“Polished mind, Polished style” - about KEITA HEIANZA -
「唯一無二の表現者」という言葉で、Stock Room Gallery KOZAが真っ先に連想するアーティストがKEITA HEIANZA氏だ。
ローブローアート、タトゥー、グラフィティといった伝統的なアートフォーマットを踏襲しながらも、その文化の魅力に飲まれることなく彼独自のオリジナリティを見せつけ、アートファンを魅了し続ける。そんな彼のスタジオへおじゃまさせていただいた。
多様な人種が行き交う国際通りの中心にある雑居ビルの3階にKEITA氏のスタジオがある。築50年という建物の時代感と高層階の一室という環境も手伝い、地上の喧騒から遮断されたような空間はスタジオというよりもアジトという言葉がはまる。怪しくて静かだ。
スタジオは彼のインスピレーションの源泉となる参考資料や、これまでの活動や展示にまつわる作品やグッズでいっぱいだ。入った瞬間に鼻血が出そうだった。
デザイナーの父の影響もあり幼少期から絵を描く習慣があったそうだ。
「叔母がマメに取ってたチラシの裏にドクロとか、そういうのばっかり描いてたね。小1のときにスケボーがブームがあって、友達はトラとかシャークとかっていうチョイスの中、俺は真っ赤な背景に死神が鎌を持ったデザインをチョイスした。」
7才前後の幼気な子どもがスカルの絵を好き好んで描いていたら親は心配にもなりそうだが、彼の土台はこの時点で早くも築かれ始めていたようだ。
「家のリビングでソファに座って、画板(あの図工の写生大会とかで使う道具)のヒモを首にかけて絵を描くのが好きで。使いすぎて画板がダメになると弟のやつ使うって感じで…」
↑ 幼少期のKEITA氏がモチーフとなった作品。画板で絵を描く少年が見える。
「ビックリマンの偽物みたいなおかしのシールに『工作員』ってのがあってさ、工作員が何かってのは今となっちゃかわかるんだけど、当時は工作を仕事にしてる人って勘違いしてて『じゃあ俺、工作員になる!』みたいな笑」
中学生ぐらいの年代では「絵を描く=オタク、イケてない」みたいな風潮が漂いがちだ。
KEITA氏もその時期は取り立てて絵というものが自分の中心にはあったわけではなかったそうだ。しかし、同級生たちが様々な自己表現をしていく中で「自分には何があるのか?絵は描くけどそれってかっこいいのか?」という問いに直面する。そんな折に出会ったアーティストが※KAZZROCKだった。(※日本にグラフィティカルチャーを輸入し広めたアーティストの一人。LOS ANGELSのグラフィティクルーCBSの唯一の日本人メンバー)
「高校生の時にたまたま※トゥナイト2でKAZZROCKの特集やってて。かなり衝撃を受けたね。アートをこんなふうにかっこよくみせることができるんだって」(※当時すべての思春期男子の視聴率を稼いでた伝説的深夜番組)
そして、Usugrow、PUSHEAD、Coopといったアーティストの影響も受けつつ、さらにアートにのめり込んでいく。
「本格的に描き出した頃は人の真似をしているという意識が強かったし、うまくアウトプットもできなかった。色使いに苦手意識もあったから白黒だけの絵ばかりだったしね」
そんな葛藤とともに「オリジナルへ向かう」という意識が大きくなっていった。
「グラフィティというカルチャーに足を踏み入れたきっかけは当時の彼女(今の妻)の一言。俺のスタイルでグラフィティーを描いたらきっとハネるって言ってくれて」
なにかとリスクを伴うグラフィティシーンだからこそ敬遠する中で、逆に守るべき人の言葉が後押しとなってストリートに ※[XOJAN(エックスオージャン)] が登場することとなったようだ。(※KEITA HEIANZAの前名義。主にグラフィティライターとして活動していた時代のタグネーム)
XOJANの名称の由来は彼が慕う先輩の一人SJR氏が手がけるアパレルブランドXOSYSTEMのイニシャルを引用し、調味料のXO醤を連想したことから。SHINKA FAMILIARのメンバーだったSOL氏と考えたそうだ。
「ありきたりじゃないネームがよかった。当時シーンの主流だったHIPHOP寄りのグラフィティに媚びたくなかった」
ずっと変わらず彼の表現はストリートというアウトローな文化の中でさらにアウトローだ。だからこそ支持者の温度も熱い。
SHINKA FAMILIARはオリジナルメンバーXOJAN / SOL / NAS / NONG / BRIDGE / MASA / BOMERで結成。ぬりえ、NAINEなどとの親交も厚い。メンバーの出入りもあり現在の構成は初期と異なるが、メンバーの変動も「脱退」とか「加入」みたいな硬いものではなくその時その時のタイミングとノリを受け入れるスタンスを取っている。CREWでなくFAMILIARという言葉がはまるということだ。
「メンバーの入れ替わりとか、そういう名目みたいなものはどうでもいい」
SHINKAは外から人が入る壁も、中から人が飛び出すことのできない壁も作らない。悠々と構えている。それでいて表現するもののビジュアルやマインド、スタンスがユニークで尖っているからめちゃくちゃかっこいい。
「初期衝動的にグラフィティに夢中になってた時は、バイトを終えて瀬長島の防波堤にほぼ毎日通って一晩中描いてたね。そのときに缶のコントロールを肌で覚えていった。当時はグラフィティーを描く上での、ツールやテクニックは教えてもらう物ではないと言う漠然としたルールみたいなものが自分の中であって、CREWの仲間からも習うこともできなかった。またスキルと並行して、独自のスタイルを構築して行く事の重要さと難しさも学んだ。」
