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書くこと。生きること。:Hiromi's Blog

サヨナラ好物

2024.07.01 14:02

ハモニカを吹くように、左右の手で両端をつかんでかぶりつく。下顎で一段ずつ、きれいに食べ尽くしたい。

ああだめだ。脇をキツく締めないと、自分の腕の重みで手が下がってきてしまう。

何としてでも、このハモニカ・スタイルで食べねばならない。この50年ほど、こうしてコイツにかぶりついてきたではないか。

漸く1本を食べ切る。甘くて美味い。右の手首から肘にかけてが痛む。この夏が最後か。

「もう一本ください」

気が付けば、こう叫んでいた。どこまでいけるか、こうなれば自分自身との、いや私とコイツとの半世紀を賭けた真剣勝負である。

うう、重い。今まで数え切れぬほど攻略してきたコイツのグラム数を、人生で初めて意識する。

右腕がダウン。左手は物をつかむことが苦手だが、根性はあるらしい。マイクのようにつかみ直し、残る粒々を攻略していく。

もう限界か。皿の上に倒れゆくマイク。私とコイツの、激闘は幕を閉じた。

「食後のお薬は飲みますか?」

ヘルパーさんの優しい声。

あとでにします、と辛うじて答えると、続けて私は小さくこう呟いた。

「ウェットティッシュ、ください」


そうだ。こんどは夜祭りの屋台で、焼いたのを買い食いしよう。汚れてもいい服を着て、口の周りを醤油色にペイントしながら。


2024年、夏の記録。