【インタビュー】鯖戸 善弘さん -フリーランス講師
弥富市レクリエーション協会会長でAMAKARA塾事務局長でもあるフリーランス講師の鯖戸 善弘さんに”弥富のまちづくり”をキーワードにインタビュー取材をしてきました。
(取材日:2018/12/17)
ご経歴
鯖戸 善弘 (さばと よしひろ)さん
1954年5月20日生まれの64歳。三重県津市に生まれ、名古屋市に住んだのち、中学1年生のときに十四山村(現弥富市)へ引っ越し。
関西大学を卒業されたあと、1980年に十四山村役場に就職、合併によって弥富市役所職員となる。
55歳のときに南山大学大学院教育ファシリテーション専攻で学ぶ。
生涯学習やまちづくり、健康づくり、児童福祉、高齢者福祉の各分野を担当して現在は定年退職し、フリーランス講師として活躍中。
日本経営協会講師、中部大学非常勤講師、介護労働安定センター講師、日本福祉大学社会福祉総合研修センター講師を担当。
保有資格は、キャリアコンサルタント、メンタルヘルス・マネジメントII種、レクリエーション・コーディネータ、グループワーク・トレーニング上級アドバイザー等多数。
弥富市レクリエーション協会会長、AMAKARA塾事務局長、愛知県レクリエーション協会副会長兼総務部長、愛知県シェアリングネイチャー協会理事、日本グループワーク・トレーニング協会理事。
著書は「グループ体験楽習(2014年 遊戯社)」、「グループ体験学習ワーク(2016年 金子出版)」「人間関係づくりワーク(2017年 金子出版)」。
https://fwgk6227.wixsite.com/sabayann
地域と関わる「レクリエーション協会」と「AMAKARA塾」の活動
- コジロウ)パッと読むだけですごいご経歴ですが、今日は弥富というこの地域に対してご尽力されてきた思いやポイントを伺いたいと思います。よろしくお願いします。
はい、よろしくお願いします。
私もコジロウさんと同じように、20代後半の頃に面白い人にインタビュー取材することが好きで、仕事を通して知り合いになったグラフィックデザイナーに仕事のことを聞きに訪ねたり、役場の仕事では広報を担当してはまちの人の取材をしたりしていたのを思い出しました。通じるものがありますね。
- 嬉しいです!実は鯖戸さんとボクは同じ高専に通ったという共通点もあって、先輩なんですよね。意外なところで繋がってとても驚きました。
- “まちづくり”に現在はどのように関わっていらっしゃいますか。
現在は「弥富市レクリエーション協会」と、「AMAKARA塾」という2つの活動が主なものとして挙げられますね。
AMAKARA塾:http://www.tanken-go.biz/amakara/
- ではまずは、レクリエーション協会について教えて下さい。
レクリエーション協会は、現在は25名登録者がおり、おおよそ10名程度が実働している団体で、資格取得の講習会を開催して、子どもや高齢者が体を動かして楽しめるような“レクリエーション”を紹介しています。講習には、介護職や教員の方が仕事に活かすために来られます。
他にも弥富の春の芝桜まつりや秋の健康フェスタの際にブースを出店し、レクリエーション体験を実施しています。
また、施設から声をかけていただいて、障がい者対象のミニ運動会や笹飾りづくりなどのイベントを年4回ほど開催していますよ。
- “レクリエーション”に関わることになったきっかけはありますか?
