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偽笑罪(1:2:0)

2024.07.06 13:21

【配役】


◆西東 虹次郎(さいとう こじろう) 男性(と表記されているが配役は女性)


▶︎資産家 「棚佳 飲月」の小間使い。貧困の生まれで、棚佳に買われた。

 小間使いとは言われているものの、実情は棚佳の元に来る「ナンセンス」な

 「頼み事」を受け持つ「玩具」のようなものである。



◆湖川 万理ノ(こがわ まりの) 女性(性別変更×)


▶︎湖川家のご令嬢。政略結婚の駒として父、湖川 常道(こがわ じょうどう)により

 夜伽の手ほどきを幼い頃から受ける。



◆棚佳 飲月(たなか いんげつ) 男性


▶︎資産家。若くして「棚佳家」の財を成し、G県の実権を握っている。

 彼の元には「珍妙」で「ナンセンス」な「頼み事」が集まる。

 その「頼み事」に西東を向かわせるのが、現在の楽しみ。

 バイセクシャルの側面を持つ。




※この台本の性別変更は、自由に行って良いものとする。

※ただし、本来のストーリーに沿った性別の通りに演技をすると、今後演技に支障なく上演ができる手筈である。





■場面:暗い小部屋。一人の女。数人のけだもの。縛られる男。



西東:(モノローグ)

西東:彼女の肌は、月光の中でこそ輝く蛍のような美しさがあると思った。

西東:艶めかしく、からだを捩らせる「それ」は、その美しさを纏った「理性のけだもの」だった。



湖川:虹次郎さん、ねえ、ちゃんと見ていて、ねえ、見ていてね。



西東:見ていますよ。それこそ、貴女の柔肌に穿孔ができるほど。



湖川:そうしていてね、ずっと、そうして、微笑んでいてね。



西東:(モノローグ)

西東:鳩が打たれたような、絞るほどに妖艶さを増す喘ぎ声が

西東:この秘密の部屋に小さく響く。

西東:椅子に縛られ、笑みを浮かべる事を強いられた僕は

西東:彼女ーーー湖川 万理ノが、ただただ輪姦(まわ)されている様子を見つめているだけだ。



湖川:痛いの、とても、とても痛いの。



西東:(モノローグ)

西東:そんな言葉とは裏腹に、彼女の声は上ずり、頬は紅く染まるだけだ。

湖川:見て、ちゃんと、ねえ、見つめていて。

湖川:一寸たりとも、まばたきもしないで、そう、そのまま、私を見ていて。



西東:見ていますよ、お嬢様。見ていますとも。



湖川:私が、汚(よご)れていく様を。見て、もっと。



西東:見ています。貴女の、穢(けが)れていく様を。



湖川:ああ!死にたい!死んでしまいたい!

湖川:もっと、もっと、もっとください、私に、もっと、死にたくなるような

湖川:快楽も、劣情も、すべてをぶつけてください。

湖川:乱暴にしてください。いくらでも、いか程にでも。

湖川:二度と私が、恋なんてしたいと思わないくらいに。



西東:(モノローグ)

西東:むせかえる体液のにおいと、埃を纏ったような汗のにおい。

西東:盛る女と、けだものの男たちの、擦れる、擦れつづける音。

西東:湿気を帯び、熱を纏い、まるで肉という肉が溶けているのではないかと

西東:錯覚する、これを地獄と、錯覚する。



西東:(タイトルコール)

西東:偽笑罪(ぎしょうざい)




ーーーーーー

■場面:資産家 棚佳 飲月邸

棚佳:それでは、西東、そのままぐるりと回って見せなさい。



西東:はい。畏まりました。



棚佳:(モノローグ)

棚佳:そう応えると、西東は全くの衣服を着ぬままに私の前で

棚佳:前転をしてみせる。



西東:如何でしょうか。



棚佳:違う、そうじゃない。立ったまま、回れという意味だ。



西東:失礼致しました。



棚佳:(モノローグ)

棚佳:再びぐるりと一周回って見せた西東の肌、筋肉、横顔、うなじを舐めるように見つめる。



棚佳:悪くない、いい仕上がりだ。もう少しタンパク質も摂るようにしなさい。



西東:畏まりました。



棚佳:申し分ない、素晴らしい身体に仕上がってきている。

棚佳:それはそうと西東、此度の「頼み事」は、ちぃとばかし骨が折れるぞ。



西東:心得ています。



棚佳:G県北部では知らぬものは居ない、名家のご令嬢。

棚佳:「湖川 万理ノ」直々の「頼み事」だ。

棚佳:…西東、しっかり沼に浸かれよ。



西東:沼、とは。どういう意味でしょうか。



棚佳:この「湖川家」、少々きな臭い。

棚佳:それはもう、きな臭すぎて隠すつもりが無いのではないかと疑うほどだ。



西東:隠すつもりが、ない?



