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桑鷹三好の遊び場

第2話 仲間割れ

2024.06.15 10:02

「これが、迷宮」


 着の身着のまま、荷物も持たずに逃げ出した俺が入ったのは石造りの壁があるだけの何も無い場所だった。


「寧様、先ずは場所を移しましょう」

「場所を移す?」

「ええ、このまま此処にいても」

「わー、ご主人様!」

「ちょっと! 何抜け駆けしているのよ!」

「私だって抱きつきたい!」

「わ、私も!」


 そこで、此処に来るまでに契約していたウェアウルフ、アルラウネ、ヴォーパルバニー、カーバンクルがそれぞれ俺に抱きついてこようとする。


「ちょっと、今は落ち着いて」

「話聞けやごらあ!」


 そこで、ブックウォーカーの詩織が大きな声で怒りを露わにする。


「失礼、今は契約した者達にも急いでもらわないといけない状態なので」

「急がないとってどういう事よ」

「先ずはこの迷宮から脱出します」

「脱出? 逃げ出したばかりなのにまた逃げるの?」

「そこから確かに説明しなくてはいけないため、まずは迷宮の最奥に行きましょう」


 そう言われて、俺達は迷宮の最奥に向かう。そこには崩れ落ちそうな部屋の中に何かの石碑が置かれているだけである。


「あれは」

「迷宮の転送装置です」

「転送装置?」

「この装置に迷宮の管理者として認められて、その上で支配者の魔物が許可をすれば管理者の管理下にある迷宮全てへの出入りが自由に出来るようになります」

「へえ」

「なので先ずは管理者となりましょう」

「どうやって」

「今は迷宮に迷宮主、要は迷宮の支配者がいないはずですし普通に台座にある石碑を触れば大丈夫なはずです」


 言われるまま、俺はその指示された場所にある石碑に触る。


「これで、他の迷宮に行けるはずです」

「他の迷宮に?」

「はい。他の迷宮に行けば少なくとも『自分達魔物が迷宮に逃げ出した』なんて情報が出回ったとしても対応が遅れるはずです。少なくとも直近の危険が目の前にあるこの迷宮よりはより良い場所はあるはずです」


「それなんだけれど……なんか迷宮を移動できないみたいなんだ」


「え? どういうこと?」

「いや、迷宮の連れて来た魔物全員の移動をしようとしたんだけれど出来ないんだ。全員の意思の一致が無いと出来ないって。管理者に従わないといけないって」

「何言っているの、この状況で考えが違う魔物がいるって事?」

「まさか、裏切り者とか!」

「嫌だよ。ここにいる人達も信じられないの……」


 全員の視線が交差する。




 それでも、俺達は食事をしないといけない。だからこそ、魔物たちが極秘裏に用意していた植物の種をアルラウネが育てて、その作物を食べることにした。

「凄いね。ジャガイモがこんなに早く食べられるなんて」

「洞窟の中だから土が全然良くないから凄く難しいけれどね。ちゃんとした畑で育てたいよ」


 彼女はそう言って少し苦笑をしている。


「でもすごいよ。これでしばらくの間は飢えなくて済む」

「しばらくじゃダメなんだよね」


 それはそうだが。


「ねえ、でもどう思う」

「どうって」

「私、裏切り者はヴォーパルバニーだと思う」

「え? どうして」

「だって、あの子一番殺すなら殺意を隠すのがうまいもん。長生きしているはずだし」




「冗談じゃないよ! そんな理由なら他の子だって同じでしょ」


 話を実は着ていたヴォーパルバニーの彼女はそれはそれはご立腹だった。


「それに、私は一番最初に出会った強いあなたを信じるもん! うん! これが違う理由!」

「魔物って、やっぱり強い人に従うの。今まで出会った中で」

「それは勿論。強い人に従うのが一番でしょ」

「でもどうして」

「だって、生き残るのに強い人の力を借りるのは当然でしょう」


 シビアな世界だな。そう思った。でも、どうして俺に従ってくれるのだろう。


「どうしてか? だって魔王なんでしょう?」

「いや、転生しただけであって自分は別に」

「どっちでも良いよ。重要なのは強さだもん」




「確かにそれはそうだけれど。それなら私だって同じだし。そもそもこの中にあなたに従わない人がいることが信じられないよ」


 カーバンクルの彼女は、そう言って意見を言う。


「そもそも私は野生だから偶々混ざっただけだけどさ、少なくともあなたに助けてもらって上位の存在にまでしてもらっただけでさ。凄いありがたいしあなたのためなら何でもするつもりなんだよ。だからさ。私彼女が変だと思うな」

「彼女って」

「ウェアウルフ」




「言いたいことは分かるよ。だって私一人だし」

「一人?」

「うん。ウェアウルフは基本沢山の群れを率いる魔物だから、一匹でいると変だって言われるの。実際私は家族が皆殺されたのに私だけ生き残ったから一人なだけだけどさ」

「じゃあ、どうして信じてくれたの」

「なんでだろうね」


 でも、彼女はそう言って俺に言ってくる。


「アルラウネ。彼女は信用しちゃダメ」

「どうして」

「本性を隠している奴って言うのは優しことをしているようで、一番酷いことをしているようなものだから」

「そんな言い方」

「だって、準備良すぎるでしょう。こんな計画に予め植物の種を備えておくなんて」


 それは、きっと彼らが必死になって俺を信じて。




 その情報を手に入れた俺は、考えた。必死に考えた末に、一人のおかしい人を、おかしい魔物を見つけた。だから確認をした。


「なあ、詩織」

「何でしょう」

「君が意思の一致を妨げている原因だね」