高血圧 受診勧奨基準は 140 / 90 で変わりはなし
高血圧の基準が変わった? ネットで誤情報が拡散 学会が注意喚起<デジタル発>
2024年7月2日 14:00(7月3日 0:02更新)
「4月から特定健診の最高血圧の基準が140から160に変わりました」―。こんな誤った情報がインターネット上に広がっている。医師の中には経営する病院のホームページ(HP)に内容をアップしたり、動画投稿サイト「ユーチューブ」で変更の背景を解説したりする人もいる。これを受け、日本高血圧学会は5月下旬、「誤解が広がっています」との異例の文書を学会のHPに載せた。血圧の基準に何が起こっているのか。
(くらし報道部編集委員 荻野貴生)
血圧とは、心臓から送り出される血液が全身へと流れていく際、動脈の内側にかかる圧力のこと。よく言われる「上の血圧」が心臓の収縮期血圧(最高血圧)で、「下の血圧」が心臓の拡張期血圧(最低血圧)を指す。血圧が高い状態が続くと脳卒中や心臓病、腎臓病などさまざまな病気につながる。
関東地方のある歯科医師は「特定健診における勧奨と判定する基準が『最大血圧140、最小血圧90』から『最大血圧160、最小血圧100』になりました」との情報を自身のクリニックのHPに出した。九州地方の医師も同様の内容の情報をアップし、「あくまでも特定健診における高血圧傾向の方に対する注意喚起を行う基準値を示したもの」と付記した。
これに対し、高血圧学会は「特定健診における受診勧奨判定値についての正しいご理解を」と題した文章を公表した。「特定健診の第4期(本年度~)から用いられている血圧の受診勧奨判定値について、一部で基準が変わったという誤解が広まっています」と指摘し、「健診結果に基づく受診勧奨も、高血圧治療ガイドラインも変更があったわけではない」との見解を示した。
一連の騒動について札幌医大元学長で、高血圧学会の理事長を歴任し、高血圧治療ガイドラインの作成にも当たった日本医療大学の島本和明総長は「協会けんぽ(全国健康保険協会)が今年4月にHPで、重症化予防事業の血圧値を『最大160、最小100以上』と打ち出したことが影響している」とみている。
協会けんぽは4月、HPに「未治療者の方への受診勧奨(重症化予防事業)を実施しています」との告知をアップ。その中で最大血圧を160、最小血圧を100以上との基準を示したが、それが一部の医療関係者に「高血圧の判定基準 ついに改定」と切り取られ、ネットで拡散したというわけだ。
実は協会けんぽは22年にも厚生労働省の血圧の受診勧奨の「140/90以上」との基準を併記しつつ、直ちに受診勧奨する一次勧奨域を「160/100」としていた。
今回の誤解の背景には、血圧が自宅や病院など、測る場所や人によって変動しやすいこと、高齢者の降圧剤服用に伴う副作用など学会の基準に対する疑念が底流にあることが影響しているとみられる。ちなみにガイドラインで家庭で測定する血圧値は「135/85以上」で受診勧奨となる。
島本総長は「血圧の基準値は2008年から変わっていない。加齢に伴い、血管は硬くなり、60歳を超えると6割、70歳を超えると8割が高血圧症になる。高血圧が各種の循環器疾患を引き起こすのは統計的に明らかです」と指摘する。さらに、「70歳以上になると、人によっては降圧剤を使うと最大血圧140でもふらふらになることもある。ガイドラインにも明記しているが、75歳以上の後期高齢者の治療は慎重に、少しずつ下げていくことが必要です」と指摘している。
北海道新聞よりシェアしました。 https://www.hokkaido-np.co.jp/article/1030204/?ref=top