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博物館の入館料はアリかナシか

2024.07.17 08:50

薬用石鹸ミュージアム!

 博物館法の一部を読んでいて久しぶりに中学生時代に習った英語のGRAMMARという文法の教科書を思い出した。Not that I can't play the guitar, but I don't like to play in front of a lot of people.ギターを弾けないことはないが、みんなの前で弾くのは嫌なのだけど。消極的肯定っていうやつである。言い換えれば、みんなの前で弾くのは嫌だけど、ギターを弾けないことはない。つまり、結論としては、弾ける、のだ。

 博物館法第26条には「公立博物館は、入館料その他博物館資料の利用に対する対価を徴収してはならない。ただし、博物館の維持運営のためにやむを得ない事情のある場合は、必要な対価を徴収することができる。」と定められている。公立博物館の入館料の徴収は消極的肯定であるようだ。そんな煮え切らない条文ではなく「公立博物館は、維持運営に必要な入館料等を徴収できる」とすれば良いと思うのだが、それがなかなか一筋縄にはいかないことのようである。

 博物館法第3条に列記されているように、博物館は「社会教育における学習の機会を利用して行った学習の成果を活用して行う教育活動その他の活動の機会を提供し、及びその提供を奨励する場であること、博物館の事業に従事する人材の養成及び研修を行う場であること、学校、図書館、研究所、公民館等の教育、学術又は文化に関する諸施設と協力し、その活動を援助すること、地域振興や観光資源などの役割」等の機能を擁するとされる。そのことから博物館法の改正に反対する議員や関係者が存在するという。要するに、博物館は営利施設ではないから市井の経済活動とは一線を画するべきだと考える人たちも少なからずいるということである。彼らの主張はあくまでも「博物館は入館料を徴収してはいけない」という条文を堅持すること。現状において入館料を徴収しているのは「やむを得ない事情がある」ことから、徴収したくないがやむなく徴収している、という状況だという認識を崩さない。「国民の教育、学術及び文化の発展に寄与する」という理念は崇高で尊い。

 一方、博物館法が制定された昭和26年と現在では社会状況が大きく変わっている。国立東京博物館は令和2年に一般の入館料を620円から1000円に値上げした。このことに対し多くの意見が寄せられ国立東京博物館は説明文書を公開している。当該文書には「博物館の維持・運営をする上でのやむを得ない理由など書かれていない。フランスのルーブル美術館は15ユーロ(約2500円、2024・07・17現在)、スペインのプラド美術館も15ユーロ、オーストリアのウィーンの美術史美術館は16ユーロ(約2650円)、オランダのアムステルダム国立美術館は20ユーロ(約3400円)、アメリカのメトロポリタン美術館は25ドル(約3850円)であり、海外の同型施設は国立東京博物館の数倍の入館料を徴収していることを殊更にアピールしている。また、海外では稀である高齢者の入館料を無料としていることから教育機会の均等に対する配慮をしていると主張する。博物館法第26条を鑑みると理由になっていない理由を主張していることになるがそれだけ博物館にとって自主財源が重要になっていることが窺われる。

 昨年11月には国立科学博物館がクラウドファンディングを実施し、設定した目標額1億円に対し9.2億円を集めたことが話題となっていた。3.2億円を返礼品にあてた残りの6億円を博物館のコレクションの収集や他館との協働や巡回展や災害時の美術品のレスキュー費用に充てるという。国立科学博物館のクラウドファンディングが合法か否かは明らかではない。博物館法にクラウドファンディングの類に係る条項はない。もし、多くの博物館がクラウドファンディングを実施し、それによる収入が恒常的になると法整備が進められる可能性もある。クラウドファンディングによる資金調達を恒常化させるには現行法にある「公立博物館は、入館料その他博物館資料の利用に対する対価を徴収してはならない。」という第26条が大きく壁として立ちふさがる可能性もある。国立科学博物館のクラウドファンディングの成功が後に続く他の博物館の後押しなることに明々白々であるが、それも一時的な現象に終わる可能性も低くない。

 入館料を徴収せずに成功を収めている有名博物館もある。ロンドンの大英博物館である。英語の教科書に登場する有名なロゼッタストーンやモアイ像やパルテノン神殿の彫刻などが無料で見れてしまう。ナショナルギャラリー、テートブリテン、クイーンズギャラリーなども無料で鑑賞できる。大英博物館は800万もの圧倒的なコレクションを誇る。ルーブル、故宮、メトロポリタン、エルミタージュの4大美術館を超える収蔵数である。イギリスでは国の政策として博物館、美術館の解放が国民の福利厚生の向上に繋がるという考えを掲げていることが無料開放の維持に繋がっている。そもそも大英博物館は多額の寄付金などで政府からの補助金がなくても運営が成り立っていたという事情がある。大英博物館の無料開放が英国へのインバウンドの誘客にも寄与しておりロンドンの町全体にも経済効果をもたらしているとされている。

 令和4年に博物館法は改正されている。法律の目的や博物館の事業、博物館の登録の要件等を見直す改正であり、博物館の製材的基盤には触れられていない。現在、博物館と称するものは約5700館あり、そのうち、博物館法上の登録博物館は約900館、博物館相当施設が約370館、博物館類似施設が約5500館となっている。凡そ8割が博物館法の対象外にある。博物館が文化芸術そのものの振興にとどまらず、文化芸術の発信、観光等の拠点として文化・観光・経済の好循環を形成していくことが求められるようになっていることから博物館法の範疇に収まらなくなりつつあることが影響しているのだろう。令和4年に改正された改正博物館法では観光、まちづくり、福祉、デジタル化等、社会や地域が抱える問題への対応など高度化する役割や機能を担うことが期待できるようになっている。とはいえ、博物館の収益構造や経済基盤については手つかずのままである。

