IMFと世界銀行の最前線―日本人職員がみた国際金融と開発援助の現場
最近関心があるIMF/世界銀行という国際組織に関して、現場レベルの情報が欲しくて以下の書籍を読みました。具体的な情報が多くとても興味深かったです。
まずは書籍前半を構成しているIMFという組織に関して。
■IMF職員ミッション頻度
・通常は年に数回程度
・1回のミッションは数週間程度の滞在
・担当エコノミストは基本的にはワシントンDCに駐在
・IMF金融支援対象国を担当する場合は2ヶ月に1度ほど(滞在は2週間ほど)
どういった頻度で出張などが発生するかイメージしやすいです。
■IMF組織図
・原則として全ての加盟国に担当エコノミストの割り振りあり
・米国/中国など経済規模の大きな国のエコノミストは5名程度(小さな島国などは1名のみ)
・各局の重要書類は戦略政策審査局の審査を受ける事が多い
・人事局の権能は人事戦略の立案や採用などに限定(外銀企業に近い)
こちらは組織図。
■IMF理事会
・トップに専務理事(補佐役として4名の副専務理事)=マネジメントと呼称される *不文律として欧州から選抜を受ける
・24名の各国からの理事を選出
・日/米/独/英/仏の任命理事とそれ以外の選任理事
・投票権はクォータ(出資割当額)制度を採用
理事会の構成については世銀と近しい部分が多そうです。
■IMF職員構成
・エコノミスト/専門職/管理職の2000名程度+それ以外の450名程度
・人事異動は公募が多い
・巨大な官僚組織的な色合いが強い
・欧米偏重でアジア出身職員が少ない傾向
確かに、アジア諸国からの出資比率に対する職員比率の少なさが目立ちます。やはり英語(語学)のハードルは相当高いようです。
また、後半ではアジア通貨危機など直近の金融危機に対する反省点などが挙げられ、その対応策としての以下施策なども記述されていました。
■金融セクター評価プログラム(Financial Sector Assessment Program)
・加盟国の金融システムの健全性の監視を強化
・アジア通貨危機以降に導入された新しい取り組み
・受入は加盟国の任意に委ねられる
・重要な金融部門を有する25カ国・地域には5年に1回うけることを義務化している
■アジア通貨危機の要因
1997年のタイ通貨バーツの暴落をきっかけとする
①固定相場制に代表される為替制度の硬直性
②資本規制の緩和に伴った短期資金の急激な流出
③金融セクターの脆弱性
④多額の外貨建て借入に代表される企業セクターの債務問題
■チェンマイ・イニシアティブ
・ドル資金を融通する通貨スワップ協定のネットワーク
・アジア通貨危機の反省
・IMFの金融支援に依存しない体制
・日中韓+ASEANの計13カ国
・合計額は1200億ドル
続いて書籍後半に登場する世界銀行という組織に関して。
■日本への世界銀行による支援(1953~1966年)
・借入総額8.63億ドル
・案件数31件
・借款の完済は1990年
・案件(東海道新幹線/東名高速道路/北陸電力の有峰ダムなど)
日本が世銀からの資金を受けていたというのは、今の日本からは想像しにくいかもしれません。
■1945~2013の累積承認TOP20
・IBRD/IDAの累積承認額は8500億ドル程度
・インド/ブラジル/中国など経済規模の大きな国が上位
・インドネシア/韓国/ベトナム/フィリピンなど東アジア諸国が目立つ
・アフリカはナイジェリア/エジプトの2カ国のみ
TOP20カ国については、比較的大きな国が入っていますが、もちろん途上国もそれなりの出資を受けており、今後はその比率が上がっていくのだろうと思われます。
■世界銀行の組織
・各加盟国から1人ずつ選ばれた総務(財務大臣など)の構成
・年に1度の年次総会
・融資業務などの実務は総裁率いる1万名以上の世銀職員
・理事会は25名の理事(5大出資国から1名ずつ確定)
・管理職9割/職員4割が世界120カ国以上の現地事務所に勤務
・7年で異動出来ない場合は退職
理事会の構成などは比較的IMFと近しいかもしれませんが、より職員が専門分化されており現場に近いイメージでしょうか。
また、最後の方では中国という存在が世銀にとっていかに重要なポジションに居るか、ということが記載されていました。
■世界銀行の出資大国に中国がい続ける理由
①世銀の融資は中国国内の格差問題や急速な都市化への対応(人口急増する内陸部の中小都市が多い)
②中国が直面している環境問題への対応(大気汚染/水資源/赤潮など)
③中国が進める様々な制度改革の後押し(社会福祉制度/戸籍制度など)
■中国向けの世界銀行のオペレーション
・1980年から累積融資承認額は500億ドル以上、承認案件数は500件以上
・30年前はインフラ融資が中心
・現在は社会的/環境的な持続性を謳う案件が中心
・既に発展している沿岸部というよりは内陸部
・大都市というよりは中小都市