この頃はJOE、ESOW、KAMI、といった日本人のグラフィティライターが特に好きだったそうだ。独自のスタイルを築き上げてる表現者たちばかりだ。ホラー / オカルト / SF / アンダーグラウンドカルチャーに起因するコミックや映画もまた彼に影響を与えている。
↑ 倉庫にしまってあったおびただしい数のフィギュアコレクションの一部を見せていただいた。
スタイル&スタンスともに媚びない性格を帯び、シーンと距離感のあったKEITA氏やSHINKA FAMILIARだったが、そのクセのある独特の表現の蓄積にメインストリームが吸い寄せられるのは時間の問題だった。
↑ 2004年のW-OKI Nightのフライヤー
SPEL / ROM / GAZE / NONG / LOOSE QP / XOJAN / BIG ME / BEAVER … こんな総々たるメンツでのライブペイントを拝むことができるのはこの先に不可能だ。
↑ 2008年の初個展 "ENDLESS RAINK" の様子。KEITA氏ウェブサイトより画像抜粋。
ライブペイントやエキシビションなど、コンスタントに実績を重ねていく中で、その表現の媒体はストリートからキャンバスへと移行していく。
「活動のフィールドが広がるにつれて、リスクに対しての責任の重さ、またバンダル行為に対しての初期衝動的な気持ちも薄れていった。」
出来事やそのタイミングがアーティストとしての方向転換のきっかけになることが多々あるのはキャリアを積んでいるアーティストにはよくあることだ。そして彼もまた新たなフィールドに足を伸ばすこととなる。
2011年、2度目となる個展 “KUSTOMKICKS” をGAZE氏が運営するショップRENGAにて開催する際、グラフィティライターとして多くのエピソードを吸収した「XOJAN」の看板を下ろしペインター “KEITA”としてリスタートする。
↑ 2011年、2度目の個展 "KUSTOMKICKS" の様子。KEITA氏ウェブサイトより画像抜粋。
「ストリートの空気感、リスク、缶のコントロール、、、金と時間をかけて得たスキルや経験を纏った [XOJAN] というネームへの未練を断つのに3年ぐらいはかかったかな。今はそんな未練もないし、逆にライターの時に産み落としたキャラも作品に気軽に取り入れるようになった。ネームなんてそのままでもよかったと今では思う。結局やってることそのものの問題だと思うし」
色とりどりなカラーリングでの表現から一転、最近はボールペンを使った作品を中心に展開する。
↑KEITA氏が酎ハイを飲みながら夜のストリートを歩くときに見かける独特な人々をモチーフにしたNIGHT RIDERシリーズが筆者は特にお気に入り。細部がいちいち面白い。
↑2017年、3度目となる個展 "BLACK & WHITE" の様子。白黒でしか描けなかった初期のモチベーションではなく、色彩を扱った数々の作品制作の経験を経て望んだモノクロ作品オンリーの展示会。
マットなゲルインクのペンがメインの画材だったが、最近はペンを滑らせる際の圧力で繊細な色合いを調節することができる油性ボールペンも併用する。ペンの特質を把握して習得しながらその表現に磨きをかけてるそうだ。
作品の裏に潜ませているマインドがニッチかつ絶妙なのはご覧の通り説明不要だが、ブラシペイントからボールペンへの画材の飛び火、画用紙やトイやオブジェといった多様な媒体など、アウトプットの手法においても好奇心旺盛で試行錯誤に時間を惜しまない。
最後に、ここ最近の制作や仕事に向けたスタンスを聞いた。
「俺のスタイルはかなり癖があるから需要としては幅が狭い、だから好きになってくれるお客さんとは永いお付き合いをしていきたいと思ってる。ありがたい事に、仕事を頼んでくれる多くの方が、「好きなように描いてくれ」と言ってくれるんだけど、その言葉に甘えて好きな物だけを描くような事はしたくない、お客さんが俺に期待している潜在的なイメージを多く引き出せるようにじっくり会話しながらプロジェクトを進めるように意識している。」
「お客さんのファッションや話し方、最近好きな音楽や映画、漫画、又はこだわりの数字や好きな言葉など、もちろん SNSもチェックする。それらを全て頭に入れてイメージを膨らます。お客さんの頭の中のイメージが形になった時が一番嬉しい。」
「アーティストとして、今年は東京で個展をやってみたいし、イラストレーターとしては、苦手なジャンルでもトライしていきたいと思っている。」
無策略でその場のテンションで制作、生活するのがアーティストの気質として多い気もするが、その中で彼の考え方はあくまで冷静かつ緻密、そして勤勉だった。ローブロー、タトゥー、グラフィティといったスタンダードなアートフォームをベースにしながらも、なぜか言葉にできないオリジナル感、唯一無二と周囲に言わしめるオーラはそんな彼のスタンスを通過しアウトプットされるからこそ存在しうるものなのかもしれない。
(Interview/Photography/Words by Stock Room Gallery KOZA)
KEITA HEIANZA
WEBSITE: https://www.akps-oki.com/
Instagram: @keitaheianzaillustration