 博物館は多くは支出に対する収入が10%未満であるという事業体が多いという。その分、公的な補助金や助成に頼りがちとなっている。その助成金は年々減少傾向にあるという情報もあるがそれは違う。博物館への公的助成は独立行政法人日本芸術文化振興会に一元化されている。令和4年度は振興会に政府から541億円が出資され、民間からの寄付は140億円であり合計681億円が振興会を通じて支給されている。助成の規模は直近5年間において大きな増減はなく応募者の増減で変動しているに過ぎない。その他の公的支援としては固定資産税や所得税、法人税の減免がある。

 公的助成の予算規模がかわらないのだから天下りが少なることも増えることもない。そもそも天下りポストとしておいしくない。学芸員などの人員不足や補助金体質、他館との競争激化などがあり運営は安易ではない。参議院調査室のレポートによると博物館の館長のうち、行政職出身者が占める割合は、37.5%と全体の3分の1以上に上り、学芸系職員出身者(27.5%)を上回っているという。官庁ポストの天下りは決して少なくない。だが、別段、既得権益だとは思わない。

 さて、最後に私が博物館の入館料に対して抱く最大の疑問を記しておく。多くの博物館は、特に公立の博物館は公的な助成金を受け取っている。助成金は独立行政法人日本芸術文化振興会を通じて交付されるが、原資の8割以上は政府から支給された資金であり、ひいてはそれは国民から徴収した税金である。多額の税金を交付されている博物館が国民から入館料を徴収することは、国民から税金と入館料の2回の負担を強いていることになるのではないだろうか。本来、「無料」であるはずの入館料が「やむを得ない事情」によって徴収され、併せて博物館に税金も投入されているとなるといささか負担が過ぎるのではないか。英国のように完全無料化を進めようとまでは言わないが、博物館によるクラウドファンディングの積極的かつ恒常的利用を推進することや、公立博物館についてはふるさと納税を利用した自治体による支援やガバメントクラウドファンディングの活用を推進してはどうか。

 博物館の多様化、高度化、複合化などを進め「歴史、芸術、民俗、産業、自然科学等に関する資料を収集、保管、展示する」という枠を超えた機能を付加することで付加価値を高めて収益構造をリノベーションする必要があろう。ブランディング、グッズの充実、カフェ展開、タレントやキャラクターや映画やドラマとのコラボレーション、他館との協働イベント、企画コンテストや出張企画展示やサブスクリプションなどできることは何でも取り組み企業体として収益力を磨き独り立ちを目指すべきだ。公益という印籠を翳しさえすれば予算がついてくる時代は終わったのではないか。

 博物館法第26条は「博物館は維持運営に必要な入館料等を徴収できるとともに広く寄付を募ること、運営や展示に係る収益事業を行うことができる」という内容に改正するべきだ。博物館も美術館もエンターテインメントの一種になりうるものだと思料する。


参考

博物館法の一部を改正する法律の概要 文化庁

https://www.bunka.go.jp/seisaku/bijutsukan_hakubutsukan/shinko/kankei_horei/pdf/93697301_01.pdf

登録制度を中心とした博物館法制度の今後の在り方について 文化庁

https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/hakubutsukan/hoseido_working/pdf/93293401_02.pdf

山下真奈良県知事「県立民俗博物館の資料が多すぎる。価値のある資料以外は廃棄する」 ツイッター速報

https://x.com/tsuisoku777/status/1811199399466586232

茶請け 

https://x.com/ttensan2nd/status/1754722755889770678

博物館に対する税制上の支援措置 文化庁https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/seisaku/08/wg/bijutsu_01/pdf/shiryo_4_3.pdf

登録博物館・博物館相当施設・博物館類似施設の違い

https://www.city.machida.tokyo.jp/bunka/park/shisetu/serigaya/art_project/serigaya-designbook/designbook.files/shiryou4.pdf

社会教育実践研究センター > 調査研究報告書・基礎資料 > 令和元年度

https://www.nier.go.jp/jissen/book/r01/index.html

博物館法改正とこれからの博物館 令和4年 文化庁

https://www.j-muse.or.jp/02program/pdf/bunkachouforum.pdf

令和4年度博物館法改正の背景 文化庁

https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/hakubutsukan/hakubutsukan04/02/pdf/93734001_06.pdf

東京国立博物館 拝観料について

file:///C:/Users/user/Downloads/%E6%96%99%E9%87%91%E6%94%B9%E5%AE%9A%E8%B3%87%E6%96%99%E3%83%BB%E8%BF%BD%E5%8A%A0(TNM)_20200217.pdf

博物館法改正の国会論議 高野涼子 / 文教科学委員会調査室

https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2022pdf/20220729094.pdf

芸術文化振興基金の助成実績

https://www.ntj.jac.go.jp/assets/files/kikin/joho/r5k-jisseki5.pdf

文化芸術振興費補助金の助成実績

https://www.ntj.jac.go.jp/assets/files/kikin/joho/r5b-jisseki5.pdf

博物館登録制度等に関する調査研究報告書

https://www.bunka.go.jp/seisaku/bijutsukan_hakubutsukan/shinko/hokoku/h22/pdf/r1409577_01.pdf