッターアカウントは@hoodusagi



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