棚佳:湖川の血は、濃いんだよ。



西東:…それは、物理的に濃いという意味で、合っておりますでしょうか。



棚佳:そう。代々父親が実子の破瓜(はか)を務めると、酒を喰らいながら気持ちよさそうに話していたよ。



西東:下種の極みじゃあないですか。



棚佳:そんな湖川家に、まさかの縁談の話だ。



西東:縁談。



棚佳:渦中のお嬢様は、実父(じっぷ)の手垢だらけ。

棚佳:さて、それじゃあそのお嬢様から何故こんな「頼み事」が来たのか。



西東:きな臭いを通り越して、生芥(なまごみ)のにおいがしそうですね。



棚佳:ああ、「最高」だと思わないか?さて、西東、準備はできたかね。



西東:はい。いつでも、ご希望通りに。



棚佳:では、どっぷりと、沼に浸かりに行きなさい。

棚佳:「私の破瓜の瞬間を、笑って見ていて欲しい」なんて言う溝川(どぶがわ)のようなご令嬢のもとに。



ーーーーーー

■場面:G県北部 湖川邸



西東:(モノローグ)

西東:その豪華な家とは裏腹に、邸内(ていない)の装飾品達には多くの錆(さび)や罅割れ(ひびわれ)が散見された。



湖川:ここが貴方の部屋。



西東:(モノローグ)

西東:通された部屋は、恐らく客間なのか邸内では「マシ」な分類の小奇麗さだった。

西東:一つ、悪趣味だとするならば壁に大きく飾られた「裸婦画(らふが)」であろう。



湖川:あんまりマジマジと御覧になられると、少しばかり気恥ずかしさがございますね。



西東:…おきれい、ですよ。



湖川:…ありがとう。



西東:(モノローグ)

西東:ソファの端に座り、股を広げる女の裸婦画。

西東:その顔は、まごう事なき「湖川 万理ノ」の顔であった。

西東:その裸婦画は、実に10メートルはあろう巨大な油絵で、長方形の形をしていた。

西東:その裸婦画の左側にはベルベット色の分厚い布が被されている。

西東:私の目線に気づいた彼女は、少しだけ険しい顔をして言う。



湖川:こちら側は、大きく破れてしまいましたの。件の戦争の際に。

湖川:ですので、絶対に幕を剝がさないでくださいね。



西東:ええ、お招きいただいた所でそんなぶしつけな真似いたしませんよ。



湖川:よかった。流石「棚佳」様のご紹介だわ。



西東:(モノローグ)

西東:舐めまわすように、彼女は私を見つめる。



湖川:…本当に、貴方、「不能」なんですの?



西東:……はい?



湖川:「不能」なんでしょう?聞きましたわ、棚佳様から。

湖川:どんな事があってもエレクチオンせず、どんな事があっても女を襲わない生粋の「不能」だ、と。



西東:…棚佳がそう仰ったので?



湖川:ええ。そう伺いましたわ。



西東:……あの変態め。



湖川:何か仰いました?



西東:いえ、こちら側の問題です。



湖川:……本当に、「不能」なんですか?

西東:……ええ、まぁ、そうですね。



湖川:確かめさせていただいても?



西東:(モノローグ)

西東:そう言うと、彼女は私の股間に手を伸ばした。

西東:その時の彼女の顔と言ったら、焦がれた恋人と抱きしめあうが如く、喜びに溢れている。

西東:まごう事なき、この女も、棚佳同様、変態の類なのは間違いなさそうだ。



湖川:貴方が私の破瓜を務めても、いいんですよ。



西東:何を、言って。



■効果音:壁を強く叩く音



湖川:……お父様だわ。



西東:……お父様?



