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桑鷹三好の遊び場

第9話 運営の前提1

2024.07.12 08:57

「さて、これから運営をしていくわけだが。まず何をするべきか。そこから決めよう」

「何をするか……」


 既にアナーやガベテナには働いてもらっているため、魔王の専属の教師となっている俺は魔王に授業をしていた。今の魔王は前回のように逃亡するそぶりを見せずに話を聞いている。


「まずだが、この授業では俺が考えたゲームに則って戦術や色々な統治を理解させようとする。これは、小規模の運営でも、大規模の運営でも、運営するという立場に立つとまず見るべきものは同じだという考えから来ているからだ。良いか」

「はい」

「じゃあ説明をするが……」


 そう言って俺は、カードを複数枚並べた。


「基本的にだが、順番類ないし同刻類や共通類と呼んで近い数字のカードを集めようとしている。職業種であれば、場所が近い物を集めようとしている。ここまでは理解できるか」

「はい」

「何故だと思う」

「何故だと思う?」

「ちゃんと理由があってのことだ。出来るだけ属性種なら順番類か同刻類になるように数字が同じものを集めようとしている理由がな」

「え、数字が同じになる物を集めようとしている理由なんて」


「何人か集めようとする際に、出来るだけ能力の近い者同士を集めた方が管理はしやすい。違うか?」


 そこで、何故そこにいるのかと思う人が俺に話しかけてくる。


「ロレア。答えさせないと意味がないだろう魔王に」

「ふふ。この位なら、少し話を聞けば直ぐに分かるだろう」

「凄い」


 ジャシュカも何故か一緒にいるし。仕事をしてくれよ。魔王も答えられてむくれているし。


「それで、運営する側としては出来るだけ数字……というより能力を近い人を集めて仲間として動かしたい。そう言う訳だろう」

「ああ、勿論極論を言えば完成形が成立して1ポイント。そこに加算式で色々条件が加わるから複雑なんだが……能力を同じ人同士で集めたら動かしやすいから集めている。そう言う訳だ」

「どうして?」


 そこで、ジャシュカが疑問を口に出す。


「どうして似ている人同士で集めようとするの」

「これは前提として、人間が陥りやすい勘違いがあるからなんだ」

「勘違い?」

「人間にも得手不得手があり、その上で他の種族の得手不得手も考えないといけない。そう言う事だ」


 俺の言葉に、ジャシュカも魔王も首をかしげたが魔女だけは不敵な笑みをこぼす。


「まず、いきなり前提を崩す様な話をして悪いが。普通冒険者が冒険をするなら役割はごちゃ混ぜにした方がいい。というか、多くの活動で多数の役割を出来るようにした方が普通は良い」

「ん? ん?」

「例えば、剣を持って攻撃する人、弓を持って攻撃する人。仲間を回復する人、仲間を敵から守る人、こんな風に役割自体はごちゃ混ぜにした方がいい」

「でも、今運営するには似た人を集めた方がいいって」


 そこに、実は秘密があるのである。


「運営をする上では能力を近い存在で固めた方がいい。これの意味は他人を集めて運営するなら『共通項のある方が動かしやすい』が正確な意味なんだ」

「共通項」


 ここからが凄くややこしくなるんだな。


「例えば、炎の魔法を扱うとかなら炎の魔法使いを大量に集める。そして、出来るだけその炎の魔法を扱える際の出来ることが近い事の方が動かしやすいんだ。例えば、大量の敵がいる場所であれば大量の敵を相手どれる能力、要するに魔法の威力が大きいを意味している九に近い数字なんかを集めた方が運営をする側は動かしやすい」

「でも、じゃあ水や風や土じゃ炎と一緒じゃ駄目なの」

「駄目じゃない。例えば、数字が今度は同じ物を集めればよい。要するに出来る魔法の威力が近い人同士を集めればよい」

「どうしてそこまで近い能力の人で集めようとするの」


 まあ、これは運営をしようとする側に立たないと似たような人を集めようとする理由ってわかりにくいよな。


「極端な話だが、お前ジャシュカに魔法で勝負を挑む人を集めようとした時どんな魔法使いを集めたいと思う」

「え」

「これはジャシュカじゃなくても良い。強い魔法を使えるドラゴンでも良い、強大な魔物でも良い。何か強い相手に挑もうとした時、もしどんな魔法使いを集める」


 魔王は悩むようにジャシュカを見た後、こう答える。


「炎の魔法使いとか?」

「そう、そう言う事だ」

「え?」

「強い相手に挑もうとしたら、その相手が苦手とする魔法使いを大量にぶつければいい。これが人間の編み出した格上の魔物なんかを倒す作戦だ」

「……それ、作戦なのか?」


 そこで、魔王は質問をしてくる。


「でも、だってそれってジャシュカが……相手がどんな魔法が苦手なのかを知っているから出来る方法じゃないか」


 その通り、ジャシュカはまだ炎や熱を操る魔法に苦手意識がある。正確にはあまりにもあらゆるものへの苦手意識が薄すぎて相性が悪いのに対策をしない、そう言う意味で簡単に弱点を突かれるから苦手意識があるという事なのだから若干ずれているかもしれないが。


「そうだな、普通に考えたら『相手の苦手なものが分からない』状況では致命的だな。一つしか魔法を極めないというのは」

「だったら」

「でも、ゲームを進めれば情報が入ってくるのって分かるか」

「情報が入ってくる?」

「ああ、相手がどんな仲間というかカードを集めているのか。そして、いらないカードは何なのかが分かる。すると、自然と『自分が集めやすい仲間』の情報は大量に入ってくる。おかげで集めやすくなる」

「でも、それじゃあ倒せないんじゃ」


「このゲームで倒す敵ってなんだ?」


「……それは……お前ゲーム不備じゃないのか?」


 俺の指摘、それをした瞬間に魔女からそんな意見が出てくる。


「だって、要するにこのゲームって『未知の仮想敵』に対して対抗できる強い組織づくりを出来るだけ早くしろ。そんなコンセプト何だろう」

「ああ」

「しかし、当の仮想敵の強さは分からない」

「そうだな」

「だから、何でも良いから強い敵を倒せるだけの共通項を集めたグループを複数作れ。そんなコンセプトって事だろう」

「ああ」

「どうしてそんなゲームがまかり通っているんだ?」


 この質問にどう答えるべきか。俺は悩んだ、だが正直に言うべきだと俺は思う。彼女もそれを期待しているだろうから。


「じゃあ正直に言うが」

「ああ」

「まず、このゲームに書かれていないカードというか……人間自体の前提だ」

「人間自体?」


「人間は、出来ることが限られている不完全な生き物だ」