「クリスマスと聖書」⑥イエスの義父ヨセフ
聖霊によって身ごもったイエスとヨセフとの間に血のつながりはない。しかし、幼子イエスはヨセフの庇護の下、命を救われ成長していく。聖書にはヨセフに関する記述は少ない。ほとんどが天使による夢のお告げに関わる。最初が、受胎告知に関する夢。次が、ヘロデ王から逃げてエジプトに行くようにという夢。三番目はエジプトでの夢。
「ヘロデが死ぬと、主の天使がエジプトにいるヨセフに夢で現れて、言った。『起きて、子供とその母親を連れ、イスラエルの地に行きなさい。この子の命を狙っている者どもは、死んでしまった。』」(「マタイによる福音書」2章19節~20節)
ここでもヨセフは、天使のお告げに従って、すぐに行動する。
「そこで、ヨセフは起きて、幼子とその母を連れて、イスラエルの地へ帰って来た。」(同上21節)
ヨセフは用心深い。たとえヘロデが亡くなっても、ヘロデの息子アルケラオが跡を継いでユダヤを支配していた。ヘロデ大王には3人の子がいたがアルケラオは長男で、父に似て、苛酷な政治を行っていた。イエスが生きていることを知ったら、父ヘロデ王と同じように殺そうとする恐れがある。ヨセフはベツレヘムに行くことを恐れた。その時、再び天使が夢に現れる。
「夢でおつげがあったので、ガリラヤ地方に引きこもり、ナザレという町に行って住んだ。」 (同上22節~23節)
ヨセフ自身についての記述はここで終わる。ところで、ヨセフの職業は大工であったとされるがそのことはどこに記述があるのか?「マタイによる福音書」13章54節~55節である。イエスが説教を始めてからのこと。ナザレでのイエスの説教に驚いた人々がこう言う。
「『この人は、このような知恵と奇蹟を行う力をどこから得たのだろう。この人は大工の息子ではないか。』」
大工の息子イエスを描いた素晴らしい絵がルーヴル美術館にある。ジョルジュ・ド・ラ・トゥールの「聖ヨセフ」。ルーブルには何度も足を運んでいるが、この絵の前に来るとしばらく立ちつくしてしまう。静かに、しかし深く魂に響く絵。こういう芸術に強く魅かれる。
(ジョン・エヴァレット・ミレー「両親の家でのキリスト」テート・ブリテン)
(グイド・レーニ「イエスを抱くヨセフ」ヒューストン美術館)
(アントン・ラファエル・メングス「ヨセフの夢」ウィーン美術史美術館)
(ヘラルト・セーヘルス「聖ヨセフの夢」ウィーン美術史美術館)
(ヤコブ・ヨルダーンス「エジプトからの帰還」ベルリン国立絵画館)
(ジョルジュ・ドゥ・ラ・トゥ-ル「聖ヨセフ」ルーヴル美術館)