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エンタングルメント・マインド(Entanglement Mind)

読書感想文 『抵抗の印刷機』 神崎 未来(著)

2024.06.25 12:08

 華の両親は反戦活動によって特高警察につかまり、帰ってこなかった。華は小学校で非国民のレッテルを貼られいじめられる。そんな華を救ったのは、幼馴染の勇だった。惹かれあう二人だったが、時は大東亜戦争前夜。勇は海軍で戦闘機乗りになり、離れ離れとなった。華は平和を願い、両親の後を追うようにして反戦活動へと身を投じていく。


 戦時下における軍人と女学生のラブストーリーです。ただ女学生のほうが反戦ビラを印刷する地下活動家になっていく、というところが普通のラブストーリーとは一味違うところです。この時代の反戦活動につきものの特高警察による追及もしっかり書かれています。

 戦時中の特高警察といえば、小林多喜二を拷問で死亡させるなどの所業をする一方で、ソ連のスパイ、ゾルゲを検挙するという実績も挙げています。当時の日本に近いのが、敢えて国名を出しませんが、現代の権威主義国と言われる国々で、その対極にいるのが現代日本を含む民主主義国です。まあ現代日本は、その中でもスパイ天国と言われるほどユルユルの状態なのですが(笑)。個人的には、きっと中間くらいが一番バランスが取れて良いのではないかなあ、と思っています。

 さて、本作ラストはハッピーエンドになるので良かった、なのですが、ただ少し、素直に良かった、とも言えない自分がいたりします。というのも、最後、個人的な理由で出撃した勇についていった部下たちが全員特攻で戦死しているのですよ。せめて勇には、その部下たちへの哀悼があってしかるべきではないか、と思った次第です。まあ小説なんですけどね(笑)。