湖川:失礼いたしました、西東さん。また、夕方にお声がけに来ますわ。



西東:(モノローグ)

西東:そそくさと、湖川万理ノは客間を後にする。

西東:音のした壁に目をやると、そこには何枚かの肖像画が飾られている。

西東:大抵、こういった肖像画にはからくりがあるものだけど……。

西東:(モノローグ)

西東:肖像画を1枚1枚見比べると、そのうちの1枚に違和感を感じた。

西東:……この肖像画だけ、目の部分が小窓になっている。

西東:これは、相当な「沼」だぞ。



ーーーーーー

■場面:夜。棚佳 飲月との通話記録。客間。



棚佳:ほう、それで。お前の居る客間には覗き窓があった、と。


西東:はい。恐らく、家主である湖川 常道(こがわ じょうどう)が覗いていたんだと思います。


棚佳:間違いなく、そうだろうな。


西東:棚佳。


棚佳:何かね、西東。


西東:僕は、「不能」じゃありません。


棚佳:ああ、すまなかったよ。彼女の要望が、それであったからな。


棚佳:「不能」という事にしなければ、立ちゆかんだろう?



西東:股間を弄(まさぐ)られましたよ。



棚佳:それはよかったじゃないか、西東。

棚佳:あんな美人にされることなんて早々ないだろう。

棚佳:貴重な体験じゃあないか。



西東:僕をどうしたいんですか、貴方は。



棚佳:ぐちゃぐちゃのどろどろにしたいさ。

棚佳:最高の状態で、お前の全てを喰らいつくしたい。

棚佳:だから、こうして育てているのだろう?

棚佳:お前の「貞操観」とやらを。



西東:……相も変わらず、気持ち悪い人だ。



棚佳:誉め言葉にしかならんよ、西東。



■効果音:ノック音



湖川:西東さん、お迎えにあがりましたわ。



西東:あ、はい、少しお待ちください。



西東:(モノローグ)

西東:がちゃり、と電話を切る。切る寸前に受話器から湿った笑い声が聞こえたような気がした。



湖川:あら、御免なさい、お電話でしたか?



西東:いえ、いいんです。相手は棚佳ですので。



湖川:あら、棚佳様。私も一言話したかったですわ。



西東:話す価値があるのかわかりませんが。



湖川:随分と仲がよいのね。棚佳 飲月と言えば、一代で巨万の富を得た天才よ。

湖川:誰もがあの方と関係を持ちたいはずだわ。



西東:……僕には、只の鬼畜野郎にしか見えませんが。



湖川:それは「あなたにだけ」そうなのでなくって?



西東:……さあ、どうなんでしょうね。

西東:ところで、今日、もう始まるのですか?



湖川:嫌だわ、そんなすぐにがっつくような女じゃないですわ。



西東:でも、先ほどあなたは。



湖川:ほんの少し、味見がしたかっただけです。



西東:……父親が見ていると、わかっていながら?



湖川:……何のことかしら。さあ、行きましょう、西東さん。

湖川:今日はあなたの為に食事を用意しましたの。



ーーーーーー

■場面:客間。



西東:(モノローグ)

西東:食事は、まさしく上流階級の用意した食事というものだった。

西東:フォアグラやら、キャビアやら、普通には口にしない食事がたらふく用意されていた。



西東:本当に、ただの食事会だったな。少し拍子抜けだ。



西東:……気味の悪い客間だこと。



西東:家主が自由に覗ける、小窓に。



西東:まるで「私のものだ」と主張している、実子の裸婦画。



西東:不自然に、幕の張られた隠された左側。



西東:棚佳、確かにあんたの言う通り。



西東:ここは既に「底なし沼」かもしれないよ。


ーーーーーー


■場面:回想。棚佳邸。寝室。




棚佳:(西東の身体を舐めまわす)



西東:……ッ



棚佳:声を、我慢するんだな、お前は。



西東:別に、どうってことない……。



棚佳:そうやって、「理性を保とう」とするお前の顔が、愛おしい。



西東:嬉しくない。



棚佳:嬉しくなくてもいい、次第にこれが当たり前になる。



棚佳:人の身体は、苦痛に耐える事はできる。

棚佳:だがね、西東。

棚佳:快楽には抗えない、そういう風に出来ている。

棚佳:それが本能であり、それが宿命なのだよ、人間というものの。



棚佳:(再び、舐めまわす)



西東:……ッ。

西東:それが人だと、言う、なら。

西東:僕は、人を、やめる。



棚佳:出来ないさ。お前は、いくら藻掻いても、落ちていく。

棚佳:人は皆、「沼」を持つのだからね。



棚佳:さあ、もう一度、鼠径部から始めよう。


ーーーーーー

■場面:湖川邸。客間。



西東:……最悪な夢を見た。



湖川:大丈夫ですか?



