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エンタングルメント・マインド(Entanglement Mind)

読書感想文 『I』 松田 紙弥(著)

2024.06.24 12:38

 脳科学者のJは、実家でNNN(ナチュラル・ニューロン・ネットワーク)の研究中、空き巣に襲われる。もみ合った末、空き巣は脳死状態となってしまった。Jは空き巣を救うべく、空き巣に研究途上のNNNの処置を行う。その結果、空き巣は助かるのだが……。Jと空き巣の奇妙な生活が始まる。


 本作で重要なモチーフとなっているNNNとは、音を使って意識の書き換えをしようとする主人公Jの発明技術になります。そのNNNを使って脳死状態から復帰したのが空き巣のHなのですが、よりにもよってJの意識を上書きされていて、Hは自分がJだと主張するんですね。これはおもしろい設定だぞ、と思いました。

 物語の入り方って難しいですよね。起承転結の起は、物語の屋台骨となるところですから、リアリティが必要なストーリーならなおさら、起のところで疑問符がつくと、その先のストーリーの真柏性が揺らいでしまいます。本作も冒頭の、たまたま泥棒に入ってきた空き巣Hが自分勝手に死にかけて、その見ず知らずのHにJがNNNを施して助けてしまうという、ややご都合的な物語の入りは、JとHを一心異体にしなければその後のストーリーが展開していかない、という苦しさにあるのですが、ややもったいなかったかな、と思いました。ただ気になったのはそこだけで、あとはJがHに浸食されていく不気味さ、恐ろしさを感じることができました。自分がJの立場になったら、Hの立場になったら、どう感じるだろうか、と考えながら読みました。

 JとHのやり合いを通して意識というものの深遠さを感じました。おもしろかったです。