第33回 「真実」をとらえる目
「イラストAC」より
「真実」をとらえる目
「事実」とは現実に起こった客観的なものです。それに対し「真実」は主観的なもの。
したがって事実と真実は違います。
たとえば、富士山を3人の画家が描いたとします。赤富士、紫富士、黄金に輝く富士とそれぞれの画家にとってはどれも真実の姿となるわけです。真実は事実に関わった人の数だけ存在していることになります。
水深200メートルより深い海域に住む深海魚は海から出たことがない故に海を知りません。それなら人間はどこまで知っているのでしょうか。現代人は地球の外に出なくても地球が球体である事実を知っていますが。
そのむかし、ドイツの気象学者ウェゲナーは地球上の大陸はかつて1つ、あるいは2つであったが地質時代に分裂して現在の状態になったのだと提唱して「変人」扱いされてしまいました。
当時の人々には理解されなかったものの、「大陸移動説」を疑う人はもう誰もいません。けれど、現代科学をもってしても宇宙はまだまだ未知の領域です。大部分が謎のベールに包まれているのが現状でしょう。
宇宙においては科学は微々たるものにすぎません。科学は万能ではないからです。
科学的に立証されていないからといって一部の人が見える霊現象や、説明のつかない不可思議な体験をたやすく否定することもできないのです。
――宇宙人はほんとにいるの? そんな疑問を投げかける子どもたちに空想の翼を広げてくれる文学は、これからもなくてはならない教養になってほしいものです。
「肝心なことは目には見えないんだよ」と、キツネが星の王子さまに諭した言葉は有名です。見えないものの中にこそ真実が隠されているのだと説いている「星の王子さま」(サンテグジュペリ 1900~1944)は童話であっても、私にとっては哲学書のようなバイブル的存在です。
「1つの目で見るものは、2つの目で見たものの半分ではない。より正確に見るためには片目をつぶって見る必要もある心理をパパは知った……」と、4人の娘が大人になって読んでもらうために書かれたエッセイ集は、精神科医、作家でもあった故、なだいなだ著作「片目の哲学」(1983年、築間書房)です。片目をつぶらなければ長い望遠鏡で遠くの景色を見ることができませんし、ライフルの射撃大会で的を射止めることもできません。
物事を正確に見るためには、片目をつぶって見ることの大切さ、本質をとらえるには当たりまえを疑ってみるのも忘れてはいけないと教えてくれています。
童話を書くうえでも、偏見や先入観にとらわれずに何が真実かを見極める「目」を養うことが大切だということでしょう。
浜尾
「イラストAC」より
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