ショートショート 301~310
301.子供の頃、私は何処から持ってきた生首を大層気に入り大事にしていた。
しかし毎晩鬼や天狗等の妖怪が泣きながら「返してくれ」と悲願するので、その首の一束の髪を貰い、返した。
そんな冗談のような記憶で今は生首の顔も覚えていない。だが桐箱に入った美しい白髪は確かにここにある。
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302.「私の秘蔵のハーバリウム室です」
そう言って通された奥の部屋には、瓶に入れられた、ホルマリン漬けの生首がズラリと並んでいた。
「花のように綺麗でしょう?
…貴方の瓶はこれですよ」
薬を盛られたのだろうか。
薄れゆく意識の中で私が見たのは、今から私が入るだろう美しい瓶だった。
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303.天気雨が降った。
シャン…シャン…
何処からか音が鳴っている。
音を探していると、
自分の目の前に広がる水たまりの中に
狐のお面を被った人達の行列が映った
波紋が広がる度にシャン…と音がなる
あぁ、狐の嫁入りはちゃんと現代にもあるのだな、と僕は行列を見守った
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304.最近若いキツネの間では、様々な結婚プランを立てるのが流行っており、季節、時間帯、どんな雨を降らすか、また天候はどうするかなどカップル同士で相談されているそう。
今一番人気は、春の早朝に伝統的な天気雨を降らせ、桜と、少しの虹を散らす事だという。
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305.同窓会でタイムカプセルを掘り起こすことになった。
穴を掘っていくと地面からオルゴールの音がする。
それはカプセルの中からだった。
開けると、それは皆が卒業記念に作り手紙を入れたオルゴールボックス、その全てが一音もずれずに奏でていたのだ。
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306.お土産に貰ったオルゴールを回してみると、私への恨みつらみが流れ出した。
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307.夜行列車に乗った。
海面の空高くに光る銀の月はひんやりと、程よく冷たい。
全てを愛す故全てを愛していないような、生も死も善も悪も止めず眺め、見守るような、ただ、全てを受け入れてくれるような透明がある。
銀に光るこの個室は、懺悔室のようだった。
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308.君が死んでから、僕の周りに虫が現れるようになった。
「あの子の生まれ変わりかもね」
お母さんがそう言ったから、僕は虫を潰した。
虫なんかになってないで、早く人間に生まれ変わってくれよ。
頼むから。お願いだから。
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309.私の村の葬式では、亡くなった人を麻の袋に入れ木に吊るす。
するといつの間にか蝶のような蛾のような虫がその遺体に卵を産み、
1週間ほど経つとその虫が袋を破り、大空にはばたくのだ。
それはまるで蛹から孵ったようだった。
ただ違う村ではその虫を不吉の予兆として忌み嫌っている。
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310.カマキリを十何匹も捕まえたので学校へ持っていき、クラスで飼うようにしたのだけど、気が付いたらカマキリが1匹だけになっていて、
クラスの人達がおかしくなったのはそれからだと思う。