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Evidence Based Physical Therapy - 理学療法士 倉形裕史のページ

患者さんとスーパーアスリートによる『このリハビリ(トレーニング)が良かった』というお話に対する距離の取り方について③

2018.12.16 21:00

おはようございます。University College London (UCL)の理学療法士の倉形です。理学療法士はリハ専門職のひとつです。 


前々回から、患者さんやスーパーアスリートのこの方法が良かったという体験談に対して私が考えていることを書いています。 


前回は、アスリートの中にも特定のトレーニングに関して一致しない意見があるので、トレーニングやリハビリに関しては臨床試験の結果を重視すると良いのではないかと書きました。今回がこのシリーズの最終回です。  


今回は、さらに詳しく、なぜよくデザインされた臨床研究がトレーニングの評価に関しても必要なのかに関して書きます。 


また例え話になってしまいますが・・・。 

最近、体幹を鍛えるトレーニングがサッカー界では盛んなようです(また少しトレンドが変わってきているのかも知れませんが)。 


日本代表の長友佑都選手がヘルニアの再発で悩んでいた時にこのトレーニングを取り入れたことで体が変化し、世界に羽ばたくまで成長したという、体験談がその根拠になっています。長友選手の活躍は、私などが改めて説明する必要ない位素晴らしいものです。 


私も、日本代表の試合で、上背のない長友選手がオランダ代表との試合で長身でゴツイ選手を吹ふっ飛ばす映像を見て衝撃を受けました。 


二十歳を過ぎる頃まで、大学のサッカー部の応援で太鼓を叩いていたという長友選手が数年でセリエAを代表するチームの一つであるインテル・ミラノで堂々とレギュラーになった。世界のスーパースター達と肩を並べてプレーしている。

           ↓

長友選手の人生を変えた『体幹トレーニング』は最高のものに違いない。


サッカー選手達がこぞって、このトレーニングを取り入れたくなるのは大いに理解できます。 


ですが私達専門家は、少し冷静にみる必要があります。 当たり前のことですが、私たちにはタイムマシンがないので、過去に戻って、長友選手が体幹トレーニングを導入することを阻止して、『体幹トレーニングを取り入れなかった場合の長友選手の活躍』を確認することはできません。  


ここからは、仮定の話です。 現在までの長友選手のキャリアはほぼ間違いなく、日本代表史上最高の左サイドバックと言えるものです。

ですが、体幹に特に特化しないような通常のトレーニングをしっかり行っていれば、現在、マルセロ選手(レアルマドリード所属、ブラジル代表、恐らく現在世界最高の左サイドバック)を押しのけてレアルマドリードでレギュラーを張っていたかもしれません。最近は長友選手は膝の怪我に悩まされているようですが、そのような怪我をすることもなかったかもしれません。 


 また、もしかしたら、体幹トレーニング以外のものが長友選手の成長を促した可能性もあります。

例えば、  


①ヘルニアは再発することはあるけど、自然経過は必ずしも悪いものではありません。  

体幹トレーニングを始めた時期とヘルニアの治癒のタイミングが偶然一致したのかも知れません。  


②体幹トレーニングが主要な原因なのではなく、怪我が治ったあと、Jリーグなどで揉まれて、『プロレベルの選手との対戦経験』が彼の急速な成長を促した可能性もあります。  


③長友選手の才能が開花するタイミングと体幹トレーニングの導入のタイミングが偶然一致したのかも知れません。 


 『そんなタラレバを言ってもしょうがないでしょ』という声が聞こえて来そうです。 たしかにタラレバなのですが、そのタラレバを検証する方法として臨床試験があります。 


十分な数のサッカープレーヤーを集めて、無作為(ランダム)に『体幹トレーニング重視群』と『通常トレーニング群』に分けてトレーニングを行ってその後の経過を追っていく。


厳密に言えばこの方法でしか体幹トレーニングとサッカー選手の活躍やパフォーマンスの間の因果関係を調べることはできません。 そういった検証を行わずに未来あるプレーヤーにその時々で流行しているトレーニングをやってもらうというのは、よくあることではあると思いますが、個人的には賛成できません。 


また、この様な検証を行っても、個々のプレーヤーごとに体幹トレーニングが合う・合わないというのはあると思います。そのような個別性は考慮しつつ、まずは可能性の高そうなトレーニングから順番に導入を検討するという姿勢が合理的ではないかなと個人的には考えています。 


といったことを、SNSを見たり、スポーツ選手のインタビューを観たりしながら考えていました。 



今日も、最後までお付き合い頂きありがとうございます。

 理学療法士 倉形裕史 








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