原点は学生時代に経験したユースホテルでの旅行中の経験ですね。
ユースホテルに泊まると、オーナーが迎えてくれて、少し年上のヘルパーと呼ばれる役割の人たちや他の宿泊者と一緒になって、ギターを弾いたりゲームをしたりします。
初めて会った人ともすぐに仲良くなって、楽しめた。
そのことがとても印象に残っていました。
社会人になってから、ユースホテルで体験した一連のアプローチがレクリエーションであることが分かり、資格取得できると知り、働きながら土日を使って講習会に通って、27歳の頃にレクリエーション・インストラクターの資格を取得しました。
- レクリエーションの楽しさ、面白さとはどういう点でしょうか。
レクリエーションは、人を生き生きとさせ、仲間との触れ合いや楽しくするスキルになります。参加者の生きがいづくり、健康づくり、仲間づくりにつながり、それが地域づくりに発展していきます。
私たちの行うレクリエーション講習に来る方の中には、明日から使えるような「レクリエーションのネタ探し」に来る方も多いのですが、講習の中で経験するワークショップを通じて、ネタだけではなく、自分とレクリエーション参加者とのもっと深い部分のコミュニケーションの取り方や、人と人が助け合うことの意義という根幹の部分に気づき、自分自身の生き方や人との関わり方をより良くするきっかけになることがありますね。
- 単純にレクリエーションのやり方(手段)を知識として得るだけではなく、根幹にあるような気持ちの部分に気付けるのですね。
そうです。グループワークの設定やファシリテーションにも気をつけていますね。最初にレクリエーションを提供する対象者のニーズをしっかり理解して、達成したいゴールを定める。
そして、どのようなレクリエーションを行えば実現できるかを考え、実行し、最後には参加メンバーからフィードバック(検証)を受けるようにしている。
このフィードバックが大事で、「レクリエーションやってみて楽しかったね」で終えるのではなく、ねらいとそれに合致した内容が提供できたのか、参加者がどう感じたのかをしっかりと企画者が受けられて改善できることまでケアしています。
「コンテント(中身・内容)よりもプロセスが大事」と私は考えていて、周りの人がどう感じて、自分は何に気づいたのかをしっかりと押さえることが、「人や状況を見極める力」にもつながっていき、介護職や子育ての現場では、利用者や子どもの気持ちを汲んだり、異常を察知するために非常に役立ちます。
- お聞きすると、また改めてすばらしい講師さんだと感じました。講義を一度受けてみたいです。
いや、私も講習を通じて一緒に成長しているんですよ。上から目線で「私は講師で偉くて、参加者は生徒だ」という上下関係は避けていて、あくまでもファシリテーターという役割は担いつつ、参加の皆さんと同じ目線で一緒になって学び、自分も進化していきたいと思っていますよ。
- 次に「AMAKARA塾」について教えて下さい。
これは、端的には貸し農園を通じた地域おこし事業ですね。
地域の保育所や幼稚園の子ども達を呼んで芋掘り体験もしてもらっています。
市内の保育所は地域貢献として無料です。
もう30年以上続けていることです。
現在は8名程度のメンバーで事務局を運営していますが、最盛期は14名程度いました。
一般利用も可能な貸し農園を運営していて、30名程度が利用しています。この時期は、白菜、キャベツ、大根、水菜、えんどう豆などが育てられます。
弥富市民のほか、津島市や名古屋市からの利用者もいますね。
利用者は春に向けて10名ほど募集予定で、6坪で年間1万円、9坪で年間1万5千円と比較的安価な料金で運営しています。
利用者が減ってきていますので、農業に興味のある一般利用者の方にはぜひ気軽に見学から来てほしいです。
農作物を使ったイベント出店は控えめになっていますが、十四山の盆踊りで出店したり、11月の文化の集いで鬼まんじゅうを販売するなどしてきました。
- 全くの農作業初心者でも利用できるのでしょうか。
はい、大歓迎です。
運営メンバーには農協OBもいますし、気軽に声をかけてもらえば随時指導を行いますので、無理なく育てられます。野菜の生長を観ていると楽しくなってきまね!
トイレも上水道も完備なので、使いやすい農園だと思いますよ。
-それは嬉しい!ボクも弥富に引っ越してきた際に看板はお見かけしたのですが、未経験の人間がいきなり申し込んで良いものなのか躊躇してしまいまして。興味のある方はぜひお気軽に、ということですね!
そうです。
AMAKARA塾という名前は、「あまから問答」という「甘いことも辛いことも全部ごちゃごちゃにして付き合う」という意味と「海部から文化・情報を発信(※)」という意味をかけた名称で、「塾」は明治維新の頃の塾を意識していますね。
※注:海部は「あま」と読み、弥富を含む愛知県西部の地域通称
- どういう思いで始まったのですか?