西東:いえ、大丈夫です、お気になさらず。



湖川:でも、頬が紅いですわ。お熱があるのではないかしら。



西東:いえ、そんなこと。大丈夫です、本当に、気にしないで。



湖川:でも……。



西東:そんな事より、「頼み事」はいつ、行えばよろしいのでしょうか。



湖川:そうですね。いつでも宜しいのですけれども……



西東:(モノローグ)

西東:湖川 万理ノの目線は、件の肖像画に向かっていた。

西東:そうか、あの覗き穴は「客人」を見る為のものではない。

西東:この愛娘を、見張るための物なのだ。

西東:いや、違うな。この愛娘の、処女を見張る為の物なのだろう。



湖川:「今夜」、致しましょうか。



西東:(モノローグ)

西東:肖像画の周辺が、一瞬たじろいだような感覚がした。

西東:ねっとりと、緩やかに煮える油のような視線が刺さる。



湖川:ね、西東さん。わたし、貴方の下の名前が知りたいわ。



西東:虹次郎。



湖川:そう、虹次郎さんというのね。



西東:(モノローグ)

西東:そう、西東 虹次郎と名前を呼んでも、この女の神経はここには繋がって居ないように思う。

西東:ドタバタと、もう隠す気がない足音が肖像画の裏から遠ざかる。

西東:この場でなら、1つ聞くことも出来るだろう。

西東:……ですが、お嬢様。ひとつ、失礼ながらお聞きしたいことが。



湖川:ええ、なんでしょう。なんでもお聞きになって?



西東:噂になっているではございませんか、その、あなたの。



湖川:なあに、まどろっこしいわ。



西東:その、あなたはそもそも、寝ておられるのでしょう?



湖川:わからないわ、そんな野暮ったい言い方じゃ。



西東:……あなたの実父と、あなたは、身体の関係があるはずだ。



湖川:お父様が仰っていたのね?



西東:……ええ、そうお聞きしています。



湖川:あの人、お酒を飲むとなんでも口から零してしまうから。



西東:……それなのに。

西東:あなたの「頼み事」は……。



湖川:はじめは、小学生を上がった頃。

湖川:夜中、部屋に来るようになりました。

湖川:はじめは、固くいきり立つそれを握らされる程度。



西東:程度って……。



湖川:恍惚な表情が、宵闇にぼんやりと浮かぶのです。

湖川:もう少し身体が女になり、腰のくびれも、臀部の大きさも大人に近付いた頃。

湖川:あの人は我慢出来なくなったのね。

湖川:ついに、差し込んだのよ、全てをね。



西東:差し込んだ……。



湖川:自身の身体よりも大きな、あの人を受け入れて。

湖川:擦れる度、突かれる度、アレはそう、内蔵を擦り合わせたときにだけ感じるにおい。

湖川:体液と体液が、混じり合うのを求めてる香り。

湖川:熱を帯びて、雄と雌が、ひとつになる、まるで銀杏並木のような噎せ返る(むせかえる)におい。

湖川:それは、凡そ20歳になるまで続いたわ。



西東:……地獄じゃないですか。



湖川:天国の、間違いでしょう?



西東:天国?



湖川:でもね、もう終わってしまったのよ。



西東:終わった?その、狂った夜伽が?



湖川:そう。何故だと思う?



西東:何故って、それは、あなたの婚約が決まったからなのでは?



湖川:……ふふ、ふふふ。

湖川:わたしはね、ずっと見てたのよ、それを。



西東:……見てた?



湖川:虹次郎さん。



西東:……なんでしょう。



湖川:わたし、今日という日を待ち望んでいたわ。



西東:(モノローグ)

西東:そう言うと、湖川 万理ノは静かに部屋を出た。

西東:……「わたしは見ていた」

西東:どこから?なにを?

