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過労死防止北海道センター

過労死等の防止のための対策に関する大綱(改定案)に対して、パブリックコメントを発出しました

2024.07.12 08:00

当センターでは、厚生労働省が実施している過労死等の防止のための対策に関する大綱について、以下の通りパブリックコメントを発出しました。


私たち過労死等防止対策推進北海道センター(以下「当センター」といいます。)は、過労死等防止対策推進全国センターが、過労死等防止対策推進法(以下「法」といいます。)に定める民間団体として活動しているのと同様に、労働者にとってのディーセントワーク(働きがいのある人間らしい労働)の実現を目指すために、過労死等防止対策を地方においても推し進めるための活動をしています。

 当センターとして、貴省の提案する「過労死等の防止のための対策に関する大綱(改定案)」(以下「本改定案」といいます。)に関し、法の趣旨に従って改定を行っているものと評価しますが、現状は、大綱における過労死等の根絶に向けた具体的な防止施策を打ち立てていくという従前の行政手法そのものの正統性は揺るがないとしても、この現状は、その内容が必ずしも実践的ではなかったことを意味していると考えます。

法制定から10年を経てもなお、過労死等について、根絶を実現できていないどころか、その確たる見通しを示すことができておらず、その増大を食い止めることができていない実情を踏まえて、近い将来に根絶を確かなものにするための強い姿勢を反映したものとして策定されるよう、別紙の通り、より過労死等防止に向けた踏み込んだ内容を盛り込んでいただくことを求めます。

 

 

(別紙)

本改定案に関して、以下の通りの修正・追記、ないし再検討を行うことを提案します。

1 はじめに

過労死等は大綱改定案のいう通り「本来あってはならない」のであり、私たちが求める社会にとっては大きな損失である(第1、1頁)。

法が、過労死等が亡くなった本人だけの問題ではなく、社会にとっても損失であることを明記したことを記載しているが、その「社会」には何が含まれるか。人口減の日本国における労働人口が減少するということだけではない。

過労死等を発生させることは、とりもなおさず当該企業の社会的価値を下げることになるのだということを、改めて何度でも指摘したい。

このことを、大綱の姿勢として、改定案の冒頭において、明示するべきである。

企業においても、過労死を発生させた場合に企業の社会的価値を下げることにつながり得ることから、過労死等を防止することはとりわけそれぞれの企業や投資家にとって重要な問題である。過労死を発生させた企業に対しては、コンプライアンス遵守が不足していたと評価するにとどまらず、企業CSRの欠損を指摘せざるを得ない。

このことの啓発は最も重要な事柄であり、本改定案のはじめを「過労死等は、本人はもとより、その遺族又は家族にとって計り知れない苦痛であるとともに、社会、なかんずく当該過労死等を発生させた企業にとっても、大きな損失である。」とするべきものであると考える。

そして、これらの認識は共有されているであろうにもかかわらず、60時間以上の時間外労働を続けている労働者数として目標値であった5%を下回る気配すら見せない。

かかる事態の打開に向けて、国が具体的な数値目標や施策の検討をしているとは思われない。

あるいは、この点に関連させて、医師につき本人にとってはもとより医療の質・安全確保にとって重要である、と述べるところは(第3-1⑴、15頁)教育を受ける権利を保障するという見地に立つとき、今日では教員についても強くといえることではあるので、27頁以下の当該箇所での教員についての指摘を重ねておくことが望ましいと考える。

2 統計方法について

 労働時間の統計をとる場合、男女別統計の確認が不足していると考える。短時間労働者や正職員であったとしても家庭問題等から時間外労働を敢えて避ける女性が多いことから、男性と女性とで統計を分けて行うべきであると考える。

 勤務間インターバルにつき、「当該制度を知らなかった」との回答者が倍増している。この間の啓発がまったくもって無意味であったということでないのなら、統計方法の誤りがあるのではないか、再検討するか、あるいは何らの間違いがないのであれば、啓発活動の不徹底、教育活動の不十分さがあったものとして検討するべきであると考える。

また、勤務間インターバルを取ることができるためには一定程度の交代要員としての従業員の人数がいなければならないことから、企業規模別の導入状況や統計についても調査するべきであると考える。

 もちろん、過労死等の実態を労災認定事例の量数・内容だけでみるのではなく、認定されなかったものを含む申請事案の内容をも分析して理解するという姿勢(第1-2⑻)は肯認できるものであり、堅持されるべきである。

