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Wim Wenders ヴィム•ヴェンダース 監督

2015.04.17 19:04

“Wim Wenders Landscapes. Photographs. 4 REAL & TRUE 2”

~迷路に飛び込んだような写真展~

今年ドイツのベルリン国際映画祭で名誉金熊賞を受賞し、『大都会のアリス』『パリ、テキサス』『ベルリン•天使の詩』そして最近バンクーバーで公開された『The Salt of the Earth』など数多くの作品で知られるヴィム•ヴェンダース監督。テーマもなくどこに行き着くか予測ができない監督の映画にファンが多く、不思議な癒し効果もあるといわれている。

「写真」が語る「存在」

ヴェンダース監督は今年8月に70歳の誕生日を迎える。出生地であるドイツ•デュッセルドルフでは彼の誕生記念を祝う写真展がオープン。彼の写真展は1986年に始まり、2006年には小津安二郎監督のロケ地である『尾道への旅』が日本で開催された。「人生の半分は写真」と称する彼のこれまでに温めていた写真80点が一挙にこれまでにない大型フレームで公開された。映画は現実に近づけるため3Dなど特殊技術を使う監督。しかし写真はシンプルなアナログカメラで、ライトや三脚を一切使わないというこだわりがある。「新しい土地に迷い込んだ時、まるでレーダーで導かれるかのように静かで変わった場所に遭遇する」「写真は『今だけ』そこにあるものを見せてくれる」と話す監督が、世界中で撮った写真を披露する。ゆったりとしたスペースで、3D迷路のように行き止まりが何箇所も設けられたデュッセルドルフのクンストパラスト(Museum Kunstpalast)は、そんな彼にぴったりの美術館である。

早朝入館するとそこには彼のパートナーで写真家であるドナータ(Donata)夫人が念入りにライトの調整をしていた。ヴェンダース監督の写真展には必ず彼女の姿がある。そして監督も来館者に混じって静かに鑑賞していた。人並み以上のオーラがあるのであっという間に見つかってしまう。照れ笑いしながら写真撮影に応じてまた移動する。そんな気さくな一面もある。

監督と日本

ヴィム•ヴェンダース監督というと映画『東京画』を思い浮かべる人が多いだろう。彼のおかげで小津安二郎監督を知ったという世代は世界中にいる。2011年の秋に福島を訪れた監督は「どこにいても福島を思い出さない日はなかった」と話した。展示されていた3点の写真はどれも色があせて不思議な正弦波がついている。「見ただろう? あれは持ち帰ったフィルムの写真全てについていた。僕が後でつけたのではないよ」と説明しながら、「目に見えない放射線がついに正体を出した」とも語った。福島の写真の真正面には奈良の竹林から光がきらめく写真が目をひく。監督が静かにカメラを固定する手に蚊の群れがおりてきて「レンズの前に来るな」と願いながら撮った作品だそうだ。

「悲惨な出来事を記憶から抜きとれないなら、この目で見て、その辛さを自分も背負う」。普段からそう話している監督は福島以外にもニューヨークやエルサレムの被災地へ足を運んでいる。しかし、今回展示されている写真は悲惨さや悲しみを訴えるのではなく、優しい光があり、監督の愛情が注がれているようなものばかりだった。そして会場を大きく占めるのはおなじみの小津映画の舞台となった広島県尾道(おのみち)市の写真8点。「小津監督の映画には人生のメランコリーが全て含まれている。東京物語が多分僕自身の映画史の中で一番好きな映画だと思う。あれだよ(指をさして)、尾道。僕はどうしても自分の目で見たかったんだ。」と語ってくれた。「失われた楽園の領土」と監督がよぶ尾道では「夜歩きながら聖地に着いた気持ちになった」そうだ。

ヴェンダース映画に出てくる風景を再び写真で見る。今まで見たことがないほど大きな写真の真中に立つと、目の前にその風景が広がる。まるで監督の横で一緒に見ているかのようだ。彼は何も言わないし、自分も何も言わない。そんな静かな雰囲気が味わえる素晴らしい個展だった。

Wim & Donata Wenders - Places of the Mind

夫婦で味わえる旅写真がいっぱい

ご存知の方も多いと思いますが、2005年にヴィム•ヴェンダース監督と奥様のドナータ•ヴェンダースさんが、小津安二郎監督の『東京物語』を追って広島の尾道を訪ねました。あまりの感激から二人共写真を撮りまくり、ついに夫妻共同の初個展『尾道への旅』が開催されました。それから10年があっという間に経ち、今度はパリで二人の第2回目写真展が開かれています。

まず個展に関係のある、今月ヨーロッパでプレミア公開される『Everything Will Be Fine』という3D映画を紹介します。最近ドキュメンタリー映画が多かったので、監督のドラマは7年ぶりです。主演は今最も注目されているジェームズ•フランコさん。雪の降る田舎町を運転していたライターのトーマス(フランコ)は、不注意から一人の子供を死なせてしまいます。取り返しのつかない罪を抱えながら生きるトーマスと、子供の死から未だに解放されない母親ケイト(シャーロット•ゲンズブール)、そして被害者の弟である少年との12年ぶりの再会に焦点があたります。辛い過去を受け入れて人は幸せになれるというヴェンダース監督らしい優しい映画です。

個展はこの映画のロケーション地と同じ、カナダのモントリオールなどケベック州の風景が中心です。ヴェンダース監督はやはり大きな風景を写していました。こんな場所へ行きたくなります。

奥様のドナータさんは以前京都で着物を着た女性を写していました。今回もやはり人、ジェームス•フランコさんを激写しています。フランコさん、実はかなりの勉強オタク?なんです。現在ニューヨーク大学の演劇教授ですが、同時に博士号の勉強もされています。彼は撮影中も毎日、本を読んでいたそうです。

ところが今回写真の彼はいつもと違いました。被写体としてはかなりハンサムで、凹凸があり白黒がとてもよく似合います。さすがドナータさんの写真です。この静かな、ジェームス•ディーンを思わせるフランコさんをずっと見つめたくなりました。

ウェンダース監督についてはまたレポートします。