西東:この家は、兎に角、「覗き見る」のが好きなようだな。


ーーーーーー


■場面:夜。棚佳 飲月との通話記録。客間。



棚佳:「見ていた」、と。



西東:ええ。そう仰られて。



棚佳:なあ、西東。



西東:なんでしょう。



棚佳:興奮しているか?



西東:している訳がないでしょう。



棚佳:なんだ、つまらん。



西東:気味の悪さに居心地が悪くなっているだけですよ。



棚佳:しかし、その居心地の悪さこそが

棚佳:ケレン味溢れる、人の「沼」だと思わないか?



西東:意味がわかりません。



棚佳:と、言いながら私がお前に触れるのを拒まないのは何故だ?



西東:……。



棚佳:わたしは、おまえの穴と言う穴の味を知っている。

棚佳:肌の張りも、それこそ肛門の皺ひとつひとつの形でさえ。



西東:やめましょう、棚佳。



棚佳:どこに黒子があり、どこを擽れば甘い声が出るのかもわかる。



西東:……。



棚佳:火照った身体が放つ汗の、つんとしたにおいも。

棚佳:じわじわと赤みを強めていく肌の、血管の浮き出方。

棚佳:舌と舌が絡まる時の唾液の味の、唇を噛んだ時の血の滲む熱さ。



西東:飲月様。



棚佳:拒まないのは何故だ?

棚佳:今も、この通話を切りさえすれば、頬を赤らめることもなかっただろう?



西東:それは……。



棚佳:わたしに買われたから。



西東:そう、です。



棚佳:いいや、違うね。



西東:……。



棚佳:あるんだよ、虹次郎。おまえにも、「沼」が。

棚佳:抜け出せぬその底なしのおまえ自身に、泥濘(ぬかるみ)に。

棚佳:心地良さも、感じているだろう?



西東:やめてください、切ります。



棚佳:切れないさ。おまえは、切れない。

棚佳:この「頼み事」が終わった時、お前はまた一段落ちるんだよ。



西東:なにが……。



棚佳:「異常性」の沼に。



西東:切ります。



棚佳:「裸婦画」の幕を開けてみろ、虹次郎。



西東:……「裸婦画」、ですか。



棚佳:それを見れば、答えがあるとわたしは睨んでいるよ。



西東:答え、ですか。



棚佳:西東。わたしの勝ちだな。



西東:……?



西東:なんの話しです?



棚佳:「おまえは電話を切らなかった」



ーーーーーー


■場面:暗い小部屋。一人の女。数人のけだもの。縛られる男。



西東:(モノローグ)

西東:彼女の肌は、月光の中でこそ輝く蛍のような美しさがあると思った。

西東:艶めかしく、からだを捩らせる「それ」は、その美しさを纏った「理性のけだもの」だった。



湖川:虹次郎さん、ねえ、ちゃんと見ていて、ねえ、見ていてね。



西東:見ていますよ。それこそ、貴女の柔肌に穿孔ができるほど。



湖川:そうしていてね、ずっと、そうして、微笑んでいてね。



西東:(モノローグ)

西東:鳩が打たれたような、絞るほどに妖艶さを増す喘ぎ声が

西東:この秘密の部屋に小さく響く。

西東:椅子に縛られ、笑みを浮かべる事を強いられた僕は

西東:彼女ーーー湖川 万理ノが、ただただ輪姦(まわ)されている様子を見つめているだけだ。



湖川:痛いの、とても、とても痛いの。



西東:(モノローグ)

西東:そんな言葉とは裏腹に、彼女の声は上ずり、頬は紅く染まるだけだ。



湖川:見て、ちゃんと、ねえ、見つめていて。

湖川:一寸たりとも、まばたきもしないで、そう、そのまま、私を見ていて。



西東:見ていますよ、お嬢様。見ていますとも。



湖川:私が、汚(よご)れていく様を。見て、もっと。



西東:見ています。貴女の、穢(けが)れていく様を。



湖川:ああ!死にたい!死んでしまいたい!

