第10話 運営の前提2
「不完全な生き物?」
それに魔女が首をかしげる。
「ああ、カードでいきなり厳密に測り切れるほど人間の能力というのは簡略化出来ない。俺はそう考えている」
そう。魔法の使い勝手さや器用さ、経験値に基づく応用の幅何かによって同じ魔法を使う人でもカード的には同じ属性種の同じ数字の人になるとは限らない。これが現実だ。
「だが、じゃあどうして数字で可視化した」
「目には見えやすいだろう。巨大な魔法か片手で収まる程度の小さな魔法。それを数字に見立てている。感覚的には理解しやすいだろう」
「まあ」
だが、万人が人を運営することの難しさをゲームとして理解しようとする。これを達成するにはある程度の無茶が必要である。その結果が数字による可視化である。
俺はゲーム上では威力が小さいが燃費が良い、威力が大きいが燃費が悪いという基準で数字を割り振っている。だが、実はこのゲーム「どの程度の数字ならどの程度の威力なのか」を定義していないのである。また、燃費とは何ぞやというのも定義していないのである。
「そこまで簡略化しているからなんだ。どうしても無茶が出てくるのだが、感覚的に理解しやすくするには数字か魔法の種類、これを同じものが集められるとよいというしかないんだ」
「未知の敵に挑む際に、ある程度の共通項のある集団で挑まないと倒される」
「ああ、そこは理解してもらいやすいからな」
「ここまで分かっているか、ジャシュカ?」
「分からない」
魔王とジャシュカが追いつけていないのか。これは困ったな。
「あー、魔王お前例えば光魔法が苦手とかないか。後は頭を使うのが苦手とか」
「光魔法には弱いぞ。あと頭も使うのは苦手だな」
「じゃあ、そんなのが何度も続いたらどうだ? ずっと光魔法を浴びせられ続けるとか」
「そんなの嫌だぞ!」
「それが人間の作戦なんだ」
「え?」
「人間は弱い。だから、相手を調べて、知って、苦手な魔法なんかで倒そうとしてくる」
「嫌な奴だな」
「全くだね。でも、だから魔王も倒せるほどの力をつけることが出来るんだ。魔王の苦手な魔法が分かればそこを弱点に攻められるからな」
「なるほど! でもやっぱりそれは相手のことを知らないと意味がない作戦では」
「そこはあれだ、敵のことを知るには魔物より人間は頭いいだろう。いくらでもやり方はあるんだよ」
あ、おい。
「なるほど。納得だぞ」
待てよ!
「ええ、それで納得できるのか」
「変に難しい箇所なんて理解させようとしなくていいんだよ。お前もじゃあ人間どもにこのゲームのそう言う背景とかいちいち説明しまわっているのか?」
「していないけれど」
「でもゲームはやってもらえているんだろう」
「ああ」
「じゃあいいじゃないか。完璧にゲームを理解してもらおうなんて考えなくって」
製作者としては不服だが……まあ良いか。
「じゃあ次に話を進めるが、今は同じ魔法の属性なんかを集めたる際には数字というか能力が近しい物を集めた方がいいと言った。だが、一見すると今度は冒険者の例の時みたいにごちゃ混ぜの方がいいといった事例に関わる場合だ」
「ああ、そう言えばそんなことを言ったな」
「人間は弱い。だから基本的には強い敵に挑む際には似通った属性の魔法使いを集めるなどして対抗している。だが、弱い敵ならそんなことをする必要はない訳だ」
「ああ」
「そうなると、今度の戦い方は『出来るだけ楽に勝てる』戦い方や『安全に勝てる』戦い方になる訳だ」
「ほお?」
多分この感覚は魔王には難しいだろうな。勝負において安全だの効率などを求めた戦い方を魔界でするとは思えないしな。
「例えば、攻撃が得意な奴だけに戦わせる。これが一人だけで出来れば、十分に一人だけが達成できれば同じことが出来る奴が何人もいる必要が無いのって分かるか」
「ええ?」
「例えばだが、賢者が狩りとかを一人で出来るなら他の仲間は狩りをしなかった。でも、他の所で働いて役割を遂行していた。そういったことが出来るなら別にガベテナが狩りを出来るようになるとかは必要ないだろう」
「確かに」
……まあいいや。
「そう言う事、別に一人で十分ことが足りるなら他のメンバーは他の役割をしっかり遂行すればいいんだ。だから、出来るだけ沢山の役割を出来るようになると良い。だが、実はここには落とし穴がある」
「落とし穴?」
「連携が出せるようにするには、結局ある程度の共通項がある必要性があるんだ」
「共通項。またか」
「うん。まただね。これがいわゆる、方角にあたる。要は出身地とかだね」
「出身地?」
「俺達は全員がこうして話を出来ているから違和感ないかもしれないけれど、人間の世界では地域が違うと言葉が違うとか問題があるんだ」
「ええ、何だそりゃ」
魔界ではそう言うことが少ないのか、はたまた何か事情があるのか分からないがこれは凄く驚かれた。
「だから、ある程度共通の地域出身とかは集めないと運営が難しいという事情もあるんだ」
「なるほど」
「そして、最後に職業だが。これも当然のように似た物は集める。これは変わらない」
「似た物を集めてばかりだな。それしかないのか」
「こればかりはそうだな」
それを言われると正直困るというか、実際運営する上ではある程度は同じ人同士で集まってもらった方が管理しやすいという前提に則ってこのゲームは作られているから、そこを指摘されると困る。
「職業種の場合なら。いわゆるギルドや教会という存在が大きいな」
「ギルド? 教会?」
「冒険者や職人、商人など同じ志を持った人たちの集まりだな。そう言う人たちで集まる方が大きな事を一人でやるよりやりやすい。そう言った考えで作られているからな」
「はあ」
なんかいまいちな反応だが仕方ないだろう。
「とりあえず、だからまずは魔王。あなたの方針が聞きたい」
「方針?」
「何か共通の目標というか、どんな魔王軍を作りたい。だからどんな人たちを集めたい。そんな目標だ」
「なるほど」
そして、魔王は考えた後にこう言った。
「私は強い魔王軍を作りたい! だから強い奴を集めるんだ!」
うーん、合っているような、合っていないような。
「ふふ、賢者。お前やはり支配者にはなれないな」
「五月蠅い」