E'b vol.184
vol.184 ”情”のモノサシ
わたしの学歴は、北九州高専の電子制御工学科卒業ですが、在学中に学んだことは一
般科目も専門科目も、全く理解できないままに五年が過ぎ去っていきました。進級に
厳しい学校で40名中の37〜8番のわたしが卒業できた理由は「運がよかった」と
しか言いようがありません。そうしてなんとか卒業した二十歳のわたしは美容室に就
職しました。「もう勉強はしたくないな」と考えたからです。働きながら美容学校の
通信課程を経て美容師免許の取得を目指すことにしました。在学中の二年間(現在は
三年間)のうちに年に2〜3回は、二週間程度のスクーリングで実技と学科を学ぶの
ですが、その期間は朝から美容学校に登校して夕方からの出勤です。当時のわたしは
出勤時間が大幅に少ないにも関わらず、いつも通りに支給された給与明細を目にした
とき「ありがたいな、早く一人前になって恩返ししよう」という思いが心の底から沸
々と湧いてきたことを、今でもはっきりと覚えています。
いま、人間関係に悩む人たちがたいへん増えています。「好きかきらいか、損か得か、
勝つか負けるか」といった価値観が先行し、「人としていかに正しく生きるか」とい
う”情”のモノサシを身につけることができにくくなっているからでしょう。正しく
やさしい人間関係を築くためには、学校でも家庭でも、職場でも、ほんらいの”情”
を教えはぐくむ環境が必要なのではないでしょうか。(「月刊素心」第159号)より
若い頃お金を貯めて「ヴィダルサッスーン」のアカデミーでカットを学ぶために半月
ほどロンドンに行きました。そのときもまた修行先の社長は給与を差し引くどころか、
満額支給したうえで、当時の月給ほどの餞別を手渡してくれたのです。わたしが現在
”情”を大切にして生きていこうと思えるのは、「子どもは、大人が言うようにはしな
いが、するようにする」という言葉のように、修行先において”情”のモノサシで育
まれたおかげに違いない。そう思えてならないのです。