湖川:もっと、もっと、もっとください、私に、もっと、死にたくなるような

湖川:快楽も、劣情も、すべてをぶつけてください。

湖川:乱暴にしてください。いくらでも、いか程にでも。

湖川:二度と私が、恋なんてしたいと思わないくらいに。



西東:(モノローグ)

西東:むせかえる体液のにおいと、埃を纏ったような汗のにおい。

西東:盛る女と、けだものの男たちの、擦れる、擦れつづける音。

西東:湿気を帯び、熱を纏い、まるで肉という肉が溶けているのではないかと

西東:錯覚する、これを地獄と、錯覚する。



西東:いや、正しく(まさしく)、ここは地獄そのものだな。



湖川:?

湖川:ねえ、約束と違うわ。

湖川:ちゃんと、ちゃんと笑顔で、わたしの汚れていく姿を見てちょうだいよ。



西東:本当に見て欲しいのは、僕に、じゃないだろう?お嬢様。



湖川:……。

湖川:見たのね?あの、「裸婦画」を。



西東:ええ。見ておいたほうが、よりあなたを見つめる事になるだろうと、棚佳からの指示です。



湖川:そう、すべてお見通しなのね。



西東:ええ。湖川 万理ナ(こがわ まりな)さん。


ーーーーーーー

■場面:客間。通話の後。



西東:(モノローグ)

西東:棚佳の思惑通りに動くの癪だが、何より私の思うこの「沼」の結末は

西東:恐らくこの裸婦画にあることを、本能が伝えている。

西東:重苦しく、仰々しく被されたその幕は、錆び付いた鉄のようなにおいを放ち、すべての秘密をひた隠しにしていた。

西東:ゆっくりと、舞う埃を払いながら、幕を退かす。

西東:そこには、もう一人、同じ顔をし、反対側のソファの端に座りながら「股を閉じる」女が居た。



ーーーーーー



湖川:(モノローグ)

湖川:夜、眠っているとね。

湖川:お父様は、万理ノのベッドに向かうの。

湖川:使用人の人も、死んでしまったお母様も、

湖川:私たちの区別なんて付いていなかったのに。

湖川:お父様はいつも、わたし達を間違える事なんてなかった。

湖川:わたしは、そんなお父様がいつの間にか男性として愛しく思うようになっていた。

湖川:でも、違ったのね。

湖川:お父様は、わたし達を間違えないんじゃない。

湖川:万理ノのことを、間違えなかったのよ。

湖川:恨めしかった。

湖川:何度も、何度も何度もあの子が抱かれる度に

湖川:お父様の顔が綻んで(ほころんで)行く。

湖川:お父様じゃない顔になっていく。

湖川:わたしは、それをずっとずっとずっと見てた。

湖川:何度も、お父様に貫かれて、女になっていく万理ノを、見てた。


ーーーーーー

湖川:あ、ああっ……もっと、お願い、お願いします、もっと壊してください。



西東:(モノローグ)

西東:真実が露呈した後も、湖川 万理ナは輪姦される事をやめなかった。

西東:いや、もはや真実なんてどうでも良かったのだろう。



湖川:はあっ、もっと、わからなくなるくらい、突いて。

湖川:足りないわ、こんなものじゃ、まだ足りない!!!



西東:(モノローグ)

西東:今もどこかで、湖川 常道はこの光景を見ているのかもしれない。

西東:居なくなった、自身の性玩具の「スペア」が。

西東:大切だったものの「代わり」が、自分では無いものの手で穢されていく様子を。



湖川:お父様、見て、見てね、もっと、沢山見て。

湖川:お姉様より、わたし、上手に鳴ける。



湖川:わたしを選ぶべきだったのよ、お父様。

湖川:ああ!わたしを、わたしを選んでいれば、お父様。

湖川:わたしも、お父様も、湖川家も!

湖川:全てが上手くいったのに!!



西東:(モノローグ)

西東:いつの間にか、父を呼びながら、いや。

西東:父の名前を叫びながら、肉欲の部屋に溺れていく。

西東:わたしを呼んだのは、他でもない、「父に見せる為では無い」という、最後の抵抗であったのだろう。

西東:偽笑罪(ぎしょうざい)、人の為に笑うではなく、それを罪としては、地獄に落ちる。

西東:笑ってなど、居られるわけがない。




棚佳:あるんだよ、虹次郎。おまえにも、「沼」が。

棚佳:抜け出せぬその底なしのおまえ自身に、泥濘(ぬかるみ)に。




西東:もしその沼があるのだとしたら、

西東:錯覚する、これを地獄と、錯覚する。



ーfinー