30年前の始めた当時は、役場で社会教育の分野に関わっていて、子ども会の関係者や他市町で同じ分野に関わっているメンバーと色々と人脈ができてきた頃で。
皆、組織のミッションに沿ってしっかりと仕事をしているものの、それとは別に、自分らしい地域活動みたいなことが組織の制約もあってできずに悶々としていた感じでした。
そんな中で、海部津島青年会議所にいた方が「いちごジャム」という名前のミニコミ紙を作って地域のイベント活動を情報発信することをしていることに刺激を受け、我々も情報発信していこうと始めたのがAMAKARA塾でしたね。
十四山村の「地域らしさ」を徹底的にメンバーで話し合って、川の水や土に触れて農業ができること、それが十四山らしさだと考えまして、「いい意味で農業が遊びになること」を目指し、情報発信していました。
- 時代は繰り返すというか、最近感じる弥富市内での有志の動きに重なるものを感じますね。地域に根ざした情報発信の先駆者のご経験、勉強になります。
社会病理の勉強が地域の抱える課題の解決につながっていった
- 一連のご活動のベースになる考えというのはありますか。
はい。元をたどると、学生時代には「地域づくり」という文脈にはすでに強い興味を持っていて、庶民や大衆の文化や生活史に関心がありました。
大阪で日雇い労働者が生活する「あいりん地区」のようすを観察したり、厳しい状況になっている人たちの中に人間としての良いところを見出しながらも、社会病理という視点からのアプローチでどうすれば良くなるか考えていました。
それは、生活支援の問題になり、最終的に「地域が抱える問題」の考察につながるんですね。
庶民の生態の観察から、その課題の解決法を探るうちに、地域づくりの重要性に気づき、興味を持つようになりました。
地域づくりに関するシンクタンクへの就職もチャレンジしたのですが、たまたま採用予定がなく、叶いませんでした。
そんな折、地元の役場が社会教育を担当してくれる職員を探していて、声をかけていただきました。
「まちづくりは人づくりから」という視点で社会教育に携わっていました。
ですから、まちづくりは市民と行政の協働が必要と考えていて、20年以上前に、「ファシリテーション」や「ワークショップ」を取り入れて市民と協働する場を開催していましたね。
世田谷まちづくりセンターの実施されていた取り組みにヒントを得たと記憶しています。
市が住民の意見を聞かず、独自の考えで建てたような公共施設では、結局市民が活用しません。使い勝手などの文句を市に言っているだけでは発展がありません。
一方で、計画の段階から市民と一緒に有識者とともに図面を広げて議論してみて、「市民の声が反映された」施設は違います。住民主体の施設になり、問題が起きても市民が自ら解決しようと動き、より良く効率的に活用しようとする。
こういう動きがまちづくりには大事なんだと思います。
主体的に動く”心が豊かな住民”を増やし、本当に豊かな街へ
- 今後の弥富市に重要なことはなんでしょうか。
弥富市も他と例外なく、市民の絶対数が減って税収も減る中で、昭和の時代に建設された公共施設やインフラの老朽化は進みます。
住民の数が半分になったからといって、施設やインフラを半分に出来るわけではありません。施設の数は多少減らせても、道路や水道はそれなりに維持がいる。
そんな中で重要なのは、行政にそういったことの全てを依存するのではなくて、地域住民が主体となり、やれることは自分でやることです。自分ではできないことだけ行政に頼む。
このように考えて、自分たちが満足できる地域に作り上げていく住民を増やすこと。つまり、主体的に行動する市民が多いまちが真に豊かなまちと考えます。
素晴らしい観光地があるとか、よい施設があるとか、税収が良いとかいった点が「豊かなまち」と評価されることもありますが、心の豊かな住民が多くいるまち、それこそが本当に豊かなまちなのだと考えていますね。
チームメンバーの関係性を整えていく、対話型のコンサルタントでありたい
- 最後に、鯖戸さんの目指しているところを教えてください。
まだ緒に就いたところですが、私は、キャリアコンサルタントの資格を活かしながら、ワークショップ型で問題解決したり、合意形成していくプロセスの中で、自ら気づいて変容していくようなかかわりを強みに活動していこうとしています。
生産性が高い企業の風土には「心理的安全性」というのが高いという研究報告があります。
「今さらこんなこと聞いたら恥ずかしいな」とか「体調悪いけど言い出しづらいな」と感じてしまう職場というのは心理的安全性が低い。
一方、心理的安全性が高い職場ほど、助け合いながら自分らしく働くことができ、生産性が高くなります。
そういった心理的安全性の高い環境を作るには、売上や顧客だけではなく、従業員などの組織の構成メンバーにもスポットライトを当て、そこで働く、人と人の関係性の構築が最も大切です。
より良い関係性をつくると、より良い思考ができ、より良い行動へとつながり、より良い結果が生み出されます。
私はワークショップ開催や関係づくりの支援、意思疎通を促していくことでチームメンバーの関係性を整え、事業所のミッションを達成していくという、対話型で組織を整えていくコンサルタントをしていきたく思っています。
- 地域づくりの面、そしてコンサルタントとしても、大変貴重なお話をありがとうございました。勉強になりました。
人と地域の関わりをキーワードに非常に幅広いご経験をされてきた鯖戸さん。
市役所職員としてご尽力されてきた経験やAMAKARA塾30年の経験を生かして、今後も企業や弥富の地域発展を強くリード、アシストしていただけそうです。
その時代時代で形は変わっていきますが、地域との関わり方や情報発信の重要性などなど、今回学んだ多くのことを今後の活動に取り入れていきたいと思いました。
編集長コジロウ 2018/12/17
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