3 過労死等を減少させる施策について

過労死等を減少させる施策に据えられるべき労働のあるべき姿をしっかりイメージすることが肝要である。そのためには、グローバリズムや規制緩和を進める国民経済の展開という点で共通項を有する西欧、例えばOECDの各国では、過労死等はどんな形で存在するのか、しないのか等ILОの関係部署等の国際機関に働きかけつつ調査研究を深めて、我が国の惨状を国際社会の内に相対化して考察することが求められているのではないか。その意味で、調査研究の対象(第2、調査研究の考え方の項、10頁以下)に先進各国における過労死等の実情と対策の実際を加えるべきである。

4 数値目標の設定について「過労死をゼ口にすることを目指す」(第5、39頁)としながら、その具体的道筋を必ずしも示すものになっていない。原因となる過重労働を防ぐための数値を定めていることは当然のことであるとして、それだけでは「過労死根絶」という目標との関係では、やや腰が引けたものになっているように思われる。

例えば、「向こう5年間で過労死等の労災認定数を過去5年間の平均労災認定件数の75パーセントに減らすことを目指す」などとし、「そのためには、労災認定件数が多い業種・職種について○○する」という実践的なものでないと根絶につなげることはできないのではないかと考える。

5 「第2 過労死等の防止のための対策の基本的考え方」について

⑴  過労死等防止対策推進シンポジウムの位置づけに関して

  「過労死等防止対策推進シンポジウムへの参加をさらに強力に促していく」として触れているが、シンポジウムの主催者側の姿勢こそが問われているのである。

  民間企業や、あるいは地方自治体・国の人事労務を担う管理職(たとえば、北海道のシンポジウムでは医療機関の管理職の参加は得られていない。)が、本気で当該職場を変えるための参考にするために参加することが必要なのである。

  シンポジウムにあたって、委託企業から経営者団体に対してチラシを送るのみではなく、各地方労働局が音頭をとり、各地域のコーディネートを行うようなシステムを構築するべきである。

⑵ 予算措置について

  各地域・職場などにおいて、具体的な過労死等の調査研究、啓発、相談体制の整備をするためには、国からの予算措置が不可欠である。

⑶ 人材確保措置

産業医、産業衛生スタッフの確保は容易ではないことから、この確保に向けた措置も行うべきである。

 

6 「第3 国が取り組む重点対策」について

⑴ 「1 労働行政機関等における対策」について

  大綱を作り、それを実現・推進するには、それに見合う人的・組織的な担保が必要である。

厚生労働省の職員、とりわけ地方労働局担当職員の増加をさせる努力がなされていない点の記載が不十分である。公平中立に業務に当たることのできる公務員が、労働監督業務を行うために必要な権限や強制力を背景にして労働監督業務にあたるべきである。

本改定案の頭書に方針を記載することでも構わないが、具体的な対応策として、本項目⑴の冒頭第1文に、「監督指導等を徹底し、また、それに必要な労働基準監督官の増員を図る。」と入れるべきである。

⑵  36協定について

  本項目1⑵に「36協定については、労働基準監督署に届出があった際の助言、指導を強化すること等により、事業主に対し、労働者に36協定の内容を周知させることを徹底する」との記載があるが、そもそも36協定は労働者の過半数代表者との間で締結するものである。

  そのため、その過半数代表者の民主的選出がなされていれば、むしろ労働者は36協定の内容を当然把握するはずであり、そうでない実態が推察されるのであれば、実態の調査を行い、これを公表するべきである。

したがって、「36協定については、労働基準監督署に届出があった際の助言、指導を強化することに加え、労働者に対して過半数代表者の選出について民主的に行われているかどうかの確認を行うこと等により、事業主に対し、労働者に36協定の内容を周知させることを徹底するとともに、適正な過半数代表者の選出に関わる調査活動を行い、この結果を公表する。」とするべきである。

このことは、以前当センターが提言したことはあるが、実現されなかった。

⑶  「2 調査研究等」について

  本項目⑷において、労災補償状況等についての公表について記載している。このこと自体は情報発信として重要なことである。

  しかしながら、法が出来て情報発信を続けていてもなお、過労死等は発生し、その絶対値が大幅に下がったということはない。法も大綱も、過労死等が発生しない社会を目標とする以上、単年度やその前年度との比較をするだけではなく、法施行後、わたしたちの社会が失ってはならないものをどれだけ失ってしまったのかについて記憶し続けることが肝要であると思われる。

そのため、これまでの過労死等の被災者数、あるいは当該過労死等の発生によって低下した企業価値等を計算し、累積した数値を示し、社会における共通理解事項とするべきである。

⑷  国家公務員の使用者ならびに公契約の主体としての国の責任について

  本項目4と5の間に、「公契約の主体としての責任」として、「国もまた、国家公務員の使用者であるという前提で公務員の労働時間削減の責任を負うこと、公共事業の発注者として過労死等防止の責任を負うとの自覚に立って、使用者・いち事業主ならびに公契約の主体として、人事院等に完全に委ねることなく、長時間労働の削減に向けた取り組みを徹底する。」と挿入するべきである。

  また、事業主において、過労死等を発生させることが企業価値を損なうことの帰結として、国の立場を表明するべきである。具体的には、「公契約の入札への適正性を判断する要素として、過労死等の防止対策を採っているか否かを盛り込むこと、過労死防止措置を講じていない企業や、過去に過労死等を発生させた企業については消極的に評価すること、反対に、過労死防止シンポジウムへの参加や、管理職に対する過労死防止のための研修を実施した企業については積極的に評価するという基準を設けることを検討する。」と挿入するべきである。

⑸  働き方の多様化を前提とした制度設計を推し進めること

   本改定案では、「多様な働き方について、その労働環境の状況に応じて」取組を推進するとして、新しい働き方への対応を記載している。

   この記載は評価できるが、机上の空論にならないよう具体的目標なり指針なりが示されるべきである。

   すなわち、テレワークは、「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」などにも記載のあるように、これまでの事業場での働き方とは一線を画するものである。そのため、その周知徹底が不可欠な労働形態である。

しかしながら、実情を見れば、徐々に浸透した労働形態の変化ではなく、コロナ禍において、急激に推し進められた変化であることから、労使双方において理解が行き届かないことが容易に想定される。

   そのため、本改定案の具体的な適用にあたり、ガイドラインについての労務部門での十分な理解がされていることをテレワークを採用するにあたっての助成金支出の要件とするなど、特に中小企業に対する周知徹底に向けた強力な施策の実施について記載することを提案する。

7 「第4 国以外の主体が取り組む重点対策」について

⑴ 「1 地方公共団体」について

  「地方公務員を任用する立場からの対策を推進(する)」と記載があり、各論として地方公共団体の施策についても記載してあることは評価できる。

しかしながら、地方公共団体もまた、国と同様「公契約の主体としての責任」を負うべき地位にあることから、「地方公共団体もまた、地方公務員の使用者であるという前提で公務員の労働時間削減の責任を負うこと、公共事業の発注者として受託者に対する責任を負うことを自覚し、使用者・いち事業主ならびに公契約の主体として、人事委員会等に完全に委ねることなく、長時間労働の削減に向けた取り組みを徹底する。」と挿入するべきである。

  また、国と同様に、「公契約の入札への適正性を判断する要素として、過労死防止措置を講じていない企業や、過去に過労死等を発生させた企業については消極的に評価すること、反対に、過労死防止シンポジウムへの参加や、管理職に対する過労死防止のための研修を実施した企業については積極的に評価するという基準を検討する。」と挿入するべきである。

⑵ 「2 事業主等」について

  本改定案では、事業主については「国が行う対策に協力するとともに、労働者を雇用する者として責任をもって対策に取り組む。」と改定がされた点については評価したい。努力では足りないのである。

また、過労死を発生させた企業の経営幹部の責務についても具体的に記載されたことについても評価したい。

しかしながら、これでは、過労死などを発生させた事業主や経営者の責任が不明確に過ぎる。過労死等を防止するという法の目的を実現するため、向後数年間に取り組むべき国の目標を定める、という大綱の趣旨に照らして、まず、事業主や経営者の責任を明確にすることが必要である。

  過労死等の発生が、いち労働者や当該企業の労働組合のみの努力で防止できるものではないことは自明であり、事業主・経営幹部の取組が必須である。しかも、実際、多くの過労死・過労疾病の裁判例においては、事業主の安全配慮義務違反・不法行為が指摘されているだけでなく、法人の役員・管理職・上司などの個人責任も認定されている。

企業の最高責任者や経営幹部が、このことを十分に認識し、過労死等の防止のためには、最高責任者・経営幹部が事業主として過労死等は発生させないという決意を持って関与し、先頭に立って、労働者の健康を害するような働き過ぎを防ぐための対策をとらなければならない。

過労死・過労自死を発生させた事業主や過重労働での是正勧告を受けた事業主は、再発防止策の一環として、外部で開かれる研修会に幹部や現場の長が参加すること、時間管理や労務管理の見直しとその結果を報告すること、全社的な研修機会を設けること、それらの取組の実施内容を自社ウェブサイトなどで公表することが求められるべきである。

8 「第5 過労死等防止対策の数値目標」について

⑴  時間外労働の目標値について

  労働時間についての数値目標が記載されているが、むしろ、より積極的に、長時間労働に対する規制を強める記載をするべきである。

  世界保健機関と国際労働機関が2021年5月17日に発表した最新研究によれば、週に55時間以上働くと、週に35〜40時間働く場合と比較して、脳卒中のリスクが35%高くなり、虚血性心疾患による死亡のリスクが17%高くなることが判明している。

  改定された過労死認定基準では、脳・心疾患の発症について、80時間を超える時間外労働が認められる場合に労災が認定され、また、違法な時間外労働の指導を行うのも80時間を超える時間外労働に限られている。

  上記研究などから、国際労働機関の長時間労働の基準は週55時間超(時間外労働週15時間超)とされている。

今後は、現在の法令や認定基準ありきではなく、本改定案の根拠法である過労死等防止対策推進法の目的に沿うように、この知見を過労死防止のための基準として設定して、時間外労働時間の規制が求められていることから、大綱においても、これに言及するべきである。

また、例外業種(医師、建設、運輸等)や、いわゆる名ばかり管理職の長時間労働、ダブルワーク、トリプルワーク、形式的には雇用によらない働き方等、時間外労働の存在が見て見ぬふりをされている状況にあることを問題視したい。

これらの、違法な長時間労働とはされていない労働者に対する長時間労働への施策についても、時間外労働の規制を始めるべきである。

具体的には、「大企業、中小企業を問わず、全企業に置いて週労働時間が週55時間(時間外労働週15時間)までとすることを努力義務とする。」と記載するべきである。

⑵  勤務間インターバルの目標値について

  本改定案が引き続き勤務間インターバル制を取り上げてその意義について述べる点は評価する。

しかしながら、①令和7年までに勤務間インターバル制度を知らなかった企業割合を5%未満とすること、②令和7年までに勤務間インターバル制度を導入している企業割合を15%以上とすること、そして、③特に、勤務間インターバル制度の導入率が低い中小企業への導入に向けた取組を推進するとしているにとどめているのは、目標とする基準があまりにも低いと当センターが評価していたほどであった。

つまり、数値目標については、当然に達成できる目標を掲げるにとどめて、野放図に達成期限を延期したのみとしかいえない。

そして、前回の大綱でも指摘があったように、引き続き「大企業の働き方改革に伴う下請等中小企業への「しわ寄せ」」も否定できないことを踏まえると、大企業が適正に勤務間インターバル制度を導入しているかどうかについても監理の必要がある。

  また、努力義務の対象に公務員が含まれるかどうかについても「公務員に対する周知・啓発等の実施」という項目の中で、前回公開された大綱と全く同様に、「勤務間インターバルの確保」とするのみで、明らかとなっていない。

  勤務間インターバル制度の導入は、労働者の命に直接かかわる問題である。そのため、制度の導入について、数値目標を少なくとも現時点で達成するめどがついているような安易な数値ではなく、強力に推し進めて達成させるべき数値にすること、地方・国家公務員にもその必要性は共通であることから公務員も努力義務の対象となることを明示するべきである。

  具体的には、「勤務間インターバル制度を導入している企業割合及び国・地方公共団体の割合を30%以上とする(令和9年まで)。」とするべきである。

3 啓発の徹底

  過労死等防止対策推進シンポジウムは、国費を挙げて全国で行う啓発・知識拡大の機会である。これに対して数値目標を設定する必要がある。

  具体的には、例えば「年に1回以上管理職が過労死防止に関する研修(過労死等防止対策推進シンポジウムを含む)に参加した企業の割合を50%以上とする(令和9年まで)。」いう項目を追加するべきである。

以上